鈎針婆の章 おろし!! #68†救出†

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「アントさん、出来ました。」

戸新警備員は、ポスターの前で、祈りを捧げているアントの肩を叩いた。

「OK、デハ、ミー、コレカラ、バケモノ倒シマス。
ソノ間、コノ穴ハ、何カデ閉ザシテオイテ下サーイ。」

アントは、バリケードの前に、しゃがみ込み、
穴の中を覗いた。

人ひとり、なんとか通れるぐらいの大きさだ。

「それじゃあ、オメエ、逃げられなくなるぞ。」
シマシマッチョが、しゃがんで、アントの顔を見た。
どうやら、アントの事を心配しているようだ。

それは、そうだろう、あの化け物に、たった一人で立ち向かうのだから・・・

「ダイジョーブデース。ミー逃ゲナイカラ。」

アントは、ニコリと笑って、ゆっくりと穴を潜る。
身長190cmのアントにとって、スムーズに潜ることは、
かなり難しかった。

頭を何度もぶつけながら、やっとの事でくぐり抜けた。

血の臭いと、塩素の臭いが充満している。

不快な室温は、秒単位で、思考力、体力を奪っていく。

今や、世界の温泉 室内プールは、娯楽施設では無くなった。

プールの中で、身動きがとれない人たち。
その表情に、極度の緊張感と、疲労が現れている。

あまり、もう長くはもたない。

戸新警備員、シマシマッチョ、ブーメランマッチョ、固唾を飲んで見守る。

牛鳥人間は、プールの中の人間、獲物が弱るのを待っている。
弱ったところを、プールサイド、または、空からかっさらうつもりだろう。

目の前の獲物をじっと見ている・・・

そのため、更衣室から出て来たアント、
床を這うアントには、気づいてはいない。

しかし、怯える人たちは、アントに気づきだした。

アントは、唇に指を当て、騒ぐなと合図をする。

まるで、アントと一対一で、話しをしてるかのように、
プールの中の人たちは、涙目になりながら何度も頷いた。

ゆっくり立ち上がるアント。

白色のカウボーイハットを深く被りなおす。
金色の長い髪が、ふわっと風になびいた。
 
両手を広げ、腰の銃に手をかける。
ホワイトジャケットのフリンジが揺れ、
ベルトに散りばめられたアクアマリンが、キラリと輝いた。

「ヘイ!」

アントの声に、化け物が反応する。

振り返る牛鳥人間!

その瞬間、
ホワイト・ナンブ、ゴールド・ナンブ、
2丁の拳銃が火を噴く!!

バキューン!

バキューン!

アントの正面にいた、牛鳥人間の、頭が吹っ飛んだ。

テキーラ・バレット!!

ホワイト・ナンブから放たれた弾丸が、
牛鳥人間の眉間に命中し、
次に、ゴールド・ナンブから放たれた弾丸が、
ホワイト・ナンブの弾丸が空けた穴に、
一寸の狂いもなく滑り込む。

そして、頭の中で留まっていたホワイト・ナンブの弾丸に激突、
その衝撃で弾丸は、脳内で跳弾し、脳みそをめちゃくちゃにぶっ壊す・・
恐るべき、必殺ショット!"テキーラ・バレット"

「イエス!」

アントは、思った!なんてイージーなんだと・・・

『ブアオオオオオオオオッ』

雄叫びを上げる牛鳥人間。

目が血走っている。
鋭い角を武器に、牛鳥人間が、アント目がけて突進してくる。

ドドドドドドドドドドド・・・・!!

バキューン!
バキューン!

『ブアオオオオオオオオーーーッ』

ドドドドドドドドドドド・・・・・!!

「フターツ!!」

マタドールのように、牛鳥人間を交わしながら、弾丸を確実に撃ち込むアント!!

バキューン!
バキューン!

「ミッツー!!」

ドドドドドドドドドドド!!

『ブアオオオオオオオオッ』

バキューン!
バキューン!

