錐女の章 おろし!! #19 † 鬼首が舞う †

--------------------------

 人肉のステージ、否、この会場に集まったすべての鬼畜なものどもが固唾を呑む。
ロットナンバー108。『痢煙焼き』

人間界では\魂710で落殺されたようだ。
そしてついにあの世での入殺がはじまる・・・
今度は、頭の部分の魂、痢煙焼きの入殺。

ざわめきが生まれる・・・

 すべての鬼畜なやからはこの瞬間を待っていたかのように、名乗りをあげた。
しかし、その壮絶な声をうち消すようにS嬢はクロスに手をかざした。
それと同時に、中央にある大きさ180cmぐらいの顔が血の涙を流して口をあける。

「うわーん・・・」

「うわーん・・・」

「うわーん・・・」

 その泣き声は、どかこ悲しくもあり、怒りの声にも聞こえる。
中央の顔の叫びにつられ、人肉の舞台に埋もれている無数の顔は涙し、そして泣き叫ぶ。

「うわーん・・・」と・・・

 木霊のように会場の雰囲気は静寂から一変する。
なにか、それは狂気めいたものの叫びが残響し、
まるで地獄のような光景を作り上げたかのように・・・
でも、もともとここは地獄のような所なのだが・・・

そのざわめきの中、中央の顔の口から、ひとりの女性があらわれた。

月の光が、その女を照らす・・・

それは青白く、とても青白く・・死蝋のように青白い。

その女はニヤリと赤黒い口内をみせながら、ステージ中央へと進む。
人肉のステージが、肉々しい弾力を、彼女の足に伝えた・・・

ミシ・・ミシ・・ミシ・・ミシ・・

ステージ中央に到着する。
女は、歩くことを止め、目を細める。

鬼畜な輩を静かに見渡す。静かに・・・静かに・・・
恐ろしい目つきで・・・睨む・・・
さすがに、騒ぎがおさまる・・・
ゴクリ・・固唾をのむ・物・・・この女を受け入れる・・・

風が吹く。生暖かい風が・・・

血を含んだ風が、女の髪のほつれを紐解いた刹那、
両手にもったオクトパスピックをグルグルと回した。

それはまるで受験生のように・・・

それはまるで浪人生のように・・・グルグルと回す。

そして、落ち着きなくステージ上を歩く・・がに股で・・
着衣はシミーズのみ・・・そして・・こぼれる息は・・・

「ひひひ・・・」・・・掠れた、笑い声・・・おそろしい・・・

そして、卑猥な言動で鬼畜な輩をあおる。
すんなり盛り上がる鬼畜な輩、調子よく騒ぎだす・・・

ひとときの静寂を撃ち破り、今、モノすごい熱気が、この三途の川全体に広がる・・・

絶叫する・・・

ステージ中央の顔。その大きな口から、大量の血のしぶきがあがる。
そして、その血煙に浮かび上がるシルエット。
屋台、この女の屋台がついに登場・・・

亡者は泣叫ぶ・・・そして注目する。

その屋台の柱には首だけがぶら下がっている。
高足 痢煙。彼女は錐女によって魂を柱に釘付けされた女。
肉体ではない。魂を串刺しされたのである。

---呪縛による肉体の形。その生前の形をとどめている魂。

しかし、その魂はみごとに切り刻まれ、今は頭部のみである。
その魂の髪が風になびく。
柱に突き刺さる頭部は声にならない声で何かを語りかけている。
まるで、まな板の魚、鯉のようにパクパクと口を空け、目はうつろに開いている。

くっ・・・・

ぎゅっと拳に力をこめる。ギュミっと革の手袋がきしむ。

『今は動けない。チャンスはある。必ず・・・』

そう自分に言い聞かせ、 赤神 丞は、
手に持っていたパソコン、モバイルPCを、己の腰まわりにつけた鞄にしまう・・・
丞は、腰回りにくっつけるような鞄を持っているんです。
それが元ネタですね。

しかし、無情にも柱に突き刺さった痢煙の魂は髪を持たれ、
柱から取り外され、まな板の上乗せられた。

どん。

冷汗が背中をつたう・・焦る赤神・・・万事休すか!!

赤神の額にただならぬ汗が流れだし、手で拭くが止めどない・・・

第3の目。
『♭の眼球』の望遠機能にノイズがまじる。

ZiZi・・ZiZiZi・・・

プレッシャーと不安で、赤神の霊力の波動に影響が出始めている。

呼吸が鼻呼吸から口呼吸へと変わる。

心拍が上昇する。

グワっ!!

