錐女の章 おろし!! #21 † 愛憎の日々に羽は舞う †

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ボタボタ。
ボタボタ。

 
 零れ落ちる雨音のように、緑色の液体が
天より降り注ぎ、二つに割れた肉塊が落ちる。

グシャ・・・

鈍い音がし、河原の石に飛び散った。
敗者には名誉などない。
こびり着いた肉を小さなフナ虫のようなものが
触覚を擦り付けている。

観戦者は眼を疑った。
予想もしない"食料"が、落殺させたのだから。

相打ちではない。

"奴"は生きている。

ボロ雑巾のような身体になりながらも。

白く黄色く濁った眼で、落殺した人間を見て
黄色く欠けた歯をのぞかせ笑った。

錐女は、シミーズの裾で手を拭いた。

黄色く黒くシミのついたシミーズには、数々の血が付着している。

鐘は鳴り止んでいる。
戦いの中、本当に鳴っていたのだろうか。
それだけ集中していたのだなと思い、微かに笑う赤神は、S嬢の顔を見上げた。

S嬢は、手をあげ、オークション終了の声をあげ、
商品の説明の他に、戦いの感想を語っていた。

そして、それが終わると、落殺者の紹介をし、赤神に手を向けた。

月光のスポットが照らされ、赤神は眼を細めた。

柔らかい光。

こんな世界にも優しい光りがあるのだなと思う。

傷口に痛みが蘇る。

『く、毒が抜けたのか。。痛みが出たってことは、死にはしないということか・・・』

そして、S嬢の顔を見上げた。

S嬢は、頷き、言葉をかけた。

『最高のオークションだった。今回の2001年 〜旧正月だよ怒羅ゑ悶〜は
君のおかげで最高のショータイムを届けられた。
人間の参加は今回始めてで、「怒羅ゑ悶の歴史」に君の名が残るのは必然である。
感謝の意を表して、神の国の光りを君に届けさせた。
今の光りは月じゃない神の国の癒し。
(ここだけの話し1秒間5万円やねんなあ。神の国も最近風あたりが強くて、景気悪いらしいわ。
ホントぼったくりやで。でも、ええ光やろ、あんさんには。
ちょとここにいる地獄の輩には強すぎる光やけど。今度来る時はあっちの方がええで。
わしは、明日からOFFで神の国でバカンスや。桃源郷ツアーに行く予定やねん。
まあ雑談もこのへんにして本題に移りたいけど、ええか。そのままでいいで。あんさんの望み言ってや)』

・・・赤神はまな板の上に乗る痢煙の首(魂)を見つめた。

『・・・痢煙焼きはいらない・・あのまな板の上の魂が欲しい。』

そう、言い切った。

眉間に皺がよる・・・

そして、黄色い歯をのぞかせ臭い唾を飛ばしながら、

錐女が叫ぶ。

『なんだと!!(怒)貴様、わしの蛸焼きにケチをつけるだと!!ツラみせろ!!』

素早く右手のオクトパスピックが、赤神のコメカミを狙う!!

赤神、左手を挙げ受けようとするが、ボロ雑巾のような腕は反応が遅い。

左手の甲もろとも、顳かみにピックが突き刺さる。

そして恐ろしい力で、うつ伏せに倒れていた赤神の身体を、
錐女の手、右手一本で、ピックを突き刺した状態のまま、吊るしあげた。

そして,
顔を覗き込む・・・

『・・・良い男。でも、あたしの蛸焼きを愚ろうするなんて、許さないわ・・・
あんた、あの女に恋をしているね・・・だから・・ボロみたいになってさ。
でもね、あれは良い素材だからねえ。"泡盛の染み込んだ極上の魂"よ。
あんな魂見たたこともないわ。
ふっ可哀想だけど・・・彼女はこの世から消えてしまうの・・あなたの胃の中にね・・・』

ごぼ!!

