鈎針婆の章 おろし!! #67†捜索†

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エレベーターの扉が開く。

ムウっと湿度が高くなった。

湯から上がったばかりの女性たちが、警備員に誘導されている。

ろくに身体も拭かず、急いで服を着た人たちが大半で、
4階は、なんともいえない温度と湿度になっていた。

アントは、帽子を深く被りなおす。

「ヘーイ!YOU!」

アントは、ひとりの女子警備員を呼んだ。

その警備員は、アントの事は、すでに、警備隊長から報告を受けているので、
少しも、その風貌には、驚きはしなかった。

「はい。」

いたって、冷静に返事をし、アントの方へやって来る。

「ココ、ヨーロッパゾーン?」

アントは、今月は、女性専用となっている大浴場"ヨーロッパゾーン"の入口を指差し、
警備員に確かめた。

「はい。そうです。」

「中ニハ、マダ、イッパイ、人イマスーカ?」

「現在、入浴されていたお客様は、準備が整い次第、避難場所へ、誘導しております。
ですが、まだ、完全ではありません・・・」

「スイマセン、ミー、浦尾マリコ 探シテイマース。」

「はい、すでにその件は、警備隊長より報告があり、浴場担当の警備が、ひとりずつ、名前確認をしておりますが・・まだ、見つかってはおられません。」

「OK!デハ、ココハ、オ任セシマス。ミーハ、屋上ニ向カイマース。
何カアッタラ、連絡クダサーイ。」

そう言いながら、エレベーターに駆け乗るアント。

すでに、トレードマークの背中の薔薇は、一輪もない。

ガタタン・タン・・

扉に挟まりながらも、強引に入り込み、
エレベーターのボタンを押した。

そして、胸元から、白色のトランシーバーを取り出した。

「ガガ・・ミーデス、警備隊長ーッ ガガ」

「ガガ・・はい、こちら阿々論(ああろん)警備隊長。どうぞ。ガガ」

「ガガ・・ミー屋上ニ向カウ。ドウーゾッ ガガ」

「ガガ・・了解。そちらは頼みます。どうぞ ガガ」

「ガガ・・エレベーターニ、警備員ヒトリ、マワシナサーイ。5階以上ハ、デンジャラス区域ノタメ、封鎖シテクダサーイ ガガガ」

「ガガ・・了解、エレベーターには、美津貝(みつかい)隊員を、まわします。ガガ」

プン・・ガタガタガタン。

六階、扉が開く。

女警備員が、待っていたかのように入ってくる。

胸元に取り付けられた名札には「美津貝」と書いてある

「ミ・・ツ・・シェル?」

「美津貝です。」

扉の向こうには、阿々論隊長の姿が見えた。

プン・・ガタガタガタン。

扉が閉まる。

「ミッシェル、ワタシガ、マリコサン救出シ、戻ッテ来ルマデ、エレベーターヲ、オ願イシマース。」

「了解です。アントさん。」

プン・・ガタガタガタン。

六階、扉が開く。

エレベーターの前には、もの凄い形相の人たちで溢れていた。

まだかまだかと、エレベーターを待っていたのだろうか?

アントは、エレベーターの前に立ちはだかり、

一発、天井に弾丸を撃ち込んだ。

バキューン!!

そのいきなりの発砲で、ほとんどの人たちは、腰を抜かし、
いっきにエレベーターになだれ込むような混乱は生じなかった。

そして、その人たちに向かって、アントは、大声で叫んだ。

「浦尾マリコサーンハ、イマスーカッ?!」

しかし・・・誰も答えるものは、いなかった。

首を横に振るひとたち。

もう一度、大声で叫ぶアント。

「浦尾マリ・・」

その時、「はい」と、女子更衣室の入口に、もたれるように立っている女の子が、
手をあげた。

その女の子は、涙で、目が真っ赤になっていた。

アントは、人をかき分け、その女の子の方に、向かって行く。

「アレ?Youガ、浦尾マリコサン?」

黒死から携帯電話に送られてきた 浦尾マリコの写真を確認したが、
顔が違っていた。

その様子を、しばらく、静かに見ていた人たちだったが、
おそるおそる、エレベーターに向かった。

アントは、その行動に気づき、振り返る。

人々は、また、撃つんじゃないかとビクっと肩をすくませた。

しかし、アントは、白い歯をキラリと輝かせ、
ニコリと笑いながら言った。

「OKデースヨー。乗ッテクダサーイ。ソノカワーリ、レディファースト デース。チルドレン、グランドマザーカーラデース。ミンナ慌テナーイ。ミッシェル、オ願イシマース。」

人々は、アントのその笑顔に、何故か、安心感を抱いた。
銃をぶっ放した何者かも分からない相手にだ・・

「お兄ちゃん、もしかしてヒーローなの?」
ゴムで出来た怪獣を抱く少年が、アントに近寄ってくる。

「ハイ、ソーデース。ミーハ、化物ハンターデース。皆サンヲ助ケルターメニ、来マシータ。」

「オオ・・」と歓声が上がる。

アントは、その少年のイガグリ頭を、ガシガシと撫でて、
母親の元へ促した。

「トコロデ、オジョウサーン。アナタハ ダアレ?」

アントは、側にあったタオルを取り、そっと女の子の肩にかけた。

「わ、わたしは、マリコの友人で・・マ、マリコとは、一緒の高校で・そしたら・い・いきなり、う・牛が、入ってきて・・わたし・・それで・・怖くて・・怖くて、マリコを・・」