「ヨッツ、イツツ!!」

次々と仕留めていくアント。
もの凄い集中力だ。

『ブララララオオオオオオッ』

バキューン!

ドドドドドドドドドドド!!

「ヴィッチ!」

プールサイドを回転して、避けるアント。

ザザザザザッ!!

「うしろ!」
「逃げて!」
「危ない!」

ただ呆然と見ていただけの人々が、アントの闘いぶりを目の当たりにして、
応援するようになった。

「アリガトーデース!!」

バキューン!
バキューン!

ザザザザー。

寝ころびながらも、見事、牛の急所に、弾丸を撃ち込むアント。
冴えに冴えている。

「ミナサーン、ソノママデオ願イシマース!決シテ水カラ出テハイケマセーン!OKデスカー」

アントの闘いぶりに見とれていたようだ。

「OKデース」
「おおっ」
「凄い!」

数名の女の子グループが、アントに手を振る。

バキューン!
バキューン!

『グアアアアアアアアアアアッ』

的確で素早い所作で、弾丸を込めるアント。

カッ・カラアアアアアアアアアアアッ カチャ。

バキューン!
バキューン!

アントの強さに、牛鳥人間が、躊躇している感が伺える。

「チョット、聞イテクダサーイ!ココニーッ、浦尾マリコサーン イマスーカ?」

「だれだ?」
「知らないわ。」
「逃げたんじゃない?」

バキューン!
バキューン!

「浦尾マリコサーン!イタラ、返事シテクダサーイ」

クルクルクル・・・シュダッ

バキューン!
バキューン!

『ウガアアアアアアッ』

カンカンカンカン・・階段を駆けあがるアント。

「浦尾マリコサーーーーーーーーーーン」

滑り台を滑るアント。

滑りながらも、上空にいる牛鳥人間を、撃ち殺す!

バキューン!
バキューン!

ザバババーーン。

水の中に入るアント。
それでも撃つ!!

バキューン!
バキューン!

トンビのように空中に舞っていた牛鳥人間が、撃たれる。

「You! 知リマセンカ?コノ携帯電話見テ!コノ人デース。」

逆流の中、アントは、ザブザブと水をかき分けながら懸命に歩く。
写メールを見せるために。

「知らないわ」
「ん・・見たことあるような、ないような。」
「し・・しりませんねえ。」

「オオ・・ソウデスカ・・スイマセン。」

バキューン。
バキューン。

ザバザバ。
プールから上がるアント。

撥水性がかなり良い服らしいので、もう乾きかけている。

「ミー圧倒的ナ強サデース。ダカラ、ミナサーン、安心シテクダサーイ。」

「おお!」

「救世主だ!」

「きゃーッ。かっこいい!」

『ムオオオオオオッ』

バキューン!
バキューン!

「本当ニ、ミナサーン、高校生、浦尾マリコヲ見ナカッタデスーカ?」

「ごめんなさーい。」

「あ、もしかして・・」

「どうした?」

「あの子じゃないのか?」

「そうだ、あの子だ・」

「ン?ナニカ知ッテルノデスーカ?You!」

「あ、はい、展望家族露天風呂に、逃げ遅れた子がいるって・・誰かが叫んでたのを聞きました。」

「展望家族露天風呂?」

「あちらです。」
「あっちです。」
「向こうよ!」

プールの中にいる全員が、同時に指を差した。

割れたガラス戸には、牛鳥人間の顔が出ており、こちらを伺っている。
その他のガラス戸には、血がついていたり、曇っていて外の様子は、
ここからでは分からない。

浦尾マリコは、外にいる・・・死んでいなければ・・

この室内プールにも、まだ、牛鳥人間は、数十頭いる。、
外には、どれだけいるのか・・

「そんな子、ほっとけよ。」
「私たちを先に助けて・・」
「腕が痛い・・助けてくれ・・」
「お願い・・」

『ンモオオオオオオオオオオオオオッ』

ドゴーーーーーーーン!!

ドゴーーーーーーーン!!

ドゴーーーーーーーン!!

ドゴーーーーーーーン!!

