鬼送りの章 *鬼隠しの子供達*  おろし!! #26 †鬼送り 二夜目†

--------------------------

ピュルルルル・・・

ピュルルルル・・・

ピュルルルル・・・

「出てくれない・・・・か。痢煙さん・・・」

いつの間に、携帯番号を知ったんや(笑)

赤悪欲照は携帯の電源を切った。
朝にカットされた指毛は、もう、風になびくほど伸びていた。

「何で、あ、あの方が、あ、赤神なんかに・・・ああ〜くそ〜っ・・・」

あの後から、自分でも異様に気が荒れているのが解る。
なにか、イライラと胃の下辺りから湧き出てくるイラダチ・・・

くっ!!

無性に手の甲が痒くなった。
赤悪欲照は、爪を立てムサボリ掻く。
ジョリジョリと体毛が擦れる音がする。

しかし、痒みは、まったくひかない・・・
それどころか、掻きむしれば、むしるほど、痒くなる一方だ。
イライラする・・・カユミが苛立ちをよりいっそう強めてゆく・・・

あの夕焼けすら腹がたつ。

ちょうど、赤い赤い太陽が、西のビルの陰に沈もうとしている。

赤悪欲照には、あの燃えるような赤が、赤神の髪を思いだすのだ。

「クソ〜。あいつの髪の毛を触った時か?んっ、あいつを叩いた時から、
手が痒くなったんや。ぜったい、アイツの頭には、ノミいるで!!クソ〜感染したぞ〜!!」

黄昏時、
あと一刻もしないうちに、完全にあの太陽は沈むであろう。

小さな羽虫が、ワイワイと飛びさかり・・・黒い塊になる・・・

そして・・人の声で何かを囁き出す・・・

歩く人々の意識外の記憶へ語る・・・

それは、雑踏の奏・・・

---- 黄昏は古くから逢魔刻(おうまがとき)と言う。

しかし、このように呼ぶ者は少ない。
この御時世、我々が想像する物の怪が跳梁跋扈するほうが貴重なのだ。

---- 知っているわ・・何度も聞いたもの・・・

しかし、現代でも、物の怪などの怪異と呼ばれているモノは、
今でも、人々の心に深く根付いている。

---- 怪異としか、我々の言葉では言い表せない事。それは恐怖の卵・・・

頭では、怪異など、この世には無い、
起こりうるハズが無いと思いながらも、
心の奥底では、恐怖し、暗がりに浮ぶ陰たちに怯える。

----強がりばかりを言うんじゃありません・・・

そう、まるで、そこに何かが存在するような錯覚におそわれ、
自ら、恐怖を作り出して、その現象から逃げようとする。

---- そして、その愚かな人間はどうなるの?・・・

そして、それを物の怪が現れたという事に摺り替える。
なぜなら、恐怖した自分を、正当化するため、物の怪という、
非現実的要素を論じる事で、人々から、自分が小心ものという事を
隠す事ができるからだ。

