錐女の章 おろし!! #20 † 鬼首仏心 †

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 空気を切り裂く音。
血しぶきがあがる。
しのぎを削る。

ぎゃん!!

赤神は、前方から襲いかかる
牛の頭の化け物、牛頭鬼の刀を払い、抜き胴を決めた。

ジュパっ!!

傷は深くない。

『ちっ・・・浅・・かったか・・・』

 牛頭鬼の、ろっ骨を切り裂くまでいかなかったようだ。
だが、皮、筋肉を斬ることができたのは救いだ。

すこし相手の動きが止まった。

赤神は、首を駆る。

速く間合いをとらなければ
赤神の五倍ほどある牛頭鬼の反撃をくらってしまう。

『奴の必殺の間合いを避けなければ・・・』

ぎゅん!!

『!?』

弓矢の矢が頬をかすめた。
矢は逸れたが、牛頭鬼の背、肩甲骨に刺さる。

それを振り向き様に見、前を向きなおした赤神に

戦慄が走る!!

正面100メートル先に弓を弾く、鬼武者がいる。

『避けれるか!!』

赤神は、手綱を引く。
刹那、矢は空をきる。

ひゅん!!

間一髪、避ける赤神。

数本の赤い髪が空を舞う!!

その赤神が避けた方向から牛頭鬼の刀が迫る!!

振り向きざまの一刀。

『くッ!!まっぷたつか!!』

時が止まる。

ゴゴゴゴゴゴ・・・・

いや、スローモーションといったほうが正しい。
牛頭鬼の刀がゆっくりとゆっくりと動く。

空間が斬られてゆくのが見える。

白い狭間が刀身から生まれるように・・・

また、いっそうクリアな空間がちらりと切れ間から見えたように
刀はスローモーションで迫る。

そして、反射神経を利用した動きで、その刀をかいくぐる。

次の瞬間、時間速度が元に戻る。

ズバ!!

刀はもの凄い速度で、空を切る!!

あと数ミリ違えば、赤神の頭蓋骨上部は、牛頭鬼の刀にもっていかれていたことだろう。

これも『♭の眼球』のなせる技である。

しかし三秒間が限界といったところか・・・

頭痛がする。瞬間的な頭痛に襲われる。

通常の情報量を、遥かに超えた、視覚から得た情報なので、
脳に多大な負担がかかる。
ニューロンがプチプチと悲鳴をあげている・・・

そしてその負担に拍車をかけるように、またもや莫大な情報が伝達される。

『♭の眼球』には防御とともに、
反撃といったプログラムが組まれているのだ。

そう、意識せずに刀を振る。
反射作用の攻撃。

空を切った牛頭鬼の刀、否、腕に、赤神の刀が滑り込む。

ゴン!! 

鈍い音とともに、牛頭鬼の右腕が飛ぶ!!

血が飛ぶ!!

次に赤神は、退避行動にうつる。

矢が来る!!

空気をきる音

ひゅん!!ひゅん!!ひゅん!!

牛頭鬼の目、口、首。

矢が刺さる!!

顧みない赤神。

崩れ落ちる牛頭鬼。

赤神、刀の刃を口にくわえ、両手で手綱を握り全速力で駆る。

鬼武者、ねらいを定め、矢を放つ。

突進する赤神。

向かう矢。

ひゅん!ひゅん!

血が吹く!!

しゅっ!しゅっ!

頬をかすめ、腕をかすめる。

ひるまない赤神。

突進する。

鬼武者、矢を放つ。

ひゅん!

音がしたと同時に、目の前にあらわれる矢。

それを最小限の動作で避ける赤神。

鬼武者と赤神の距離が縮まる。

鬼武者、矢を持つ。

赤神、叫ぶ。

『うるぁああああああああああああああ〜〜っ!!』

口から落ちる刀、赤神、すばやく右手で、それを掴み、そのまま水平切り。

鬼武者の首が飛ぶ!!

ゴン!!

 観戦者は固唾をのむ。
落ちてゆく肉塊に無反応だ。
一人の人間、食料が、化け物を2体も倒したのだ。

それを認めなければならないように
主人のいない、さらし首(馬)だけは空中をゆらゆら浮かんでいる。

新鮮な血の薫りがたちこめた。
ようやく、我にかえったように、観戦者どもは
牛頭鬼の身体、鬼武者に群がった。

敗北は食料になる。

そして、あらたな挑戦者が首に群がる。

その光景を横目に見て、ステージの痢煙を見る。

『まだ、御主のところには辿りつけぬか・・・』

その瞬間、赤神の右小指が飛ぶ・・・

油断・・・

激痛が走る。

下からの攻撃。

矛で突かれたのだ。

赤神の乗る、さらし首の右耳が吹き飛んでいる。

赤神は、すこしバランスを崩した。

血が飛ぶ。

またもや、矛がせまる!!

『ち!!油断した。起きろ!!首・・・』

がんがん!!

首(馬)を蹴る!!

意識がない首(馬)・・・。

『・・・ええい!!起きろ!!』

がん!!

びゅん!!