肩を、奮わしながら、泣き出す女の子。

「OK、OK、大丈夫。モウ怖クナイデスカラ・・ユックリ。ユックリ。」

アントは、青い目で、女の子をゆっくり見つめる。

「わ・・わたし・・マリコを置いて・・逃げて来てしまいました・・・」

ヒクつきながらも、女の子は、一生懸命、アントに伝えた。

「ソレデイインデスヨ・・You悪クナーイ。今カラ、ミー、マリコさん連レテキマース。ダカラ、泣カナイ。」

少女の涙を、微笑みながら、指でぬぐってあげるアント。

しかし、アントは、もの凄く不安を感じている・・
これで、浦尾マリコの生存率は低くなった・・と。

「ああ・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・本当にごめんなさい・・」

大粒の涙をこぼしながら、女の子は、アントの腕にしがみついてきた。

アントは、その肩を抱いて、「イエース、イエース」と頷いた。
そして、イガグリ頭の少年の母親を呼び、一緒にいてくれるように頼んだ。

二井 奈々(にい なな) 高校2年 浦尾マリコの同級生。
今夜、アントに心を射抜かれた二人目の女性である。

アントは、女子更衣室の中へと進む。

更衣室の中は、タオル、衣服などが、散乱し、
塩素と、女性の香りが入り交じった、独特の香りが充満している。

皆の視線を受けるアント。
しかし、アントの姿を見ても、誰も悲鳴を上げる者はいなかった。

エレベーターの順番を待つ人たち。
ガクガク震えて、床に座り込んでいる人たち。

そんな中を、全身白ずくめのアントが、ゆっくりと歩く。

この中にいる人たちは、意外に、焦ってはいない。
皆、化け物という非現実の存在を、既に受け入れているようだ。

プールへの入口には、屈強な男たちが集まり、
ロッカーなどでバリケードを作っている。

その様子を見守っていた、ひとりの警備員が、アントに気づいた。
胸元に取り付けられた名札には「戸新」と書かれていた。

「トシンサン、状況ヲ報告シテクダサーイ。」

「トニイです。アントさん、あなたの事は、隊長から報告を受けております。」

「OK、トニー、ドウデスカ?ナカノ様子ハ?オ客サンハ無事デスカ?」

「ええ、見てもらえば、分かるのですが、数十名、中に取り残されています・・」

「無事ナノデスカ?」

「ええ、見てください。ここから、見えます。」

指し示されたバリケードの穴から、アントは中の様子を見た。

奇妙な光景だった。

牛人間の化け物らは、まったく動かずに、
プールを囲むようにして、立っていた。

等間隔で・・

「ウォーター、嫌イナノ?」

「ええ、そう見たいです。だから、逃げ遅れた人は、皆プールの中にいます。」

流れるプールの、中央には、逃げ遅れた人々がいる。
怪我をした男性もいる。腕を、爪でえぐられたようだ。
かなりの出血のようだ。
その怪我人の近く、プールサイドには、血だまりが出来ている。
どうやら、脱出を試みたが、失敗し、また、プールの中へ逃げ戻ったようだ。

プール、水の中は、鬼ごっこでいう、安全ゾーンみたいな所のようだ。

「だけど、あの牛、案外バカみたいだ。」
シマシマのTシャツを着た、マッチョ男が言った。

「こちらにも、気づいていないようだし。」
真っ黒のブーメランパンツのマッチョ男が言った。

「しかし、数人、犠牲になっている。死人は、まだ出ていないが・・早くしないと、出血が酷い人もいる。」

戸新警備員は、アントの顔を見た。

「OK、トニー。バリケードヲドケテクダサーイ。」

アントは、死人が出ていない事を知り、ホッとため息をついた。

「しかし、なんだあ?お前がか?行くのか?やめとけ。やめとけ。」
シママッチョが言った。

「俺でさえ、これだ。」
ブーメランマッチョが、腕の傷を見せた。

「心配イリマセーン。ミー プロフェッショナル、化物ハンターデース。」

アントは、2丁の拳銃をチラリと見せつけた。

二人のマッチョは、顔を見合わせ、言われた通りバリケードを取り除きだした。

「ソートネ。サイレント、サイレント・・ンン?・」

アントは、壁に貼られてあるA0サイズのポスターの前に近づいて行く。

「オオ・・コ・コレハ・・・」

「世界の温泉 上へあがりまーす☆」という標語、
めちゃくちゃ際どいビキニ姿の女性。
そう、アントの師 白桃・ムウ・スン。
今や、ファッションモデル界のトップに君臨するスーパーモデル。

見事に、気功術で、作られたナイスバディ。
今回だけ、たわわに揺れる豊満な胸(気功術)
今年の、世界の温泉イメージガールだ。

「師匠、見テテクダサーイ。ミーガンバリマース。」

そのポスターの前で、静かに黙とうするアントであった。



つづく・・・