赤神の口に痢煙焼きのサンプルが放り込まれた。

足や身体、腕の魂を使ったものだ。

少し冷えていた・・・

口を押さえられ、飲込むしか術はなかった・・・

ごくりと飲み込む・・・

ほのかに痢煙の味がした・・・

懐かしい味だった・・・

泡盛の苦味もした・・・

なぜだか急に笑いたくなった・・・

ビールの炭酸の感じもした・・・

少し馬鹿になった気もした・・・
↑これ、どういう意味?(笑)

幻覚をみた・・・

黄色い花が咲くお花畑・・・

ひばりの声に、青い空・・・

紋白蝶の戯れ・・・草いきれ・・・

『見て。見て。丞くん。お花の首輪・・・』

幼い痢煙がいる。

そしてわたし・・・

楽しそうに、満天の笑みで二人見詰め合う・・・

『こんな記憶はない。こんな幼いころの痢煙など、わたしは知らない。』

やはり幻覚か・・・

幻なのだ・・・
夢のような甘い感覚。

時間の流れがゆるやかだ。

ディレイする笑い声・・・

目にうつる自分・・・

幼い自分・・・

痢煙とお花畑にすわり、手と手を取り合う・・・

わたしは、それを花と花の間から見ている・・・

二人のやりとりを・・・

風が突然強く吹いた・・・

白い花びら、黄色い花びらが風に舞い上げられた・・・

天へのぼる花たち・・・

一瞬の風・・・

そして静まる・・・

『・・・やめて!!やめてよ!!そんなことはやめてよ!!』

痢煙の声がする・・・

姿が無い・・・

わたしは立ちあがった・・・

花が散る・・・

痢煙の上に、わたしが・・・・・

幼いわたしが、痢煙の身体に乗りかかっている・・・

『・・・丞くん。やめてよ。痛いよ。痛い。・・・』

わたしは呆然とした・・・

幼いわたしは、わたしは・・・痢煙を犯し・・・た・・・

ドスン!!

激痛が走った。

赤神は、人肉のステージに投げ捨てられた。
コメカミから血が流れる。
そして、腹が波打つ。
赤神は、横ばいになって嘔吐した。
口から白い煙のようなものが出て、そして消えた・・・

『ひひひ・・・どうじゃ・・・最高の気分じゃろ・・・』

錐女が険悪な顔で黄色い歯を見せ笑った。

『人間が、人間が、ヒトの魂を食いやがった。それも愛する者のな・・・ひひ・・・
恥ずべきことじゃ・・・恥ずべきことじゃ。くくく・・
あの女、あの女の魂を犯したんだよ、お前は。・・・ひひひ・・・』

・・・赤神は、虚ろな目をしながら、その言葉を聞いた。

---魂を犯したのか----

『気持ち良い夢を見たじゃろが。ひひひ。でも、まだ幻覚がたりない。
しかし、安心せい。あの頭を使えば、お前はあの女をモノにできるぞ。
ああ、あやかりてえなあ。ひひ・・・』

