鈎針婆の章 おろし!! #70†地獄電話†

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羊皮紙は、まるで生きているかのように、痢煙の手の中で開く。
「ええと・・こうよ、こう書かれてる。」
『はい・・』
痢煙と、雨女酸性は、赤子カステラの屋台の横、火の玉ランプの下で、
羊皮紙に書かれた赤神の指示を読む。

「まず、第一に、逃げること。何がなんでも逃げること。」
痢煙は、雨女酸性の顔を見る。
『逃げる?何からですか?』
雨女酸性も、肩越しから覗き込むかのように、羊皮紙を見た。

「うーん・・わかんない。まあ、とにかく逃げるのよ。」
痢煙は、もういちど、羊皮紙を見たが、何から逃げろとは書かれていなかった。

雨女酸性は、うーんと考えた。

「次に、公衆電話に行き・・うんと、この番号に電話する・・んだって。」
痢煙は、電話番号を指でなぞり、雨女酸性を見る。
『公衆電話?』
雨女酸性は、上を見て考える。

「うん、でも、わたし、携帯持ってるのに、これじゃダメなんかなあ?」
痢煙は、鞄から携帯電話を取り出し、雨女酸性に見せる。
トランプ柄のシルバーストラップに少し泥が付いていた。

『あ、これは、鬼百合倶楽部の電話番号ですわ。』
雨女酸性は、手をパンと叩いた。

「え?見てわかるの?」

『ええ、ラジオで流れているから、いつも。
鬼百合倶楽部 459(地獄)-021(鬼!)-021(鬼!)って。
テレビバージョンは、指をこう鬼のようにして。』

雨女酸性は、ニコニコ笑いながら、指を鬼の角のように立てて、踊ってみた。

「あは、それ知ってる!深夜2時過ぎに、テレビの砂嵐みてたら、やってたわ!」
『知ってるんだ〜』

二人は、飛び跳ねて喜ぶ。
行き交う化け物に、ぶつかりながら・・・

「そう、こうよね、鬼!鬼!おにゆ〜り〜鬼百合倶楽部!ど〜んとコイ!
蚤にケーション!きゃははは。」
痢煙は、ポルターガイストチャンネル(砂嵐)で流れていたという、
鬼百合倶楽部のテレビコマーシャルを真似て踊りだした。

その二人を、邪魔だなあと思いながらも避ける化け物たち。
通行の邪魔になっていること、間違いなしだ。

『痢煙さん、それで、なんで、鬼百合倶楽部なの?』
「うーん、きっと肴ちゃんが、いるんだと思うの。」
痢煙は、少し遠くを見た・・それなりに反省しているのだろうか・・

『地獄に?』
「そう、わたしのせいで、地獄に逝ってしまったの。それで、わたし反省して、
今夜、魂を戻そうって・・ことになって。」

痢煙は、空を見上げ、フェスティバルゲート正門の上の屋根を指差した。

長身の男のシルエットが、儀式を行う準備をしている。

雨女酸性は、目を細めてみた・・何かが見えたようだ。

『そうなの・・じゃあ、このゴンドラ祭りは・・それで開かれたのか。』
「ええ?そうなの??・・・偶然、お祭りしてるんかと思ってた。あはははは。」
『あはは、痢煙さんたら。わたし、ゴンドラ祭りの意味、だいたい分かったわ。
今夜、ここで行われる事が何か・・・それじゃあ、まず、公衆電話へ行きましょう。
それが、重要になってくるから・・・』

雨女酸性は、周りを見る。近くに公衆電話はないようだ。
ゴンドラ祭りは、もの凄く賑わっているので、見落としている場合もあるが・・・

「携帯あるよ?」
『うーん。それじゃダメなの。公衆電話からじゃないと・・イケないわ。』
少し地面から浮いて、辺りを見回す雨女酸性。
しかし、見えるのは、化け物たちばかりだった。

「へー。じゃあ、あっち。ゴーカートがある所らへんに、確かあったはず。」
痢煙は、携帯電話を鞄にしまい、ゴーカートがある方を指さした。

『では、行きましょう。早くしないと・・時間がないです。
月があんなに大きくなってきたから・・痢煙さん。』

「わかった、でもちょっとまって、ひと口。ゴキュり。」

痢煙は、頭の上にある雲に乗せておいたコロリ缶を取り、それを美味そうに飲んだ。
雨女酸性が痢煙を隠すために作った雲を、缶フォルダーにしているようだ。
そんな姿を見て、雨女酸性は、微笑んだ。

