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ピュルルルル・・・
ピュルルルル・・・
ピュルルルル・・・
「出てくれない・・・・か。痢煙さん・・・」
いつの間に、携帯番号を知ったんや(笑)
赤悪欲照は携帯の電源を切った。
朝にカットされた指毛は、もう、風になびくほど伸びていた。
「何で、あ、あの方が、あ、赤神なんかに・・・ああ〜くそ〜っ・・・」
あの後から、自分でも異様に気が荒れているのが解る。
なにか、イライラと胃の下辺りから湧き出てくるイラダチ・・・
くっ!!
無性に手の甲が痒くなった。
赤悪欲照は、爪を立てムサボリ掻く。
ジョリジョリと体毛が擦れる音がする。
しかし、痒みは、まったくひかない・・・
それどころか、掻きむしれば、むしるほど、痒くなる一方だ。
イライラする・・・カユミが苛立ちをよりいっそう強めてゆく・・・
あの夕焼けすら腹がたつ。
ちょうど、赤い赤い太陽が、西のビルの陰に沈もうとしている。
赤悪欲照には、あの燃えるような赤が、赤神の髪を思いだすのだ。
「クソ〜。あいつの髪の毛を触った時か?んっ、あいつを叩いた時から、
手が痒くなったんや。ぜったい、アイツの頭には、ノミいるで!!クソ〜感染したぞ〜!!」
黄昏時、
あと一刻もしないうちに、完全にあの太陽は沈むであろう。
小さな羽虫が、ワイワイと飛びさかり・・・黒い塊になる・・・
そして・・人の声で何かを囁き出す・・・
歩く人々の意識外の記憶へ語る・・・
それは、雑踏の奏・・・
---- 黄昏は古くから逢魔刻(おうまがとき)と言う。
しかし、このように呼ぶ者は少ない。
この御時世、我々が想像する物の怪が跳梁跋扈するほうが貴重なのだ。
---- 知っているわ・・何度も聞いたもの・・・
しかし、現代でも、物の怪などの怪異と呼ばれているモノは、
今でも、人々の心に深く根付いている。
---- 怪異としか、我々の言葉では言い表せない事。それは恐怖の卵・・・
頭では、怪異など、この世には無い、
起こりうるハズが無いと思いながらも、
心の奥底では、恐怖し、暗がりに浮ぶ陰たちに怯える。
----強がりばかりを言うんじゃありません・・・
そう、まるで、そこに何かが存在するような錯覚におそわれ、
自ら、恐怖を作り出して、その現象から逃げようとする。
---- そして、その愚かな人間はどうなるの?・・・
そして、それを物の怪が現れたという事に摺り替える。
なぜなら、恐怖した自分を、正当化するため、物の怪という、
非現実的要素を論じる事で、人々から、自分が小心ものという事を
隠す事ができるからだ。
---- 生まれるわ・・その人の卵が・・・
そう、一種の隠れみのである。
自分は能力者、怪異を見る事ができる人間と言う事にして・・・
---- それも一つの手段だけど、黄色い目で見られるわ・・・
怪異と呼ばれるモノに遭遇するのは、自分自身。貴方自身である。
遭遇者の意識の問題・・・それが、怪異か怪異では無いかを決定する
重要な要素であるのだ。
この文明社会において、怪異、怪奇、幽霊等というものは、
そう笑いの種にしかならないのだ。
テレビの特集でしかすぎない・・・そういう意識が渦巻いている・・・
---- あはははは〜笑ってるわ。あの人も。あの人も。でも・・・
みんな、卵が孵化しそうになってるよ・・・
しかし、軽はずみな言葉、信念がこのモノ達の存在を決定し、
今もなお、見えざるモノ、見えるモノ達は蠢いている・・・
----恐怖という薄いオブラートに包まれて・・・わたしを包むわ・・・
----これは、本当の怪異では無いのよ・・・
そう、これはただのキッカケにしかすぎない・・・
----恐怖する事は、怪異の前兆なの・・・だから・・・感じて・・・