そう言うと錐女は蟹股で、まな板の方へ走って行き、
髪の毛を掴んで持ち上げた。

『新鮮!!新鮮!!お前の女の魂を今から・・・ひひひ・・・』

虚ろな目でそれを見る・・・

錐女に髪を持たれ、吊るされている痢煙・・・

痢煙の口がパクパクと動いている・・・

まるで、鯉のように・・・

まるで、金魚のように・・・

まるで・・・

『び、い、る、が、の、み、た、い・・・』

そう言っているように思えた。

笑えた。

そのおかげで赤神の意識が戻る。
笑うことが心のフラッシュバックを解放してくれた。

赤神は、最後の力を振り絞り立ちあがる。

足から血が噴出す。

傷口が広がる。

震える足。

少しずつ、這いつくばりながらも、赤神は、立とうする。

目をみはる錐女。

観戦者はその様子を見守る。

この珍入者がまたも何かをしてくれるのを期待して・・・

S嬢も、一切、声を発していない。

この会場にいる全ての化け物が、この三つ巴に目をむけているのだ。

錐女、まな板の出刃を取る・・・

まだ、髪をもたれ吊るされたままの痢煙。
口をパクパクさせている・・・

『び、い、る、が、の、み、た、い・・・』

そのように言っているようにしか見えない。

二本の足が立つ。震えている。
まるで、アニメにあった、『車椅子の少女が立ちがった時』のように、その足は震えている。
クララですね。

少しでもバランスが崩れれば倒れそうである。

だが・・・

もう、虚ろな目ではない。

戦う者の目だ。

死を恐れない目だ。

その気迫は恐ろしく会場に伝わる。

鬼どもが震える・・・

地鳴りがする・・・

すべての鬼が震え、河原全体がゆれている・・・

そして一歩、一歩と錐女に近づく・・・

その気迫に押され、無意識にさがる錐女。

また、一歩、一歩と錐女に近づく・・・

ズルズルと足を引きずりながらも、目は赤く、赤く。
輝きをみせていた。

赤神の命の炎が、闇を食う・・・

ガツ・・・

錐女の後ろは切り立った崖のようなステージの端。
もう、後退することはできない。

後ろを見ては、前を見る錐女。

赤神は、懐にしまってあった、漆塗りの懐剣をゆっくりと出す。

自害用だが、悪霊に効く呪もほどこされている。

退治することはできないが、その場に縛ることが出来る。

悪霊に突き刺されば、決して抜けない小刀である。

鞘を抜く・・・

手が震える・・・

カチと音がし・・・

白銀の刃が見える・・・

そして刃を錐女に向ける・・・

その刹那、

地を蹴る・・・

同時・・・

赤神、鞘を投げる。
錐女も首を投げる。

投げ捨てられ空中高く上がる、痢煙の首(魂)・・・

バチ・・・

空間に電気が走った音がする・・・

重なる影・・・

赤神と錐女・・・

ガチッ!!・・・・

二人の動きが止まる・・・

赤神の懐剣は、錐女のアバラ三枚めのところに深くささっている。

そして白いドライアイスのような煙が、その刃がササっているところから、
ゆらゆらと立ちのぼっている。

錐女の出刃は、赤神に突き刺さっているのかはわからない。

赤神の黒く厚いコートで覆われている・・・

しかし、血が落ちる。

ポタポタ・・・

まぎれもなく刃は刺さっている。

赤神の表情は、赤い髪が被さってよく見えない。

S嬢は、近づく。

S嬢の方から良く見える錐女の顔は、苦痛に歪んでいた。

苦しそうだが、まだ恐ろしい目をしている。

反撃ができる目をしている。

白く濁った恐ろしい眼・・で赤神を睨みつけている。

錐女の出刃は、同じく心臓の位置にはあるが、赤神には刺さっていない。
赤神の左腕に深く刺さっている。

赤神が腕で防御している・・・

錐女は、その出刃を抜こうとするが、赤神の腕の筋肉が刃を絡める。

次ぎの攻撃に移さないためにも・・力を込める・・・

出刃に血が伝う・・・

その痛みを堪え、
赤神は、じりじりと懐剣に力をこめる。

めりめりと刀が、肉に突き刺さる・・・

一層、苦しい表情を見せる錐女。

その痛みに絶えることができず、錐女は赤神を蹴る。

吹き飛ぶ赤神。

血の糸を引く出刃先。

突き刺さったままの懐剣。

次ぎの瞬間、錐女は赤神の方へ床を蹴った。

錐女の攻撃に入る・・・

そして赤神が、床に叩きつけられたと同時に
錐女はマウント態勢をとった。

馬乗り。

赤神の苦痛の顔と錐女の険しい顔が近づく。

振り上げる出刃。

シュルルルルルルルっ

下から上に出刃を回す。

そして、一気に心臓を刺す!!