空をきる。

髪がなびく。

間一髪、首が目覚め避けることができた。

しかし、矛を持つ、毛むくじゃらの鬼、毛鬼が、ニヤリと笑い、
再度、矛をふる。

矛は激しく赤神を捕らえる!!

ずばっ!!

赤神の右腕が飛ぶ!!

頬が削れる。

足が飛び散る!!

首が飛ぶ!!

毛鬼は返り血を浴び、そして狂気する。

ガウガアアアアアアアアアアアアアっ!!

しかし、それは、毛鬼の幻覚にすぎない・・・。

『どう?わたしの"赤蝶ノ燐粉(ブラッD・パウダー)"の幻覚は?・・・』

赤神は、まっすぐな赤い髪を風になびかすように手でといた。

するとキラキラと光る燐粉が舞う。

『幻覚だと?・・・』

『あんた、毛むくじゃらだから、わたしの燐粉をたくさん受けてくださったようだ。
そんな馬鹿になった頭って不要だ・・と思わないか?・・・わたしは思うぞ。』

『げ・・・』

ごん!!

毛鬼の毛深い顔が空を舞った・・・

これで三匹。

首を刈った。

『しかし・・・次なる挑戦者が出ては堪らん・・・成仏せい・・・』

赤神は、毛鬼の乗っていた首を、叩きわった。

落ちる首(馬)と毛鬼。

赤神は、毛鬼の矛を手にとる。

『もう、お前・・・使わんだろ。借りるぞ・・・』

そう言いながら、日本刀を首(馬)にくわえさせ、赤神は、矛を振る。

ビーン・・・

『良いしなり加減だ。軽い。』

赤神は、その矛を肩に軽くのせ、

『次ぎはどいつだ。どうせお前らは、わたしを狙ってるんだろ?ん?』

そう言いながら赤神は、ゆるりと首(馬)を駆った。

『おい・・・あの毛鬼の旦那が殺られたぞ・・・』

『あの、弓矢の鬼までも・・・』

『あいつ。。本当に食料なのか・・・』

『やるしか・・やるしかねえだろ・・・』

『殺るってどうするんだ・・・』

『あいつ、陰陽師じゃねえのか・・・』

『馬鹿やろう。弱気になるな・・・儂らの4体の攻撃で奴は食料よ・・・』

『そうか、その手だ。兄貴。さすがだな・・・』

『行くぞ・・・兄弟。』

首を駆る、4兄弟。犬の頭の鬼。犬鬼。

一斉に刀を抜いて赤神に襲い掛かる!!

再び、戦いが勃発する。

それを横目に見る、蛇頭の鬼。
蛇頭に襲い掛かる、猫頭の鬼。

それを軽くあしらう蛇頭鬼。

飛ぶ猫頭鬼の首。

構える赤神。

突進する4兄弟。

『・・・馬鹿なやろうどもだ。消えろ犬野郎!!』

『き!!きさま!!食料のくせに!!・・・ドッグファイト(接近戦)だ!!がるるる〜』

斬!!

『キャイーン・・・』

一瞬の攻撃。

4つの首を、一振りで叩き斬った。

『馬鹿な奴で数が稼げた・・・後は・・・』

ぼた。ぼた。ぼた。

落ちる肉塊。

 もはや、誰も肉を食らう者はいない。
予想に反した食料の活躍に、観戦者は本能さえも忘れ、この戦いを見守る。

首(馬)に乗ろうとした者も、乗ることをやめた・・・格が違い過ぎる・・・

 空中には二つの首。その上に赤い髪を風に靡かせた、
漆黒のマントに身を包む、赤神 丞。

そして、光沢で湿気を含んだウロコ、チロチロと無気味に見える舌を持つ、

蛇の頭の 蛇頭鬼。

もう、この両者しか、空には残ってはいない。

赤神が7首。蛇頭鬼が5首をあげた。

もう、次なる挑戦者は出る気配はない。

『やはり。あんたか・・・あんたの視線。戦いの最中、強烈に感じた。
嫌な眼だな・・絡み付くような眼だ。あんた生前ストーカーでもしてたか?』

『・・・・・・・・・』

『ふん・・・暗い野郎だ。』

ガン!!

『・・・なに・・・踏み込みが見えん・・・』

『♭の眼球』ですら見えない攻撃。

反射神経だけがようやく追い付く程度だ。

赤神の矛の柄に、蛇刀が食い込む。
そして、その刃からしたたる液体。

『毒?』

『シャアっ!!』

蛇頭鬼が口を開く。
笑っているようにも見えた瞬間・・・

離れる際の一刀!!

払う赤神。

刀と刀がぶつかる!!

ギュガッ!!

火花が走る。

ばしゅっ!

退く蛇頭鬼に、赤神の矛が迫る!!

スウェーでかわす蛇頭鬼。

次の瞬間、血渋きが上がる!!

『くっ!!』

下からの攻撃、その刃が、赤神の右腕をかする。

『浅い!!ん!?』

パツン!!

空間が裂ける音。

赤神、打ちおろされた蛇刀に額を割られる!!

