鬼送りの章 *鬼隠しの子供達*  おろし!! #31 †馬凄蛾凄縛髪(バスガスバクハツ)4†

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カンカンカンカン
カンカンカンカン

 踏み切り音が、静寂の夜に殴りかかった。
激しい頭痛がする。
別にその音が耳にきたのではない。
座席に座っていなかった高足 痢煙は、馬凄(バス)の急停車により
転がり、頭を激突した。
その痛みがジーンと来ただけである。

 高足 痢煙は、頭を押さえ、片目をゆっくりと開ける。
馬凄の進行方向を背にし、左手側には運転手、右手側に
は出入り口の扉がある。扉近くには首のない乗客。
その横にも首のない乗客。その横に首を膝の上に置き、
髪を撫で、口を動かす『しばり』の姿。
通路の奥には、千切れかかった首の酒野 肴。
高足 痢煙は、辺りを見ながら、もう一度頭を撫でた。

『いた〜い。』
非常に遅い反応である。
私がいくらトロいからと言って、そんなに遅くないです(笑)
カンカンカンカン
カンカンカンカン

 まだ、踏み切りの音は続いている。
なかなか、電車はこないようだ。
時刻表には記されていない電車が来るのだが・・・
痢煙は、何も気がついていない。
そう、彼女はそういう人間である。

こんな夜更けに電車なんて・・・

カンカンカンカン
カンカンカンカン

まだこない。
まだ、席に座ろうとしない痢煙。
横目でチラチラと彼女を見る運転手。
今夜はさんざんである。

 高足 痢煙は、料魂箱(うんちんばこ)の横に、しゃがみ込んでいる。
地べたという表現になるのか。
落ち着いたようだ、その場所に・・・

まだ、電車はこない。


カンカンカンカン

カンカンカンカン

 赤色の点灯が、夜霧に広がり、暗い車内を照らす。
喧嘩を売るような踏み切りの激しい音は、いっこうに止もうと しない。


通常なら気が狂いそうな状況ではあるが、痢煙は、
別に気にも止めていないようだ。

 まあ、このような怪奇はこの街ではよくあることだ・・そうよくあることだ。

だから、高足 痢煙も慣れているのかもしれないが・・

ということには、ならないか・・・・

彼女はオカシイのである。
そう・・オカシイのである・・・
オカシくないです(笑)

・・・・・・・・・・・。

そんなことは関係なく、馬凄の中で奇妙な時間が流れる。

カンカンカンカン

カンカンカンカン

 痢煙の右目にライトの光が入る。
濃い霧のせいでその光りはソフトになっているが、
十分に車内に入ってくるほどの光の量である。

 痢煙は、手で光をさえぎるが、何かが来ると思ったらしく、
好奇心が膨れ上がり、それを見ようとする。

「素敵・・・」

 痢煙は、感嘆の言葉を漏らした。
彼女は、もう、しゃがみこんではいない。
身を乗り出して、それを見る。
それは、ゆっくりと前を通りすぎてゆく。
痢煙は、運転手の膝の上に乗り、それを見るために、もっと身を乗り出す。
まるで、子供である。

「あんな、あんな、乗り物が、この世にあるなんて、まあ、素敵!素敵だわ!!」

 趣味の悪い黄緑色にクマドリの眼。
気色の悪い触覚が伸び縮みし、気味のわるい伸縮を繰り
返しながら、それは、バスの前を横切って行った。

「ああ・・なんて素晴らしいんでしょう・・はあ・・・」

レールに車輪の音が響く・・・

ガタン・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・

通り過ぎる電車・・・

揚羽蝶々の幼蟲。

幼蟲電車。

スケールは電車と同じである。電車なのだから・・・

見た目はそう、まるで、怪獣映画に出てくるアレである。
あの幼虫の怪獣である。
モス●?

痢煙の眼は、そんな電車、幼蟲電車に釘づけである。

もう、誰にも止められない。彼女の好奇心。

それを、少なからず、感じ取る、この馬に牽引されるバスの運転手。

「ああ・・・しばらく見てきても良いですよ・・・」

渋々そう言いながら、馬棲の扉を開けた。

ブガガガギーン・・・・

「ふふん♪」

痢煙は、微妙な笑いを運転手に見せ、タンとバスを降りた。
足取りは軽快である・・・

 車内に静寂が広がる。
相変わらず、踏み切り音は鳴り響いているが、
異様の中 の異様な存在が外に出るだけで、
バスの中は何故かバランスがとれたように霊気を放ちはじめた。

運転手は 「うんうん」 とうなずいた。

 無表情な顔で、男の頭を撫でる『しばり』は、この現状を別に気にし
ていないようだ。

 一番気にしているのは、そう、しゃべる事もできない、動く事もできない、
酒野 肴 であろう。

はやく、この場から去りたいのに・・・

『何故、私を置いて・・・』

『今なら、逃げれるのちゃうん、痢煙』

そんなふうに、心の中で訴えかけているのだろう・・・

その思いは、痢煙には届かない・・・

「きゃは!幼蟲だ〜。幼蟲〜で〜ん〜しゃあっ!!」

 踏み切りの棒を無理やり、リンボーダンスをしながら潜る
高足 痢煙は、絶対に怪しい存在である。
ただのアホやん・・・

 幼蟲電車は、ホームに止まっている。
ゾロゾロと乗客が降りてきた。
黒いスーツの男が何人も出てきた。
黒いワンピースの女も何人も出てきた。

その様子をワクワクして見る痢煙は、裸足である。
寒さも痛さも感じないのか・・・

 この乗客も・・どこかおかしい。
痢煙の存在に押され気味だが、十二分に怪しい乗客である。

すべての乗客が同じ顔に見える。
まるでマネキンである。
そう、マネキンなのだ・・・

マネキンの人々?・・・無表情な顔をしている。
だが、その無表情の顔が崩れた・・・すべての乗客は、一斉に口を開け出した。

パカ・・・

バタバタ
バタバタ ・・・

羽音がする。
バタバタ
バタバタ ・・・

彼らの舌の上には、大きな大きな醜い蛾が、
一匹ずつ止まっていた。

それが羽ばたいている・・・バタバタと・・・

 痢煙は、驚くことなく、それを嬉しそうに見ている。
すれ違ってゆく人々の舌に視線を向ける。

「かっこいい・・・」

溜息まじりの歓喜・・・

白い霧が幼蟲電車を覆いだす・・・

しっとりと衣に湿気を含ませる霧は、ますます濃くなってゆく。

時折、幼蟲電車のボディのどこかから、紫色の体液が
排出され、空を舞う。

ドピュ・・ドピュ・・・シュー・・・・

 シューシューと呼吸音とも言える音が、聞こえてくる。

幼蟲電車に興味をもってしまった、痢煙。
もう、酒野 肴の救出など頭にないだろう。

 痢煙は、フラリフラリとその妖しい幼蟲電車の停車している
駅へと向かうのであった。

つづく・・・

「錐女の章」で冷凍保存され、解凍されて帰って来たとたんに
どんどんオカシくなって来た痢煙ですが、あくまでもモデルに
してるのは、実物痢煙なんだそうで・・・(笑)
今回の幼蟲電車がやってくる駅も、実在しています。
無限坂のふもとにある、2両編成の路面電車が発着する駅なんですが
それにしても、何をネタにするか想像もつかない人ですね、s嬢は(笑)

 


つづく・・・