鬼送りの章 *鬼隠しの子供達*  おろし!! #23 †春風が連れて来るもの...†

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 今回の物語を書くにあたり、s嬢は私宛に、いくつかの質問をして来ました。
「部屋は洋室か? ドアは扉を開くタイプか?」
「その部屋に机はあるか? そしてMacは置いてあるのか?」
一見して「おろし」を書くためのネタ集めだと分るのですが(笑)
それに忠実に答えた私です。
読み進む内に出てくる部屋の中の描写は、
私の答えから想像して書かれたものですが
ぴったりな描写なので、ちょっと現実と交差しそうで怖い感じですね〜。
そのあたりも含めて、ゆっくりお楽しみ下さい。

 月が何ものかに喰べられたかのように
それは暗い暗い晩のこと・・・
風は生暖かく春風が吹き、街路樹の煤(すす)を払う。
犬たちは忙しなく唸り、猫は赤児のようにすすり鳴く。

とん。

とん・・

風が玄関を叩いているようだ。
わたしは、虚ろな眼をし、天井を見る。
そこに、何が写っているでもない。
ただ、暗闇の中にゆらぐ、物の陰がそこにあるだけである。

光と光の交差によって写り込む幾層の陰。
由良由良とそれは蠢いている。

由良由良と・・・
由良由良と・・・

とん。

とん・・

また、戸口の方で音がした。
あれから何分、何十分経ったのかは定かでは無い。

時の経過は夢時計によって狂わせられる・・・

夢は見ていないが、眠りに入ったのは確かである。
光と光の交差によって写り込む幾層の陰。
由良由良とそれはまだ蠢いている。
形は定まっていない。何も形度っていない陰である。

とん。

とん・・

今度は眠りに入る瞬間に音がなり、わたしは、眼をゆっくり
と開いた。

そして・・・

とん。

とん・・・

風のいたずらだ。わたしは、思う。しかしなんだか気になる。
だが、気になるだけで蒲団から出るのは、おっくうである。
わたしは、蒲団を鼻の上まで被りなおした。
陰は揺らいでいる。

最近、幽体離脱症は落ち着いたはずである。
今もちゃんと身体の中にわたしは、いる。

とん。

とん。

音がした。
先程の音よりも大きい音がした。

おかしい・・・玄関の戸ではない。

わたしの部屋の戸だ。

わたしは、蒲団から出て、
部屋の戸を開けようとした時、

「開けてはダメ・・・開けてはダメ・・・恐い・・・」

机の上に置かれた、人形が話している。

この人形は先日、赤神から送られてきたもの。

セルロイドの赤い眼をした異国の少女を象った人形。

その人形が首を横に振り、啜り泣くような声で言う。

「開けてはだめ・・・」と・・・

わたしは、部屋の戸のノブを持ったまま、固まっていた。

背筋に汗が流れる。

冷たい。

鳥肌が立っているのがわかる。
素足に何かがまとわりつく。

湯気とも煙りとも言えない霧が、トビラの隙間からこの部屋
に侵入してくる。

手に力が入る。

何ものかがノブを回している。

手に伝わる。

わたしは、ノブを押さえ、決して回されないように力をいれる。

恐怖が胸いっぱいになっていくのがわかる。

呼吸を吐く。

ドアノブは固く、わたしが回す方とは逆に回っていこうとする。

手が痺れてきた。

だけど、開けてはいけない。

赤神がくれた人形がまだ口を開いて、呪文のように、何度も言葉を繰り返す。

『開けなさい・・・ねえ・・開けてよ・・・』

わたしは、耳を疑った。

その声はもう一度聞こえた。人形からの声ではない。

そうトビラの向こうから声がした。

とん。

とん。

『わたしをここから出して・・・お願い・・・でないと・・わたし・・・』

少女の声がした。
それは、か細く、掻き消されそうな小さな声。

『早く・・・開けて・・・開けて・・お願い・・・鬼が来てしまうわ・・・』

少女はドアの向こうから、語りかける。

『わたしに気がついたのは、あなただけなの。早く開けて。
そして、この遊びからわたしを助けて・・・』

わたしは、なお耳を傾ける。

不安と恐怖と好奇心を抱いて。

彼女の言動に心が揺らぐ。

典型的なパターンに落ちて行く。

言葉でわたしの心は振り乱されている。

『開けてよ。捕まっちゃうよ・・みいちゃんも、ゆうたくんも・・・
みんな、鬼に食べれてしまったの・・だから・・・』

『開けてはだめ・・・』

『・・・うるさい!!』

『お願い・・・そんな御人形さんの言うことなんて聞かないで・・・
わたしを、ここ(遊び)からだして・・お願い・・・もう悪いことしませんから。
でないと、あと99回もわたしは、鬼に食べられてしまうわ。
痛いのはもう嫌なの・・・お願い・・・』

手のひらに汗が滲む。

ドアノブが滑る。

その時、ドアが揺れる。

ドアが外れるほどに揺れる。

静電気が暗闇を照らす。

物凄い力でドアノブが回る。

わたしは、力を込める。

声がもれる。

春雷が鳴る。

稲妻の閃光。

横殴りの雨。

ガラスが割れる。

地鳴りのような唸り声が響く。

ぐああああああああああああああああああああああああ!!