---- 生まれるわ・・その人の卵が・・・

そう、一種の隠れみのである。
自分は能力者、怪異を見る事ができる人間と言う事にして・・・

---- それも一つの手段だけど、黄色い目で見られるわ・・・

怪異と呼ばれるモノに遭遇するのは、自分自身。貴方自身である。
遭遇者の意識の問題・・・それが、怪異か怪異では無いかを決定する
重要な要素であるのだ。

この文明社会において、怪異、怪奇、幽霊等というものは、
そう笑いの種にしかならないのだ。
テレビの特集でしかすぎない・・・そういう意識が渦巻いている・・・

---- あはははは〜笑ってるわ。あの人も。あの人も。でも・・・
  みんな、卵が孵化しそうになってるよ・・・

しかし、軽はずみな言葉、信念がこのモノ達の存在を決定し、
今もなお、見えざるモノ、見えるモノ達は蠢いている・・・

----恐怖という薄いオブラートに包まれて・・・わたしを包むわ・・・

----これは、本当の怪異では無いのよ・・・

そう、これはただのキッカケにしかすぎない・・・

----恐怖する事は、怪異の前兆なの・・・だから・・・感じて・・・

恐怖は、怪異に通じるが、それが怪異の全てではない。

----じゃあ、わたしたちは何・・・

怪異は怪異であるがゆえ、人智を超えているモノである。
しかし・・・そうでないとも言える・・・

どちらでもないもの・・・その、どちらでもないもの・・・
・・・が・・・お前だ・・・

ただ、言える事は、昔の怪異の現われと、
どうやら、形をかえて、この現代に息を潜めているようである。

----心の中にある鬼が・・見えますか・・・・

頻繁に増加している凶悪犯罪と言われている中にも、ソレは潜んでいる。

科学という言葉で、脳をごまかしても、彼等は、人に憑くのだ・・・

----科学もソレの卵にな・・る・・の・・・

羽虫は、飛び去ってゆく・・・

人々は、何ごとも無かったかのように歩いている・・・
赤悪欲照も、その中の1人であった・・・

黄色の世界・・・
今日はやけに異様な空気が、この街を取り巻いてる。
化け物を信じなくとも、今日の、このどんよりとした空気、
かつ、何か騒々しさまで感じてしまうこの空気は・・いったい・・・

その、どんよりとした、禍々しき空気は、ある男を中心に渦巻いていた。

赤悪 欲照を中心にして・・・・

 赤悪 欲照の手、先程から掻きむしっている方の手には、
『厄』という文字が、くっきりと浮かび上がっている。

しかし、その事に彼は気づいていない。

そう、先ほどから、しきりに掻きむしっているだけである。

その文字、染みは、掻きむしる度に、どんどんと濃くなってきている。

「なんなんだ、この痒さは・・尋常じゃないぞ・・くそっ。」
 黄昏の黄金の光が作る陰に、夭かし(あやかし)が、
ゆらゆら とゆれ、赤悪欲照の肌に滑り込んでいく・・・

それは、凄まじい数の、夭かしなのだが、
それに気づく者は、誰一人いない。

 時折、背中を、何本もの針で刺されたような痛みを感じる。

目に見えない、無数の夭かしが、欲照の背に爪を立ているのだ。

赤悪 欲照は、それを捕らえる事ができない、蚊を払うように手を振る。
なぜなら、赤悪 欲照は、その霊が見えていないのである。
ただ、手を振るだけである。

その手に払われて、幾つかの夭かしの身体が千切れる。

そしてまた、ゆっくりと繋がってゆく・・・

それは、まるで、蚊取り線香の煙りを、手で払ったかのように、
夭かしは、赤悪 欲照にとり憑いてゆく・・・

その事に、彼は、まったく気づくことなく帰路を歩く・・・・

時間の経過とともに、だんだんと、夭かしの数は増えてゆく・・・

彼が歩けば、まるで蛞蝓(ナメクジ)が通った後のような
ヌルヌルとした道筋がのこる。

もちろん、普通の人間にはそれは見えていない。

夭かしが、数多になって彼の足にとり憑き、
その濡れた道筋をつくる。そして、後に魔を誘う・・・

そう、この濡れた道筋は、魔の通り道となって、
彼の家へと繋がったのだ。

----それを見ている。

 黄昏の陽が、顔を朱に染めている。
自ら印を解き、一枚の呪符を飛ばす。

それは、この生温い夕風に乗り、
赤悪欲照の宅、その玄関前にひらひらと舞い降りた。

『鬼よ行け・・・』

小さく響いた・・・

その瞬間、風はフワ・・・と吹きだした。

陰に潜んでいた男の赤い髪が風に吹かれた。
白い美しい顔が一瞬、あらわになる・・・

そして、ゆるりと踵を返し、雑踏の中へと消えていった。

 今夜、彼の家で何かがおこる。

玄関前に、残された『鬼』という文字が書かれた符に、
無数の夭かし達が群がっている。

それは、黄昏れの陽の中で、白い半透明なモノタチが、
これから来る夜を待ち遠しく思っているかのように、
ゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいていた・・・

夜はもうすぐだ。

厄が降りそそぐ・・夜は・・・


つづく・・・