--------------------------
『ひとつ、ひとつは父のため。ふたつ。ふたつは母のため・・・』
カチャ。
カチャ。
カチャ。
『あなたは鬼ですか?』
そう石を積むカムロ頭の女の子が聞いた。
『・・・・・』
赤神は、急に下のほうから声が聞こえたのでドキっとした。
『あなたは鬼ですか?あなたは鬼ですか?』
と、聞く女の子は赤神の膝までの高さの小さな子供であった。
半透明な小人・・・である・・・
その小さな手で小石を掴み、積んでいる。
その小さな手には、紫がかった擦り傷があり、それが痛々しい。
そして、その子はわたしを見つめている。
見つめ・・・!?
この子は・・・
目が潰れてい・・た・・・
『お願い。鬼さん・・・もう。わたしには積むことはできないの・・・』
彼女は消えた・・・
風がゆっくりと吹く。
今までの血のような匂いではなく、どこからか白菊の花の香りが微かに漂ってきた。
赤神はゆっくりと呼吸をし、足元をみた。
そこには彼女が積んだと思える小さな石の塔があった。
そして赤神のコートには、くっきりとした手形が残っていた。
『鬼が出るのか?・・・』
急がねばならない・・・そう思った。
『わたしと行こう。おにいちゃん・・・』
!?
不意に肩越しに声がした。
先ほどの小人か?
いや違う。
おかっぱ頭の女の子だが、目がついている。
潰れてはいない。
『おにいちゃん。行くんでしょう?なら、わたしと一緒に。ホラ・・・』
ギギ・・
ギギギ・・・
ギギ・・
舟舵の音。
ギギ・・
ギギギ・・・
ギギ・・
赤色の世界。
赤色の雲。
赤色の水。
赤神は目を細めた。
赤黒く見える景色、その奥深く靄の向こうから、
一艘の舟が、ゆらゆらと、こちらに向かってくる・・・
『あれは・・・なん・・・だ・・・』
赤神は言葉を漏らす。
反対の肩に移動した少女が・・・
『燈篭舟。わたしのために、父母が流してくれた舟よ・・・
あれに乗るの。そうしたら行けるわよ・・・』
『どこに?・・・』
赤神は少女の突拍子もない言動に揺さぶられる・・・
『ほら・・・大丈夫。お兄ちゃんは死んでない人だから・・・
乗れるわよ・・・大丈夫よ。わたしは、やっとここから抜けられるのよ・・・
---石罪が高く高くなったとき、血の川に燈篭舟が流れ着く。
・・・それが今日。わたしの燈篭がようやくついたのよ。行きましょう。』
赤神は小さな小さな女の子に手をつかまれ燈篭舟の方へ歩んでいった。
彼女の身体が、だんだんと、通常の子供ぐらいの身丈になってゆく・・・
燈篭舟は舟の中央に燈篭がある小舟だ。
蝋燭の灯りのようなものが、灯っていたが、船が停止するとともに消えた。
燈篭の高さは赤神の目線ぐらいである。
舵は?・・・
舟は漕ぎ手がいないというのに、何故か舵が、勝手に、否、意志を持つように動いている。
亡霊が動かしているのか?
赤神は真っ赤な目でそれを凝視した。
義眼の目に幽かに何かが映るが、微弱な霊気らしく
完全に見えることはできなかった。
『わたしは、アレに乗れるのか?・・・』
そう言いながら赤神は少し足を水につけた。
水面はまるで油膜があるようにヌメりとしている。
血液が、凝固しているのか?
あまり良い感じはしない。
それに、体温に近い水温にも少しなじめないでいる。
赤神はすばやく舟の上に乗った。
少し舟は沈む。
そして揺れた。
『乗れた・・ようだな・・』
赤神はそう呟いた。
--ボウっ・・・パチパチ・・パチ・・・ジジジジジ・・・ジジ・・・--
燈篭に灯がともり、その中に小さな小さな女の子の影が現れた・・・
ギギ・・
ギギギ・・・
ギギ・・
燈篭舟は動き出す・・・
『お兄ちゃん。ホラ岸をみてごらん。鬼が出とるよ。ほら・・あんなに・・・』
ギギ・・
ギギギ・・・
ギギ・・。
ここは賽の河原。
そしてここの鬼は自分の心から産まれる。
--わたしのお迎えはまだ来ない・・・--
--あそこの女には来たのに・・・--
--こんなに一生懸命やってるのになんであいつのところに・・・--
--早くここから出たいよ・・・もう石なんか積むのは嫌・・・--
--寒い・・・寒・・い・・・--
--なんで、わたしがここから出られへんねん!・・・はやく灯篭送ってく・・・母さん・・・--
--恐・・・いよ・・・恐いよ・・・--
--あいつ・・・俺のより高い・・・石倒したる・・・--
--誰の燈篭や・・・お迎えが来る・・・あああ・・・--
--わ・・・たしも乗りたい・・・乗せてえなあ・・・---
--しくしく・・・しくしく・・・--
--殺・・・したい・・・--
--鬼が・・・来る・・・鬼が来る・・・--
--崩される・・・--
--鬼が・・・鬼が・・・−−
--鬼が・・・--
--・・・来た!!--
ぐわっシャン!!
『お兄ちゃん見てみ。アレが鬼や・・・
心が鬼でいっぱいになったとき、あの子らみんな鬼に変わるねん。
そして今まで積んだ罪の意識(石)を自ら壊すねん。そして鬼が消えたとき・・・
その繰り返しや・・・それに気づかないうちは、あこからは抜けられへん。
ずっと、あの子ら賽の河原で石を積むんや・・・』
赤神は目を細めその阿鼻叫喚の図を見つめた・・・
すでに死んだものとはいえ、人の形をしたものが争い恨み、
そして他人の肉を食らう姿は、人の身である赤神の心に染み入り
波立たせた・・・
燈篭舟はゆっくりと進む。行き先はあの黒い影が集まる場所・・・
『ひとつ、ひとつは父のため。ふたつ。ふたつは母のため・・・みっつ。みっつは・・・
みっつは誰のため・・・に・・・』
これも解説するスキがなかったです(笑)
鬼は自分自身だったっていうのが、教訓のような感じで印象に残っていますね。
つづく・・・