『あは、痢煙さんは、そんなにコロリが大好きなの?』
「うん、アルコールならなんでも。えへ。あと、ええと、文字がね、
この方がよく読めるのよ。アルコール・アイってやつなの。」

缶を頭の上の雲に戻し、羊皮紙を眺めてみせる痢煙。
霧のカーテンで、雨女酸性以外には、痢煙の表情はよく見えない。

もの凄く可愛い表情を浮かべて、痢煙は酒に魂を解放している。
その表情に、雨女酸性の心は、どんどん暖かくなっていった。

『あ、急がないと。時間がないのね。指示の続きは、なんて?』

「うんと・・」

『あ、危ないわ、前見ながら歩かないと!!あのカニ大苦楽の巨大ジジイに当たるわ。』

痢煙の横すれすれを、巨大なカニを被った男が歩いていった。

「おおっと、アブナーイ。あ、カニだ・・」

痢煙は、一瞬、カニ男の姿に気を取られてしまったが、
イケないと思い、また羊皮紙に目をやった。

「うんと、指示の続きは・・ない・・無いわ・・・」

羊皮紙には、"とにかく逃げろ"と"電話をかけろ"という、
二つの指示しか書かれていなかった。

それだけ!?

『え?見せて』

「はい、どうぞ。」

『・・ん・ああ・・簡単な術がかけられてるわ・・この羊皮紙。
そうね、今、書かれている事を、完了したら新しい指示が現れる仕組みね。』

「へー、さんちゃん・・なんだか・・饒舌になってない?まさか、あのメロンソーダで酔った?」

『ええ、なんだか、炭酸って凄くハイになるっていうか・・気持ちいいのよ。こんなの初めて!』
雨女酸性の頬が、赤くポーっとしていた。

「あは、それ、よく分かるう。わたしも〜あっ、あの柱にあったはず、公衆電話。」
痢煙が、雨女酸性の手を引き、公衆電話の方へ向かう。

青い火の玉がゆらゆらと宙に浮いている。
公衆電話は、円柱の太い柱のくぼみに設置されていた。
この辺りには、屋台もなく、化け物もあまりいないようだ。
少し、静かだ。

『誰も使ってなくてよかったわ。』
雨女酸性は、周囲を見渡した。
態度では見せていないが、痢煙をちゃんと守っているのだ。

「あれ?この電話機、デザイン変わってる・・」
と、痢煙は言いながら、干涸らびたツルっとした"僧侶の頭"を撫でた。

公衆電話は、即身成仏した坊主、つまりミイラだった。

アグラをしたまま、逝ってしまわれた坊主。
そのミイラ坊主の右手は、受話器を握っていた。

『それは、世界が、裏返ってるからよ。』

「ふーん。でも、普通に、ここへお金いれたらいいのよね?」

痢煙は、ミイラの口、下あごを人差し指でいじった。
カクカクと偉大なる即身成仏の僧侶のアゴが動いた。

『ううん、残念ながら・・¥魂よ。地獄電話は・・』
少し哀しそうな顔で、雨女酸性は、痢煙を見た。

「ええ、またあ〜?どれだけ減ってるのか、わたし知らないもーん。」
ぷくうと頬をふくらませる痢煙。
恐怖手紙を読みまくっているから・・寿命はどれだけ減ったことか・・

『ま、まって。羊皮紙見て。何かメッセージが。』

雨女酸性の手の中にあった羊皮紙に、新たなメッセージが現れた。

「封筒の奥に、カードがある・・だって。」
痢煙は、のぞき込んでそれを読み上げる。

『あったわ、これよ、これ。テレ魂カード。はい、痢煙さん。』

テレ魂カードは、位牌のデザインがプリントされているカードだ。
最近、携帯性を考慮しカードになったらしい。
以前は、位牌そのものの形だったため持ち運びに不便だった。