ピキ・・ピキ・・ピキピキ・・

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「なんだ!」

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「地震か!?」

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「ちょっと・・何?ナニヨ・・」

「あ、あ、あああ・・」

「お母さん怖いよおお」

ズッアッパーーーーン・・・

プールの底に亀裂が走る。

牛鳥人間が、建物の外から突っ込み、
建物の壁に穴を空けたのだ。

「水位が下がっている!!」

「冗談じゃないぞ!」

「ええ!!」

『ぶおおおおおおおおおおおおおおおおッ』

牛鳥人間らが、一斉に吠えだした。

「狙っていたんだ・・こいつら。」

「ただ、大人しく見てたんじゃないんだ。」

それほど大きな穴が空いたわけでもないが、どんどんと水位が減って行く。

「助けてくださーい!」

「お願いしまーす!」

「白い服のお兄さん!!助けて!!」

「きゃあああああああああっ」

浅瀬の所にいた少女に、牛鳥人間が突進する!

「ヤバーイ!届クカ!?」

バキューン!
バキューン!

プス!
プス!

命中するが、距離があるため致命傷にはならない!

『ブオ!ブオ!ブオオオオオオオオオオッ!!』

鋭く尖った角が、少女の胸に迫る!!

「いやああああああああああ!!」

バキッ!!

バキッ!!

『ポルポッティーッ!!』

間一髪の所で、黒い杖が、牛鳥人間の角をへし折った。

角が回転しながら、飛んでいく!

濡れたスーツの男が、少女を抱き上げ、空に飛ぶ。

「What?ダレダ!!」

アントは、銃をその男に向ける!

「きゃあああああああッ」

また、叫び声が上がる!!

振り返るアント。

息つく暇もなく、牛鳥人間が、人々に襲いかかる!!

こうも、バラバラで動かれては、アントひとりでは、対応できない!

『ンモオオオオオオオオッ』

『ブギョウラオオオオオオッ』

ドドーン!

ドゴーーン!!

ザザーン!!

次々と牛鳥人間が、倒れる!!

「ホワッツ?」

アントは、銃口を、四方八方に向け、
辺りを見渡す。

排水溝から伸びた手が、牛鳥人間の足をガッチリと捕まえている。

シュダッ・・

濡れたスーツの男が、少女を解放し、アントの方へと近づいてきた。

「ダレダ・・キサマ!!」
アントは、銃口をその男の眉間に向けた。

『お初にお目に掛かります。貴方の噂は、かねてより・・白薔薇の貴公子 ミスターアント。』

ポマードで塗り固められたヘアースタイル。
濡れた黒いスーツ。
まるでヒトラーのような人相。
左目には眼帯。
手には、黒のステッキ。

人の姿をしてはいるが、明らかに人外の者である・・・

「何者ダ・・・」

『私は、鳩胸のポルポ。そこのどぶおちろを束ねるもの。』

「ドブオチロ?ダト」

「はい・・」

アントは、銃をポルポに向けたまま、周りを見渡す。

そのどぶおちろが、牛鳥人間らの足をがっちり持ち、
まったく身動きがとれない状態にしている。

「ソレデ、化物ガ、ミーニ何ノ用ダ。」

『私たちは、貴方には、用はありません。あるのは、牛鳥人間の方です。まあ、倒す相手が同じというだけが、貴方と私たちの接点。』

「ミーニトッテハ、ドチラモ化物デース。」

『私たちにも、貴方たちは、エサでしかありませんよ・・ですが、今夜は、手を結ぶのもひとつかと。』

「何ガ目的ダ。」

『それは、言う必要はない。だけど、ひとつだけ言えるのは、今夜、貴方たちを喰う事はしません。傷つけることも・・・その証拠に、貴方がお探しの人間は、外の浴槽にいますよ。どぶおちろに、守るように命令してあります。まあ、牛鳥人間の数が多いので、いつまで守りきれるかわかりませんが。』

「分カッタ。ダケド、チョットデモ妙ナ事シタラ、撃ツ!」

『了解・・・』

アントは、扉に向かって走る。
ポルポも後を追う。

『ヤレ!!皆のモノ!!』

ポルポの声に従い、どぶおちろが動く。

捕まえた牛鳥人間の始末にかかる。

「トニー!!誘導!!誘導!!今ノ内ニ、プールノ人タチヲ!!」

アントは、走りながら、更衣室の方に手で合図をした。

ガンシャラシャンシャンシャー!!