S嬢は、それを見る。

ここにいる鬼たちもすべて、それを見ている。

痢煙も、ゆらゆら、ふわふわと落下しながら、その姿を見ている。



終わりか!?




しかし・・・

その出刃は赤神の心臓の上で、何故か止められていた。

ポタ・・・

錐女は動かない・・・刃物を振り下げたままの状態だ・・・

ポタ・・・

赤神の胸に何かが落ちる。

ポタ・・・ポタ・・・

無色透明の液体。

出刃の先が震え、ゆっくりと、挙げられた手は落とされ・・・出刃を置いた・・・

うなだれる首。

錐女の目から・・・涙が・・・

ポタ、ポタと。

とめどなく溢れて・・・

その泣き顔・・・彼女の顔を見ている赤神。

錐女の顔は見る見る泣き崩れてゆく・・・

皺くちゃになって・・・肩を震わしながら・・・

赤神の目から、闘いの炎は消えてゆく・・・その涙とともに・・・


--涙は人の悲しみの炎、怒りの炎を消すものである・・・


錐女は、震える手で、赤神の胸元に手をやり、
赤神のコートから、少しばかり見えていた、一枚の紙キレを取った。

そして、それを見る。

錐女はますます、声にならない声、声を殺した泣き声をあげ

肩を震わした・・・

その様を、赤神は、見ている・・・

紙・・・

幾多の戦いで血が滲んでいる紙。

その紙は出立する日に、妹、ダンナアに渡されたもの。

--- 護符

ダンナアに「必ず必要になるから、肌身離さず持っていて」と言われ、渡されたもの。

この、ダンナアに渡されたこの護符は、対錐女用の護符だったという事だったのだ。

錐女にしか効果がない、"紙"である。

赤神は、あの時の、妹の姿を思いだして、笑った。

『はじめから・・言ってくれれば・・な』

瞳を閉じる、赤神。

一筋の涙が頬を伝う。

・・・ここから帰ったら、礼をつくさなくちゃいけないな。
土産は、ここの河原で売っていた『はちまきいし』というバンドのCDでも・・・買って帰るとするか・・・
ダンナアのモデルとなった丞の家族の趣味は、CDを集める事なんですよ。
それが元ネタになっています。



その"護符"を手にする錐女・・・
とうとう、嗚咽のまざった泣き声をあげていた・・・

泣き声が辺り一帯に響き渡る。

・・・どれだけたったのか、錐女は嗚咽の間隔が広がり、涙をぬぐう。

『すまなかった・・・ほんとうに・・・ありがとう。
わたしは、この子たちの言うとおり、時が止まったままじゃった。
生きている人間には時間ちゅうもんがある。死んだらそういうことも忘れちまうんだな・・・
死ぬときに気がかりだったことが、わたしというモノを縛り、存在してしまう・・・哀しいことやな。
こんなちっぽけなことを知りたいがために、わたしは生きている人間の命を奪ってしまった。
物知りな魂に会いたいがために。娘と息子のことが知りたいがために・・・わたし・・は・・・』