恐怖は、怪異に通じるが、それが怪異の全てではない。
----じゃあ、わたしたちは何・・・
怪異は怪異であるがゆえ、人智を超えているモノである。
しかし・・・そうでないとも言える・・・
どちらでもないもの・・・その、どちらでもないもの・・・
・・・が・・・お前だ・・・
ただ、言える事は、昔の怪異の現われと、
どうやら、形をかえて、この現代に息を潜めているようである。
----心の中にある鬼が・・見えますか・・・・
頻繁に増加している凶悪犯罪と言われている中にも、ソレは潜んでいる。
科学という言葉で、脳をごまかしても、彼等は、人に憑くのだ・・・
----科学もソレの卵にな・・る・・の・・・
羽虫は、飛び去ってゆく・・・
人々は、何ごとも無かったかのように歩いている・・・
赤悪欲照も、その中の1人であった・・・
黄色の世界・・・
今日はやけに異様な空気が、この街を取り巻いてる。
化け物を信じなくとも、今日の、このどんよりとした空気、
かつ、何か騒々しさまで感じてしまうこの空気は・・いったい・・・
その、どんよりとした、禍々しき空気は、ある男を中心に渦巻いていた。
赤悪 欲照を中心にして・・・・
赤悪 欲照の手、先程から掻きむしっている方の手には、
『厄』という文字が、くっきりと浮かび上がっている。
しかし、その事に彼は気づいていない。
そう、先ほどから、しきりに掻きむしっているだけである。
その文字、染みは、掻きむしる度に、どんどんと濃くなってきている。
「なんなんだ、この痒さは・・尋常じゃないぞ・・くそっ。」
黄昏の黄金の光が作る陰に、夭かし(あやかし)が、
ゆらゆら とゆれ、赤悪欲照の肌に滑り込んでいく・・・
それは、凄まじい数の、夭かしなのだが、
それに気づく者は、誰一人いない。
時折、背中を、何本もの針で刺されたような痛みを感じる。
目に見えない、無数の夭かしが、欲照の背に爪を立ているのだ。
赤悪 欲照は、それを捕らえる事ができない、蚊を払うように手を振る。
なぜなら、赤悪 欲照は、その霊が見えていないのである。
ただ、手を振るだけである。
その手に払われて、幾つかの夭かしの身体が千切れる。
そしてまた、ゆっくりと繋がってゆく・・・
それは、まるで、蚊取り線香の煙りを、手で払ったかのように、
夭かしは、赤悪 欲照にとり憑いてゆく・・・
その事に、彼は、まったく気づくことなく帰路を歩く・・・・
時間の経過とともに、だんだんと、夭かしの数は増えてゆく・・・
彼が歩けば、まるで蛞蝓(ナメクジ)が通った後のような
ヌルヌルとした道筋がのこる。
もちろん、普通の人間にはそれは見えていない。
夭かしが、数多になって彼の足にとり憑き、
その濡れた道筋をつくる。そして、後に魔を誘う・・・
そう、この濡れた道筋は、魔の通り道となって、
彼の家へと繋がったのだ。
----それを見ている。
黄昏の陽が、顔を朱に染めている。
自ら印を解き、一枚の呪符を飛ばす。
それは、この生温い夕風に乗り、
赤悪欲照の宅、その玄関前にひらひらと舞い降りた。
『鬼よ行け・・・』
小さく響いた・・・
その瞬間、風はフワ・・・と吹きだした。
陰に潜んでいた男の赤い髪が風に吹かれた。
白い美しい顔が一瞬、あらわになる・・・
そして、ゆるりと踵を返し、雑踏の中へと消えていった。
今夜、彼の家で何かがおこる。
玄関前に、残された『鬼』という文字が書かれた符に、
無数の夭かし達が群がっている。
それは、黄昏れの陽の中で、白い半透明なモノタチが、
これから来る夜を待ち遠しく思っているかのように、
ゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいていた・・・
夜はもうすぐだ。
厄が降りそそぐ・・夜は・・・
つづく・・・