バリケードが、マッチョらによって、崩される。

穴は大きくなった。

「みなさーん!!今の内に!!」

その穴から飛び出して、手を大きく振って誘導する戸新警備員。

「うわー」
「走れ!」
「いまだ!」
「きゃああ」

どぶおちろと、牛鳥人間の、とっくみあいを横目に、
人々は、戸新警備員が誘導する、更衣室の方へと、走って行く。

バキューン!

バキューン!

バリン!
バリン!
ガラスが割れる!

『ウオモオオオオオオオッ!!』
牛鳥人間が、なだれ込んでくる。

入口は、一つしかないので、狙い撃ちするには、絶好。

バキューン!
バキューン!

引き返す牛鳥人間!

『しゃああああああッ』

ポルポが、先頭切って、外に出る。

アントが、銃を撃って援護!

ガラスが粉々に飛び散る。

逃げまどう、牛鳥人間。

飛び去る牛鳥人間。

ゆっくりと、ゆっくりと、歩きながら銃を撃ちまくるアント。

後方に回るポルポ。

月の光がアントを照らし出す。

屋上、ひとり取り残された女の子の前に、
神々しく輝く白い戦士の姿。

キラキラと、ガラスの破片が舞い落ちる中、
二つの銃口が交互に火花を噴くとき、
青い瞳が、鋭く光る!

ブアハッ

青い瞳の男に、白く輝く翼が現れる・・・

「ああ・・白い・・天使だ・・」

白い羽が舞い落ちる。

実際のところ、アントの後ろにいた、ポルポの翼(興奮すると生える)だったが、
少女からは、死角になっており、まるで、アントに翼があるように見えた。

しかし、少女にとって、それでも十分であった。

この登場の仕方は、かなりの"罪"となった。

少女の鼓動は高鳴った。

「金色の髪、白い翼を持った天使が、
この悪夢のような世界から、わたしを救いに来たんだ!」と・・・

湯船の中に、口の辺りまで浸かって、
必死に、化け物から身を守っていた少女は、
まだ、化け物が近くにいるというのに、飛び出すように、立ち上がり、
その"天使"に手を振った。

「わたしは、ここよ!!」

ザッッバーーーン!

円柱のジャグジー風呂、
ライトアップされた一人の女の子の姿。
水色の可愛いビキニ姿。

浦尾マリコ。

彼女は、生きていた。

ひとり逃げ遅れてしまい、湯船に取り残され、
化け物の中で、ひとり必死に頑張った少女。

ポルポの言ったとおり、
どぶおちろは、浴槽を破壊しようとした牛鳥人間を取り押さえ、
マリコを守っていた。

湯船から出たマリコに、空を飛んで、機会を伺っていた牛鳥人間が襲いかかる。

バキューン!
バキューン!

マリコの髪をかすめていく弾丸。

後ろで悲鳴が上がる。

牛鳥人間の頭を撃ち抜かれ、落下する・・・

マリコは、ますます胸が高鳴る。

黄色の髪が、風に舞い、その天使の唇が動いた。

「アナタガ・・マリコデスネ。」

アントは、ゴールド・ナンブをホルスターに戻し、
マリコに手をさしのべた。

マリコは、手をとるやいなや、
アントの首に手をまわし・・・

そして抱きついた。

「ええ、マリコよ。わたしがマリコ・・ありがとう」
そして、アントの肩に顔をうずめた。

アントは、優しくマリコを抱きあげ、
「行キマショウ・・」と言った。

マリコは、「ああ・・天使様」と、言った。
今夜、アントに心を射抜かれた三人目の女性である。

つづく・・・