・・・錐女は語尾を言う事無く立ちあがった。

両手で胸に"護符"を抑え、我が子を抱きしめるように

目を閉じた・・・

ホタルのような光り、球体がいくつも現われ、
その光りが、錐女、彼女を包み込む・・・

七色の小さな球体が無数に飛び散ってゆく・・・

身体を起こし、その姿を呆然と見る赤神の目に

一筋の涙、それが光りを受け輝いた。

カタン・・・

懐剣が落ちる音とともに、その煌めく光りは消えた・・・

手持ち花火が消えたかのように、あたりは闇となった・・・

時が止まったように静寂している。

たしかに聞こえた。
錐女の最後の声が・・・

それは、暖かく

『家族に会えた・・・』・・・と

そう、赤神の耳、心に届いた。

錐女を縛っていたモノ、それが一枚の"護符"に書かれていた"言葉"によって、
その呪縛から解放されたのだ。

何が書いていたのかは、誰も知るよしもない。

それはダンナアだけが知っている・・・ことである。

ただ、言えることは、"護符"というのは名だけのもの、
錐女へ宛てた、ダンナアからの手紙だったのではないか・・・

赤神は、そう思う。

錐女の"心の霧"が、その言葉によって解放されたのなら
それでよい。

今は恨みも憎しみも何もない。

ただ、今はゆっくりと眠りたいのだ・・・




ザワメキ・・・

静寂を打ち消すほどのザワメキ。


赤神は、目をカッと開く。

ひとときの安堵も許されない・・・



S嬢が叫ぶ。


『丞!!走れ!!間に合わないぞ!!下には餓鬼どもが!!』


戦慄!!

手を挙げる餓鬼ども。

叫ぶ鬼。

本能!!

目の前を落ちて行く、痢煙の首。

赤神の視界、ステージの下に消えて行く。

立ちあがる赤神。

走る赤神。

血が飛ぶ。

肉片が飛ぶ。

ちぎれる右足。

けれど身体は加速する。

そして、

赤神は、空を舞う。

バッ!!

下には本能のままの餓鬼や鬼がヨダレを飛ばし
両手を挙げている。

S嬢は、走り、ステージの下を覗く。

赤神・・・落ちる・・・加速する・・・

痢煙の首めがけて・・・


『く・・・間に合うか・・・』


手を伸ばすが、届かない。


PIPIPIPIPI・・・

S嬢、懐から携帯(J-P-K(地獄電話-河原))を取りだしコールする。
J-PHONEをお使いの方はお分かりになると思いますが、
関西地区のメールアドレスのサブドメインが「JP-K」なんです。
「地獄電話-河原」(笑)



急がなければ・・・

墜落する、痢煙の首と赤神。

赤神・・・もう一度手を伸ばす。

指先にあたり、弾く。

ト・・・ン・・・・

遠のく、痢煙・・・

「ああ・・・」

赤神と痢煙の間が、遠のいてゆく・・・

目を細める赤神・・・涙が宙に舞う・・

それを悲し気に見る、痢煙・・・

見つめあう二人・・・

その二人を邪魔するかのように、鬼が手を伸ばす。

痢煙を食うために・・すべての鬼が・・


本能とともに・・・

歯を食いしばり、懸命に手を延ばす・・・赤神。

その手は、ボロボロになりながらも・・・

力強く・・・

痢煙の首・・・

痢煙に・・・届く・・・

「ああっ!!」

赤神は、間一髪、痢煙の長い髪を掴み、

引き寄せ・・そして、その首を抱いた。

痢煙は、赤神の、暖かい温もりに抱かれる。

痢煙を守ったボロボロの腕に包まれる・・・

抱き締められた痢煙の瞳からは、
風に舞う花びらのように、

涙が舞い上がる・・・

その涙を、目で追い、静かに赤神は瞳を閉じる・・・・

スローモーションがかかったように、二人はゆっくりと落下していく・・・
ゆっくりと・・・

時はゆっくりと・・・


そして・・・

 

激突・・・



光りが・・

一瞬走った・・・



そして・・・


時は動き出す・・・


「うがあああああああああああああああああっ」

一斉に餓鬼どもが群がる。

血が飛ぶ。

肉が飛ぶ。

落下地点には、黒い塊の山が出来ている。

まさに地獄絵図。

鳴り止んだ雷が、また鳴りはじめ、

血の雨が降る・・・

豪雨の中の響宴・・・

狂喜した歓声があがる。

その中・・・S嬢の声がこだまする・・・

『さよなら2001年 〜旧正月だよ怒羅ゑ悶〜
また、会いましょう。最高の祭りをありがとう・・・』

歓声はなりやまない・・・
永遠に続く歓喜、狂喜の雄叫び・・・

幕は降ろされた・・・

『転送完了。重症患者二名。収容しました。集中治療室に移ります。
執刀はどうされますか?理事長。・・・院長は只今就寝中です。』
理事長?もしかしてこれ、s嬢の事でしょうか?

