鈎針婆の章 おろし!! #41†運命のロープウェイ†

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ふうーーーーーーーーーーーっく!!!!!!

空が割れるほどの声があがった。

鉤針婆の腕に力が入る。

ビーンと張ったワイヤーの先には、今夜の獲物が掛かっている。
囁き声という餌に誘われた獲物が・・・

ここから数キロ、先に・・・いる・・・

ビン・・ビン・・グイ、グイ!

「いたあ〜いい〜」

「耳があ〜いたあいい〜」

本当に痛いのであろうか?間が抜けたような声だ。

しかし、痢煙の耳たぶには、がっちりと釣り針が深く憑き刺さっている。

やはり痛いのだ。どうみても・・・

そう、彼女は落ちていたあの怪しい紙コップ。
ぜったいに怪しすぎる紙コップの電話器、糸電話の受話器に、自分の耳をあてたのだ。

普通はしない。

そして、やはり、このような事になってしまった。

いつもの好奇心に負けて。

「だれえ〜よ〜こんなんしたん〜これってわあな?罠?いたたた、だから痛いって!もう、ひっぱらないでよお〜」

糸は、ジリジリと鉤針婆の元へ手繰り寄せられていく。

もちろん聞こえている。痢煙の声は糸を伝って鉤針婆の元へ・・それが糸電話。

グイ!グイ!グイ!

痢煙の耳に、ヒットした針は、そうやすやすとは抜けない。
それでも抵抗はし続ける。
しかし、その倍以上のものすごい力で引っ張られる。

ズズズズズズズ・・・・

ズルズルと靴底は削れ、道路に2本の痕を残す。

数キロ、痢煙はこのまま引きずられるのであろう・・

『きゃっほおう!今日の獲物は美味そうな耳をしているぞ!この感触!この張り具合!』

ビン!ビン!ビン!!

『ぎょうざ耳じゃあああああああ!きゃっほう!!ハング!ハング!ハング怨!!』
ギョウザ耳・・・私の耳は片方だけ、ギョウザの皮みたいに"くるっ"となってる
部分があるんです。それをs嬢がいつも「ギョウザ耳!」って言うんです(笑)

ビン!ビン!ビン!!

『ああ!待てん!この数キロ!恋する乙女のような感覚じゃああ!ヒヒヒヒ!』

ビン!ビン!ビン!!

『食べたくなるなるぎょうざ耳!ミンミン!!きゃっほう!!』

ビン!ビン!ビン!!

「いたあいいい!ひっぱりすぎいい!さっきのお話聞けないなら外してよ!!もう!」

ハイテンションとローテンション?の二人の攻防。

ビン!ビン!ビン!!

ズル・ズル・ズル!!

ビン!ビン!ビン!!

ズル・ズル・ズル!!

ビン!ビン!ビン!!

ズル・ズル・ズル!!

ビン!ズル!ビン!ズル!

ズル!ビン!ズル!ビン!

ビン!ズル!ビン!ズル!

ズル!ビン!ズル!ビン!

ブツ・・・・リ・・・チョボン!!

『んが!?』

シュルシュル・・シュル・・・ルルル・・

『反応がない・・・え?・・何故じゃ?・・えええ??嘘?ええええ???』

顎が今にも抜け落ちそうな顔をする鉤針婆。それに対して数キロ先の痢煙・・

「あいたたたた・・あれええ?耳が痛くないよ?耳が痛くないよ?どして?」

それは、糸電話の針が外れたからである。

しかし何故?何故なんだ・・
あのガッチリかかった針が、こうも簡単に抜けたのであろう?

勝利を確信していただけに、鉤針婆は、この事に納得がいくわけが無かった。
ちなみに、痢煙は納豆を食えない。

そう・・それは、偶然が偶然を呼び起こした、俗にいう奇跡だった。
いや、そうでもない。そうなる運命だったのか!?

痢煙は、何が起こったかなんてまったく解らない。
いつも解っていないが・・今夜は特に分かっていないだろう。

鉤針婆にしてもそうだ。今夜のディナーは絶対に、
痢煙の"ぎょうざ耳" が食えると思っていただろう。

しかし、そんな簡単に事は進まなかった。

まさしく運命のいたずら。誰もが一度は憧れる"運命のいたずら" だ。

その固く結ばった、二人の運命の糸を断ち切ったのは・・なんと・・

それは・・・それは・・ハサミではなく、

空缶娘に蹴り飛ばされた・・・あの妖怪マニア坊主 

空怪

であった。

ほんの一瞬だった。

まるで流れ星、隕石のように落下する最中、空怪は、一瞬、痢煙の姿を己の目に捉えた。

いや、痢煙と認識したかどうか定かではない。

『痢煙?』と疑問符が頭に浮かんだか、浮かぶ前かに、

空怪は、痢煙と鉤針婆を繋ぐ"運命の糸"に触れていた。

そう、空怪の身体が、かの"糸"の上に落下したのだった。

それは、まさに奇跡といえよう・・

痢煙と空怪の出会いというよりも、この状況での奇跡である。

鈎針婆と痢煙とを繋ぐ弾力のあるその糸は、空怪を優しく受け止め、
アスファルトに叩き付けるのを防いだ。

まるでプロレスのリングに張られたロープのように、
空怪は身体を預ける事ができたのだった。

空怪にとっては、まさに命綱であった。


そう、その時、その時である。

再度、空怪の目に、痢煙の姿をとらえたのは・・

『やはり!痢煙だ!』

スローモーション・・・こういった時は、このように見えるものである。

糸に自分の体重がかかる。

痢煙は何やらもがいていた・・

彼女は、自分の耳に刺さった針を必死に取ろうとして・・
そして、引きずられないように、必死に電柱に絡まって、踏んばっている。

だがすでに、
空怪が糸の上に乗ったショックで針は抜けているのだが・・・

痢煙は・・・気付いていない。

もう・・・夢中である・・もがくことに。

『そうか!これは、あの有名な妖怪鉤針婆の糸電話か!!俺は偶然にもその糸に!では、たすかっ!!』

そう思ったのも束の間、

またしても運命は偶然にも、

"予想外"

を選んだ。

痢煙は掴んでた糸を強引に、

それは、強引に、

もう、強引に、

そう、
バリバリ血液型O型人、
強引で申し訳ないね(笑)

その"典型的な人"が 、行なうような、

ものすごい強引な動きで、糸をグイーーーーーっと自らの方に引いたのだ。

後ろに物を投げ捨てるがごとく・・・

そして、もちろん痢煙は、目は閉じたままで・・・

『え!?・・・なっ』

空怪が驚くのも無理はなかった。

ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

その反動で、なんと空怪は前のめりになって、

なんと激しく飛ばされた・・

トリッキ−な動き、

まさにトリッキーな動き。

"予想外"の動きにやられて・・弾かれて・・・

空怪の視界には、痢煙ではなく、横断歩道の白線と・・赤く輝く歩行者信号。

『やばっ!!まじか!そっちは、やつの巣じゃないかっ!!あの信号蟲のおおおおおおお・・・・』

空怪の姿は、異なる空間へと消え、最後の言葉は聞こえなかった。


「あれえええ?なんだったの?今のおん?んん〜まっ、いいか!大分寄り道しちゃった!」

風が吹く。

冷たい風が。

痢煙は、丞との約束を守るため、26号線を北へと向かった。


つづく・・・