「よーし、挿入がちゃり。」
痢煙は、テレ魂カードを、ミイラの口の中に差し込んだ。
すると、ミイラの真っ黒だった両目に、数字が表示された。

「ん?赤悪30年・・これって、度数ってこと?」
『そう、その人の寿命の30年分ね。十分あるわ。』

「じゃんじゃん使えるね。良かった。ええと、番号、番号。」

痢煙は、僧侶が手に持っている受話器を取った。
すると、手首からズルッと外れて、線が伸びた。

そして、痢煙は、僧侶の胸の辺りにあるボタン、数字を押す。
手慣れたものだ。これも酒パワーだ。

この電話で、一番気持ち悪い事は、
ボタンを押すたびに『おお・・イイ・・』という声を発せられる事だ。

僧侶は、感じているようだ。

痢煙、雨女酸性は、その声なんか無視して、無駄話しを始めた。

プルルルルル・・・と音をたてながら、ミイラが揺れる。

プルルルルル・・・と音をたてながら、ミイラのアゴが横に揺れる。

プルルルルル・・・と音をたてながら、ミイラが縦揺れする。

プルルルルル・・・と音をたてながら、ミイラが貧乏ゆすりをする。

プルルルルル・・・と音をたてながら、ミイラが前後する。

『喝!!』

ミイラが叫んだ。
繋がった音を、ミイラは、口で表現しているらしい・・

痢煙は、すかさず、受話器を耳にあてた。

『はい、こちら、どんとこーい!の鬼百合倶楽部でーす。あたし、ユッ鬼〜でーす。』

「ええと、わたし痢煙、肴ちゃんを呼んでくださーい。」

痢煙は、あの世の住人と、普通に、電話している・・・

『どんとこーい!お待ちくださーい。』

それにしても、「どんとこーい」はなんなんだろうと、
痢煙は、不思議に思いながら、振り返る。

「さんちゃん、待ってだって。」

『そう。やっぱり鬼百合倶楽部にいたのね、肴さんて人。でも、あそこVIP死人じゃないと行けないわよ?』

ミイラの目玉、度数を見た、すでに2度減っている。
赤悪の寿命2年分が減った。早いものである。

「うん、なんか、オークションで券を落殺したみたい。」

『わー!凄いね!でも、良かったわ、それなら、魂には傷ついていないわよ、きっと。』

いったい、鬼百合倶楽部とは、なんなんだろうか・・
痢煙は、ますます、気になってきた。

『ごめんなさーい。今、肴さんは、マッ鬼ちゃんの、血の池マッサージ受けてるので、すぐには、出られませーん。後でかけるようにお伝えしときますね。ではーどんとこーい!』

『ガチャ。』
電話が切れた音を、声で表現するミイラ電話機。
両目に表示されていた度数は消え、"解脱"という文字が点滅する。

そして、口が開き、テレ魂カードが、排出された。

「あれ?切られちゃった。」
痢煙は、テレ魂カードを取って、度数を見た。
残り24度となっていた。

『え?本当?ど、どうするの?肴さんは?」
「なんか、マッサージ受けてるんだって。いいなーっ」
痢煙は、こころの中で、「ずるーい」と叫んでいた。

『そうだ・・羊皮紙には、なんて?』

痢煙は、坊主の頭に置いていた羊皮紙を取り、新たに現れたメッセージを読み上げた。

「う・・んと、しばらく、待て、否、逃げろ!・・だって。」
痢煙は、雨女酸性の顔を不安そうに見た。

『逃げろ!?』
眉間にシワがよる雨女酸性。
痢煙と話しているうちに、だいぶん人間ぽくなって来た。

痢煙も、同じように険しい顔をしながら、
辺りを見回す。

近くに、痢煙らを狙っている化け物がいるのか!?

拳法の構えをしながら、グルグルとその場を回転する痢煙。

「!?」

電話の横、死亡者頁(ダウンページ)が積み上がっている所に、
何か白い物を発見する!!

手を伸ばす痢煙!!

「あれ?こんなとこに、糸電話あるよ?家出た時もあったの!
でも、これ、罠なんだよね〜こう耳にすると!」

『り、痢煙さん!そ、それっ、触っちゃ!!』

「え!?」

 

『フーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!』

 

つづく・・・