『・・・あと10分でそちらに帰る。帰るまでに痢煙の身体。
あれコンビニの冷蔵庫に保存してあったろ、あれ解凍しておいてくれ・・・』

『・・・はい、かしこまりました。』

『あっ、それと君の身体も必要になってしまった・・・』

『はい。解っております。理事長の命令とあらばこの身体ささげますわ・・・』

『おまえは、赤神のクローン・・・哀しい定めだな・・・では。』

『はい・・・』

プッン。

プープープープープープープープープー・・・

『明日の休暇は無しだな、こりゃあ・・・』






苦しい・・・

・・・苦しい・・・

助けて・・くれ・・・

く・・首・・があああああああああああああああああ・・・

し・・・しまる・・・

うわあああああああああああああああああ・・・

な、・・・なんだ・・・

この手は・・・

手が・・・

沢山・・・

う・・・

う・・・

うああああああああああああああああああ・・・

ぬちゃり・・・

目を覚ます・・・

周りは犬だらけ・・・

冷えた道路に寝そべっていた・・・

死悶の顔を犬が舐めている。

獣臭い。

『あんさん(あんた)、あぶなかったね。もう少しで・・・ゴホ。』

そう話しかけてきた人間は、薄汚い衣をまとった老人であった。

死悶は寝ぼけているのか状況が判断できない。

しかし、突然話しかけられたので意識がはっきりとした。

『死ぬところじゃった・・・』

そう、語尾をくくった老人。

間のある話し方である。

『首が痛いんじゃろ。そんなに痕がついていればな。』

死悶は首をなぞる。
首にミミズ腫れのような痕があるのが、少し触っただけで分かった。

『・・・ほう、あんさんも、桐ちゃんを探していたのかい?』

死悶は目を見開く・・・

『・・・え?』

『ホラ、その写真。・・・その写真じゃよ。桐ちゃん。桐ちゃんだよ。・・・懐かしいね。
彼女。そして、桐ちゃんの子供・・・姉の海苔ちゃんに弟の奏酢(ソース(笑))
ずいぶん若いねえ・・・桐ちゃんも若いよ・・・これは、奏酢の入学式の時だと思うよ・・・
桐ちゃん、"死んでる"のに式に行くって、わしに言ってたしな。
でも、この後、海苔子ちゃんも奏酢も、政府の者に連れ去られたのだよ。
二人の行方は忽然と消え、桐ちゃん、毎晩わしの枕元に立って泣いてたっけ・・・
そして桐ちゃんの行方も、その後、消えたね・・・
まあ、桐ちゃん・・化け物になって・・・どぶおちろの情報だと・・・なんだか人間に悪さしてるって話だったけど、
可哀想な人だよ・・・桐ちゃんは。
そういや、何ヶ月前かに、足の細い女の子が一人訪ねて来たな。
たしか、ダンナアって言ってた・・ダンナアは、ものすごく足が細いんですよ〜
その娘も、その写真を見せ、桐ちゃんのことを聞いてきたよ。
わしに・・・どこで、どうして、わしのことを知ったのかは知らないがね。恐ろしい能力を持った娘だったよ・・・
その娘が、わしに、この子たち、海苔子と奏酢のことを指してね、生きてるっていうんじゃ。
彼女らは、今は夫婦になって、子が二人いると。姉弟が夫婦になる・・・そんな馬鹿げた話があるなんて。
と思うじゃろが、この世界、よくあることじゃ・・・うん。よくあることじゃ・・・
そんなにはないよ(笑)
戸籍を抹消された人間は生きているか死んでいるかもわからないこの日本・・・
二人は力を会わせ生きている。
もう、母の力を借りなくともな・・・解決したんじゃろ・・・二人には。
生きるという事がどういうことか・・・』

