鬼送りの章 *鬼隠しの子供達*  おろし!! #30 †馬凄蛾凄縛髪(バスガスバクハツ)3†

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くちゅ
くちゅ

くちゅ
くちゅ

 唾液と血液が混ざる。
彼女の口は耐えず動いている。
時折見える白い歯、やえ歯に、血液の赤が糸をひく。
そして、舌の上でコロコロと転がされる。

・・・少しふやけた薬指が目に焼き付く・・・

 高足 痢煙は、バス扉付近、上から彼女を見ている。

白いシミーズが、どす黒い血液に汚れ、荒縄
が彼女の体を縛っている。

しかし良く見れば、所々、荒縄は切れている。
拘束性はすでに無くなりかけているということだ。

・・・呪縛・・封印が切れかけている。

高足 痢煙は、そんな彼女の容姿には目をくれず、
彼女の両手でしっかりと支えられた、バレーボールぐらいの大きさの塊、
その塊をしきりに見つめていた。

相変わらず、後ろでは犬が吠え、陰が舞い、
霧は視界を閉ざしているが、
痢煙には、もはや、そんな光景など、目にも、耳にも入ってこない。

痢煙は、少女の抱える、そのバレーボールぐらいの大きさの塊に気をとられ、
白いシミーズの女の子が、バスの入り口まで来ても、
入り口を空けようとはしない。

その塊が、気になってしようがないのだ。

少女は、バスに乗れないでいる・・・

そこで、少女が少しはにかんで、

「空けてください。この方を乗せたいのです。」

その声に驚いて、痢煙は、彼女の顔を見たが、
彼女の視線は自分にあらずと感じ、すぐに、彼女の目線をたどる。

じい・・・

少女の目線はバレーボールぐらいの大きさのモノ、例の塊に向けられている。

ドキッ・・とした・・・

 彼女の両手に大切に支えられたモノは・・・・

人の首だった・・・男の首だった・・・

男の首が、少女の腕の中に、それは大切そうに包まれている。

その男の口は、半開きで、両目は上を向き、白眼が剥き出しである。

醜い眼の血管が際立っている・・・

痢煙も、一度その男の表情を真似をしてみた。
するな(笑)
ふげっ・・変な声が出た・・・

そんな痢煙を冷たい目で一瞥し、

「あなた・・運転手さんが困っていますわ・・・」

運転手は、非常に困っていた。非常に困っていた。

しかし、オカシイことに進行ルートが変ったのに、
もう一度、進路を元に戻そうともしていない。
その事から、突然のルート変更に困っているわけではない・・・

そう、知ってのとおり、痢煙に困っているのである。

当の本人に、その事を察知する能力はないであろうが・・・
失礼な〜(笑)

「その首、カッコイイネ・・・もっと見せてよ。」

案の定、そんな運転手なんか、高足痢煙にとってはお構い無しだ。

く・・ちゅ・・・

シミーズの少女は、口を動かすのを止めた。
すると、手の中の首が、

『し・・・ば・・り・』

と呼んだ。

掠れるような声だった・・・

すると、シミーズの女の子は、『はい』と返事し、その首を撫でた。

愛しい人を撫でるかのように、髪をすく・・・

手の中の、首の前髪がフワッと上がる。

彼のおでこには『生贄』の『贄』と言う文字だけが
クッキリとうつっていた。

高足 痢煙は、眼を細める。

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・

またしても読めない・・・・
読める!

ほんの数分前に、ふり仮名をワザワザふってもらった
というのに・・・

『アレ?見覚えあるなあ。んで、それ、なんて読むの?んと、しばりちゃん。』

勝手に名前を呼んでいる。

もう、友達である。

一度、会えば友達だという人も居るが(勝手に)
高足 痢煙は、それの上を行く人間であろう。
彼女の好奇心には、恐怖すら制御、恐怖すら跪くみたいな、
そして、その今までの恐怖すら忘れる性格だから、

平気に化け物に語りに行く・・・

そう、自らである。自ら、化物に接触してゆく・・無理矢理に・・・

ああ・・おそろしいことだ・・・。

『しばり』は、再び口を動かした。もはや、呆れているのか・・・

「あっ、ごめん。ごめん。乗るのね、このバスに。はい、どうぞ。」

今ごろ気がついたようだ。
痢煙にとって、こういうことは、よくあることだ。
そう、よくあることだ。
ないよ(笑)
それにしても、危機感もすでに忘れたのか。
何故、逃げないのか痢煙。
逃げるのなら、扉が開いた、今が絶好のチャンスだった筈。
先程、理解したではないか、このバスの行き先を・・・
逃げないと・・・そのチャンスは・・今の筈・・・

そうと、だれもが思っている。

逃げたくても、逃げることができない、酒野 肴。

声を出して話す事も出来ない、酒野 肴。

彼女の心は、伝わらない思いでいっぱいである。

『今、私をつれて逃げたらいいのに・・・』

届かない思いであろう・・・ああ、痢煙には届かない・・・

彼女の運命は高足 痢煙に委ねられているというのに
当の本人は『しばり』に夢中である。

「セクハラ」発言を撤回しとけば、この辺りの話しの展開も
変わって来たんでしょうねぇ、たぶん。

ブガガガギーン・・・・ブシュゴーン・・・ヒヒーン

ようやく、バスの扉がしまる。
しばり は、近くの席に座った。

後をつけるようにして、しばり の席の前に高足 痢煙は、しゃがみこみ、
『贄』と書かれた首に、案の定、ちょっかいを出している。

「さっき、この首しゃべったよね〜ねえ、もう一回、お話して〜お願い♪ねっ」

しばり は、そんな痢煙を無視しながら、
口の中の指をおいしそうにペロペロと舐めている。

ガタッ・・ガタ・・・

バスはまた、激しく揺れだして、『無限坂』を目指す。

もう、犬の泣き声は聞こえない。

霧は相変わらず視界を閉ざし、
街灯の明かりは、もう車内には入ってこない。

車内は今まで以上に暗い。

首のない乗客の影が異様な世界をかもし出し、
男の首を持つ、白いシミーズの女『しばり』と、
首が千切れかかっている 酒野 肴と、
あの事件、錐女の事件から復活して、
ますます壊れた 高足 痢煙の奇妙な馬凄(バス)旅行は、まだまだ続く。

旅は道ずれ・・・というが・・・はたして・・・どうなるのだろうか・・・

もうすぐバスは『無限坂』。
その時、急に踏み切りの音が鳴り出した。

だんだんと音は大きくなってくる・・・

点灯する赤色のライト。
窓から、赤い光りが差し込む・・

頭に突き刺さる、この音。

カンカンカン・・・

そう・・・電車が来る。電車が・・・

馬が嘶き、バスが急停車する。

キキキキキ・・・ガガガガガギギギギギ・・・

ホイールが火花を散らし、ガリガリと道を削る。

「ああっ!!ひえ〜っ・・・・」

ゴロゴロゴロ・・・・

転がる、高足 痢煙。
だが、彼女の眼は、笑っていた。

その眼は・・・
その眼は、次なる刺激を求めた眼であった。

しかし、どんどん阿呆になって行く痢煙
そのモデルが私だって事に、喜んでいいものやら(笑)


つづく・・・