錐女は、ものすごい太さの包丁を出した。
そして、まな板横にある、赤黒い研石で出刃を磨く。

しゃりしゃり・・・

しゃりしゃり・・・

まな板の上の頭部は、パクパクと口を動かす痢煙の姿。

いよいよサバ(裁)かれるときがきた。

錐女は出刃の刃を、痢煙の額に合わせる。

ピタリと・・・

そして・・・振りかぶる。

前に進む赤神、けれど、届かない・・・

間一髪、S嬢がまた手を振り上げ、錐女の動きを制した。

入殺の時。
そう、ファイナルイベントの幕開け。
いよいよ、待ちに待った、入殺に入るのだ。

赤神は呼吸をした。

何秒間分の呼吸が吐かれる。

あの刃が打ちおろされていたら、全ては終わっていた。

痢煙の中枢、命は脳とされる部分にあるはずだ。

頭部を破壊されれば二度とオリジナルはできないはずである。

「この商品はすごい人気があるようなので、例の入殺方法で行こうと思うが、
会場のおまえらはもうわかるやろ?どんな方法でやるか?ん?」

と、S嬢が投げかける。

「わ〜!!」「あれや!!あれ!!」

「首塚!!首塚や!!」

「首塚で決めろ!!」

「オークションは首塚で決めろ!!」

「やっぱ首塚やろ!!」

「あれしかない!!あれやらんかい!!」

「あれでしょう!!ああん!!わたし興奮しちゃう!」

「刺激がほしい〜」

「わ〜!!」

「わ〜!!」

「そう、今回は首塚で決定しようやないか。みなさんの御期待にそえて。
さあ、エントリーする鬼畜なやろうども!!
今から、この会場に馬となる首が、おまえらの頭上!! この空中を飛ぶから、
このオークションにエントリーしたい奴は、その首に乗れ!!
そして、その首に突き刺さった刀を抜き、鬼首(騎手)となり、
他のエントリーした奴らを殺せ!!斬れ!!落とせ!!そして、痢煙焼きを手に入れろ。
シンプルな決め方だが命をはれ!!鬼首になれ!!観戦者も落ちてきた肉片は食ってよし!!
首は10体用意した。あの机上のさらし首が今回、今回おまえらの馬になるわけだ!!
首は怨念によってサイズも変わる。騎手の体系に合わせてくれる。
気性が荒いものから、残忍な奴、様々用意した。
無念のサムライどもだ!!さあ、いよいよ首が飛ぶ。乗れよ!!』