意識が飛びかける・・・

下からの攻撃後の、上からの打おろしという連続技。

蛇頭鬼の笑う顔が朦朧と見える。

ふらつく視界。体制を崩しかける・・・

その不安定な、視界に滑り込むもの、

水平に滑らしてくる蛇刀!!

反応が遅れた。

身代わり人形の首が飛ぶ。

『ちっ!!最後の人形が!!』

蛇頭鬼、一瞬首を横にした。

確かに斬った首が、目の前にある!!

理解できない蛇頭鬼。

その一瞬のスキを突いて、赤神は、矛を突く!!

ずちゃっ!!

硬いウロコを貫く音。
緑色の体液が、矛に伝わり、流れ出す・・・
急所は外れたようだ。

赤神、矛を抜こうとする。

蛇頭鬼は左手で矛を捕まえ、右手の蛇刀で矛を叩き斬る。

バキッ!!

折れる矛。

後退する赤神。

矛を引き抜く蛇頭鬼。

吹き出る緑の体液。

投げ捨てる柄。

間合いに滑り込む蛇頭鬼。

刀をとる赤神。

水平に斬る。

避ける。

斬る。

躱す。

斬る。

躱す。

避ける。

斬る。

じゅばっ!!

砕け散る『♭の眼球』

吹き飛ぶ蛇眼球。

剣の腕は互角。

後は精神の強さ、集中力がモノをいう。

両者の身体はたくさんの刀傷を受けて
それぞれの体液の色に染まっている。

霞む眼。毒が回っているようだ。
赤神は、唇を噛む。意識を集中する。
額の傷口の血がドクドクと音を立てて流れている。
それでも目の前の敵を睨む。

両目を無くした蛇頭鬼。
体液まみれの顔は一層恐ろしく見える。
しかし、眼はなくとも赤神の攻撃を躱している。

気配を読む能力があるのか?

いや、違う。奴は体温を見ているのだ。蛇の能力。
そして、この世界にはない温度。人肌。
こんなにやりやすい敵はいないだろう。

生きた人間はここにしかいないのだから・・・

余裕の表情を浮かべているように見える蛇頭鬼。
刀についた血を払う。

赤神は、震える手を噛み、下段の構えをとる。
蛇頭鬼は中段から上段の構えに移行した。

両者はピクリとも動かない。

 見上げる観戦者。
ステージの上の錐女もその両者の対峙を見守る。
積雲が一層暗く重く広がる。
湿った風が吹き、両者の頭上を、その積雲が流れてゆく。

先に動いたのは蛇頭鬼の方だった。

首(馬)がジリジリと前に動き出し間合いをつめる。

睨む赤神。

口をゆっくり開く蛇頭鬼。

ZUBABABABABABA!!

口から無数の物が、勢いよく飛ぶ。

それはショットガンのような威力の球体。

それは金色にかがやく黄金の液体。

毒液を小指の爪ほどの大きさで無数に、外に吐いた。

避ける赤神。

しかし、首(馬)はまともに毒球をうけた。

吹き飛ぶ顔半分。無数の穴が空いている。

もう一度、毒球を吐く。

ZUBABABABABABA!!

『くっ!!避けれるか!!』

落ちる首(馬)

迫る毒球。

首を蹴り避ける赤神。

消滅する首(馬)

それを笑うように見て、蛇頭鬼は毒球を吐く!!

空を飛ぶ赤神に足場はない。

迫る毒球。

『ぬああああああああああああああああ!!』

ZUPI!! ZUPI!! ZUPI!! ZUPI!! ZUPI!! ZUPI!!

飛び散る肉片。

『うるがああああああああああああああああ!!』

ブン!!

赤神は、迫る毒球を刀で振り払い、直撃を防ぐが、
全てをかわすことはできない。

びしっ!!

激痛が走る。うではまるでボロ雑巾のようだ。

しかし力を込める。最後の一刀に。

落ちる赤神。

その先は蛇頭鬼。

水平に、またも蛇刀が迫る。

下から上の払い斬りで躱す。

その反動とともに、瞬時に打ち下ろされる蛇刀。
袈裟切りの形で赤神は、強引に切り込む。

両刀がカチ合う。

ギチッ・ガッツン!!

鈍い音がする。

刀が交差する。

すり抜ける刀。

両者かまわず刀を振りきった。

最後の一刀。
魂芯の一撃。

落ちる赤神。

飛ぶ蛇頭鬼。

二人の身体が交差して離れてゆく・・・

砕け散る刀。

赤神は、落ちる最中それを見た・・・

蛇頭鬼の身体が二つに割れるのを。

そして

強い衝撃。
赤神は、ステージに激突した。

ずざがっつ!!

視界にノイズが走る!!

腕は動かない。足も動かない。

『うっ・・く・・・わたしが蛇のようだ・・な・』

ボロボロになった腕。白く見えるのは骨か・・・

痛みはない。毒が回っているようだ。

首だけをあげ、それでも力強く言った。

『わたしが、最高入殺者だな・・・』

つづく・・・