死悶は空を見上げた・・・

夜が明ける。
東の空が明るくなっていた。

『あんさん。ホラ、あの道路に落ちている白い手。どぶおちろの手。
もうじき朝日があたるぞい。ホラ、始まった・・・』

道路に落ちている白い無数の手。
びくびくと動いている。

左手は右手。

右手は左手。

まるで決められたようにツガイになる。

そして絡み合う。

人と人が絡むように。

愛のいとなみ。

それは、暖かい日差しの中に溶け合って・・・

優しく溶け合っていく・・・

白く白く。

そして・・・何かに変わる。

羽音・・・

一斉に羽ばたく。

「鳩・・・鳩になって飛んで行く・・・」

と、死悶の口から自然にこぼれた・・・・

白い羽。黒い羽。

朝日を浴びて高く・・・高く飛ぶ・・・鳩の群れ。
無限坂には、鳩もたくさんいるんですよ。
それが「どぶおちろ」の元ネタだったんですね。

死悶はポカンと口を開けその光景を見ていた・・・

チリン・・・

鈴が鳴る。

犬が歩きはじめた。

もう、あの老人はいない。

『あっ・・・』

死悶のこころに浮かんだ言葉。

『どぶおちろ使い』

どぶおちろ使い、イズミヤの近くの鉄橋の下の
めっちゃ怪しいボロ建物の「きくや(実存中)」
そこに住んでるオヤジが元ネタです。
その屋敷、たくさんの犬を飼ってるんですよ。
で、「チリンチリン」って鐘を鳴らして、犬に合図するらしいんです(笑)


死悶は重い腰をあげ、立ちあがる。

そして写真を見つめ、ポケットに押し込んだ。

「ああ、日差しが暖かい・・・身体が冷えたし、腹も減ったか。
ああ、暖かい飯にキムチをのせ・・食いて〜。
キムチでも買って帰るとするか〜あの娘いるかな。売り娘。。可愛いんだよな〜・・・」
死悶の実家は、私の実家の近所なんですが、その近くに商店街があって
そこに、すご〜く美味しいキムチ屋さんがあるんです。
そこのお店の店員さんが可愛い人なんですよ。
s嬢も、その事を知ってるんですね(笑)

犬屋敷の前を遠ざかってゆく死悶。

その屋敷には、気づかずに・・・

何もかも暖めてくれる光。
春の光はもうすぐそこまで来ている。
その光りをめいいっぱいに受けて羽ばたく鳩の群れ。

そして、いつもと変わらない日常が始まる。

悪い夢は、車の騒音や人々の声に打ち消され・・・和らいでゆく。

そして、いつしか忘れさ去られてゆくものである。

きらきらと光る陽光は、いつまでもこの街を、この日本を、

照らすのであった。

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† おろし 「錐女の章」 完結

<私(痢煙)が「錐女」の問いに、間違った答えを出してしまったせいで
ものすごく長くなってしまいました。
でも、その場その場に応じて、話しの流れを修正し、展開させ
きちんと先への繋がりも考えながら書き上げていくS嬢は、
全く、ほんとに素晴らしいです(笑)

今回で、第一部が完結しました。
でもまた、クローンの身体を使ってオリジナルの身体を
手に入れた「痢煙」と「赤神」や、死悶などの元ネタを使い、
次章「鬼送りの章」へと始まって行くんです。

ここまで「おろし」を、私と一緒に楽しみにして
それぞれ購読してくれたみなさん、私からもお礼を言いたいです。
どうもありがとうございます。
またこれから始まる、次章「鬼送りの章」もお楽しみ下さると、嬉しく思います。>

次章「鬼送りの章」へ つづく・・・