 会場にサラシ首が並べられる。

かつては剣豪だったと思える面構え。

武士の首である。

目は血走っているものもいれば、閉じているものいる。

ざんばらの髪が手綱ということか。

風が吹きだした。

強く。

湿った空気が頬をかすめる。

雷鳴が鳴る。

血の雨が降り始める。

晒された首の目がカッと開く。

一斉に首が飛び立つ。

その首に乗ろうとする鬼畜なやからが、まるで飴にたかる蟻のように盛りあがる。

高く。

高く。

あちらこちらで、鬼畜な塔が出来上がる。

手を伸ばす。化け物たちは、踏み台にしあって首に乗る。
そして落とされる。あちらこちらで乱闘がおこる。

狂喜の叫びが響く。


雨の音がそれに一層拍車をかける。

ざざざざざ・・・・

肉片が飛ぶ。血が飛ぶ。首が飛ぶ。
狂喜が飛ぶ。
三途の川は戦上と化している・・・

人気商品である。

そして10首の鬼首が決定し、ようやく落ち着きはじめた・・・

首は空中に静止している。

しばし沈黙がおとずれる。

下で乱闘していたものも次第に収まり、その10首の騎手の顔ぶれを見渡す・・・

いつしか雨も上がっている。

雷鳴がしだいに遠のいていく。

鬼首たちの顔ぶれを、三途の川の輩どもが、じっくりと見ているのか・・・

恐ろしい形相をした首に乗る異形のものども。

その中に命あるもの 赤神の姿があった。

赤神は首の上に立っている。

そして、さらし首の髪を左手で掴みバランスをとっている。

そして右手には日本刀。この首に突き刺さった刀を赤神は握っているのだ。

赤い髪が揺れる・・・

「あいつ人間だ。」「なにい!!」

下のモノが臭いをカギとる・・・

「人間の匂いがする」

「なんで食料がエントリーできるんだ!!」

「くっちまえ!!」「そうだそうだ!!」

「消えろ!!クソ人間!!」

「殺せ!!」「殺してまえ〜!!」

会場は罵倒の嵐だ。

S嬢がそれを手で制す。そして赤神に向かって、

「あなた・・・は・・・人間。それも魂ではない。肉体のまま・・・」

そう言いながら、S嬢は、ちらりと痢煙の首を見る。

「ふーん・・・そういうことか・・・」

次に、赤神の顔を、じっくりと見た。

赤神は、そのゾクリとするような視線から逃れるため、向きを変える。

心の内に見透かせられたような気がしたのだ。

---この男タダものではない・・・

「残念だけど、あなたにはエントリー資格はないのだよ。それとも・・何かあるのですか?
秘策のようなものが・・・ん?」

何もかも見透かしたようにS嬢は笑う。

額に多量の汗が流れる・・・赤神は刀に付いた血をはらう。

その手が震えている・・・

「あるのですね?」

S嬢はもう一度聞く。

赤神は口を開いた。

下にいる、鬼畜な、輩は耳をすましているのか?

静まり返った三途の川。

赤神の言葉が響く。

「わたしには、資格がある。少し反則かもしれないが、わたしには、エントリー権があるのだ。」

「ほう・・資格者なのですね。それは、どう言う意味で?・・・・では、あなたの名前を教えて頂きたい・・」

「あの世で本名など名乗ることなど、わたしにはできない・・・が、この名前なら貴方にもわかるはず。
わたしは 大神 赤寂 ・・・つまりハンドル名だ。¥魂710で落殺したといえば、分かりやすいか?
その権利、それを白紙撤回してもいい。時間がないのでな。
だから、この場で決着をつけたい。
血降るオークションの方が、ここの方々も楽しんでくれるでしょう。」

「ほう・・・貴方の名前わかりますよ。夜行オークションの落殺者ですね。
もちろん。いいですよ。ここにいるみんなも喜ぶでしょう。
血と、肉が増えますからね。しかし、あなたが敗れれば、確実に死にますよ。もう寿命が縮まるだけではすまない。
霊供(生命保険)も効かない。それでも・・いいのですか?
ははは・・・その目・・・覚悟は出来ている・・・それにその霊力・・・かなりの豪者とお見受けした・・
なら・エントリーを・・・許可するまで!」


赤神はあの少女の霊に教えてもらった言葉のおかげで・・・
人間界での先行オークションの情報をいち早く知ったのであった・・・

その言葉とは『2001年 〜旧正月だよ怒羅ゑ悶〜』の実行委員会。
公式ホームページのアドレスとパスワードだったのだ。
あの世にホームページがあるんですか?

そしてみごと落殺する・・・が、その痢煙焼きの魂は、赤神の欲する部分、頭脳ではなかった。
ゆえに、その落殺権利を破棄することによって、痢煙の命を取り返す手段に出た。


赤神は『♭の眼球』を体内から出す。

弦が張る・・・

うなじの部分から弦が張り、"第3の眼球"を飛び出させている。

"第3の目"は、有線サブカメラのように空中を浮く。

これで死角となる部分を補うのだ。

『♭の眼球』は体内を自由に動くことができる霊宝。

この眼球から得た情報を脳で判断するには無理がある。
だが霊力による演算で、反射神経に直に連絡、伝達することにより、
無意識に敵の攻撃を防ぐことができるのだ。

また、ただならぬ緊張がステージの上空を取り巻く・・・

もうすでにオークションは始まっている。
化け物といえども、戦いに敗れれば存在は消える。
人間の命の考えと同じようなものだ。

命をはったオークションが静かに始まった。

すでに鬼首たちは戦闘に入っている。

動かずとも戦いは行われている。

睨み合い。

10首の敵。

そしてこの三途の川に集まる全てが敵なのだ。

赤神の髪が風にふわっとなびく。

手綱を握る左手に力が入る。

この赤神が乗る首は名のある武将なのであろう。

刀傷がたくさんある片目の落ち武者。

いい首だ。

スピードもあるようだ。
反応も良い。

赤神は自分の乗る首に満足を得た。

視界が黒ずむ・・・

月が一瞬、雲に隠れたその時、猛烈な勢いで首たちは、一斉に動きだしたのであった。

つづく・・・