雨が降り込む。

『開けてはダメよ。ぎゃあああああああああああああ!!』

パン!!

人形の頭が破裂し、セルロイドの破片が飛ぶ。

バラバラバラ・・・・

『開けて!!お願い!!早く!!』

どん!!
どん!!
どん!!

ドアが物凄い音をたてる。

咽をならす音がする。

鬼の気配・・・

ミシ・・・・・・

ミシ・・・・・・

ミシ・・・・・・

わたしは、無我夢中でドアノブを閉める。

口から呼吸がもれ、その顔は恐怖でひきつっている。

前髪の寝癖は風にあおられてしまい、おでこは全開である。

歯を食いしばり力いっぱいノブを握る。

ドアの隙間から少女と思える血液が噴出す。

流れを塞き止めたダム、そのダムが決壊する寸前のような勢いで
赤いドス黒い血液が、流々と噴出している。

そして・・
恐ろしいほどの圧力、水圧が、このドアにかかってくるのが解る。

この血液の量は、人、一人、少女一人分の血液どころではない。

どんなに絞りだしても、こんなに多量には血液は出ないはず。
しかし、血の吹き出す勢いはおさまらない・・・

そのような中、ドアをはさんで後ろに骨が砕かれる音がハッキリ聞こえる。

バキバキバキ・・・バキバキバキ・・・

次ぎに金きり音が猛烈な勢いで聞こえ出す。

キキキキキキ〜・・・・

それは、ドアに爪が立てられ落ちて行く物体。
鬼の腕・・・

開けたら死ぬ・・・直感を通りすぎた現実・・・

わたしは、必死な思いで、ドアが開かないように、
ノブをもつ手に力をこめた。

そう死にものぐるいで・・・全神経を張り詰めて・・・

・・・そして・・・それが・・・いつしか・・・
・・・と・・ぎ・・れ・・て・・ゆく・・・

チュン。チュン。

朝日が部屋をさす。
柔らかな光のカーテンが、薄ぐらいこの部屋に揺らめき出す・・・

わたしは、ドアに、もたれかかるように倒れこんでいた。
部屋は何事もなかったように元にもどっている。
割れたガラスも、血の後もこの部屋には残っていない。

昨晩の、あれは夢だったのか。

いや、よくあることだ。

こういった怪異は、朝が来れば、かならずといって良いほど、
夢にすりかえられること・・は・・・

だが・・わたしの手にはドアのノブの感触が残っている。
夢ではないと・・・

そして、あの人形も、わたしに夢ではないと伝えている・・・
あの人形、わたしの身替わり人形は、
跡形も無く、頭が吹き飛んだ状態で、いつもの場所に座っている。

床にはセルロイドの破片が散らばり、硝子の目玉が転がっている。

わたしは、手を伸ばしその眼球を拾う。

少し濡れていた。

人形の涙なのか・・・

わたしは、それをポケットに入れ、
疲れた顔を洗いに洗面所に向かうことにする。

わたしは、ドアを開ける。

ギィ・・・・

そこには・・・何もない。

いつもの空間がある。

わたしは、一歩部屋をでた。

何かを踏んだ。

白い紙だ。

お札のようだ。

『今宵・・・また来る・・・』

そう血文字で書かれている。

今宵・・・また来る・・・

今夜、ドアを開けた方がいいのかな・・・

彼女の悲痛な叫びが耳奥でこだましている。

『お願い・・・開けて・・・』

高足 痢煙は心揺らぎながら仕事に出かけるのであった。

そんな事がありつつ、仕事に出かけてるのが面白い(笑)
いつの事だったか、夜中に突然「ピンポ〜ン・・・」とベルが鳴ったので
インターホンに出てみたら
「ザァ〜〜〜」っていう雨のような音が聞こえてきたんです。
雨なんて降ってないのに。
おかしいなぁと思いつつインターホンを見てみると、赤いランプが点っています。
当時住んでいたマンションはオートロックなので、
マンションの下からベルを鳴らすと赤いランプが、
それぞれの部屋の前から鳴らすと緑のランプ
点るようになってるんです。
赤いランプだったので、誰かが間違えて押したのかな?
と思ってしばらくすると、
また「ピンポ〜ン・・」

・・・

・・・インターホンに出てみました。
そしたらまた「ザァ〜〜〜・・・」っていう雨みたいな音で・・・
その時も赤いランプでした。
ちょっと怖い感じがして、インターホンの受話器を置いた、
その瞬間にまた「ピンポ〜ン」
見てみると緑のランプが・・・!!

緑のランプは、自分の部屋の玄関ドアの前からという事です。
でも、赤いランプが点ったベルに応対してから、ほんの数秒。
そして、ここは10階・・・。

めちゃめちゃ怖かったですよ。
その時の事を思い出して、今回のお話しは怖かったなぁ。
っていうか、それが元ネタ?(笑)
でもs嬢にはその時には言ってなかった筈なんですよね。

もちろん、玄関には出ませんでしたよ。
怖いもん!

つづく・・・