鈎針婆の章 おろし!! #66†湯けむりの中で†

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湯けむりの中、牛のシルエットが浮かぶ・・・

「きゃあああああああっ!!」

悲鳴が上がる。

目の前に、身の丈2メートル以上もある、
2足歩行の牛の化け物が立っている。

ここは、世界の温泉という名のスパ施設。
その屋上。

屋外にある展望家族風呂を楽しんでいた客が、
その化け物に、気づき大声を上げた。

「化け物だああっ!」

「きゃあああああっ!!」

『ボオオオオオオオオオオオオオッ』

吠える化け物、翼を広げる!!

ヴウアサ!!

牛鳥人間。

50歳前後の男性客が、勇敢にも、お湯に浸けたタオルを、
化け物の顔めがけて投げつける!

ビシャ!!

『ブオオオオオオオオッ』

痛がる牛鳥人間。

「今だ!逃げろ!!」

その隙に、逃げる一組の家族。
小さい子を抱きながら、懸命に施設の中へと逃げる。

しかし、浴槽から、動けない女性もいる。

目が見えず、悶える牛鳥人間。

室内プールを楽しんでいた人たちが、
外の異変に気づき出した。

「うわあ!」

「なんだアレは!」

「化け物だ!」

逃げまどう、人たち。

その叫び声を、聞きつけ、

上空を舞っていた牛鳥人間が、次々と舞い降りて来る。

バタバタバタ・・・・

『ブアアアアアアアアアアアッ』

「ぎゃああああああっ」

「ひいいいいいいっ」

屋外に居た人々は、室内プールに駆け込み、
プールを楽しんでいた人々は、更衣室へとなだれ込んだ。

ドゴーン!

バリバリバリ!!

ドシャーン!!

ガラスの扉を、頭で叩き割り、中へと進入する化け物。

最上階は、悲鳴、泣き声、叫び声がこだまする地獄と化していた。

しかし、まだ、誰一人食われてはいない。

背中を爪でひっかかれた人や、
角で、はじき飛ばされた人、また、逃げる際に、
自ら転倒した人など、怪我人は、出始めているが、
今のところ、死人は、出ていない。

キュルッ!ドドーン!!
牛鳥人間は、濡れた床に足を取られ、なかなか前へ進めないでいた。

---世界の温泉 1F

「うわああああっ、本当だったんですね!!」

支配人 浪岩(なみいわ)が、ガラス越しに化け物の後ろ姿を見た。

その化け物は、ペガサスのモニュメントにもたれて、
フェスティバルゲートの方を見ている

幸いにも、まだ、こちらの施設に、気づいていないようだ。

そう、今夜は"ゴンドラ祭り"、その会場は、フェスティバルゲート。
そのフェスティバルゲートに、この"世界の温泉"は、隣接してはいるが、
化け物の興味の対象とはなってはいようだ。

「ダカラ、ミー言イイマシタ。」
アントは、支配人の耳元で、静かに囁いた。

「ど、どうすれば・・」
完全に、気が動転している支配人。

「マズ、人々ヲ、大キナ部屋に、集メナサーイ。」
ジェスチャーをまじえながら、説明するアント。

「いっ・・一カ所には・・到底・・無理ですが・・」
頭を掻きむしりながら、今にも泣き出しそうな支配人。

「ソレナラ、警備員、バイト、ナンデモイイデスカラ、グループヲ作リ分割シナサーイ!」

アントは、手のひらの上の豆腐を切るような仕草をした。

「ハ、ハイ・・」
もう、いっぱい、いっぱいの支配人。

「ホラ、ハリー、ハリー、急イデクダサーイ!!」
アントは、勇気立たせるため、
バシ!バシ!
支配人の尻を叩いた。

「浪岩支配人!!屋上に化け物が!!」

と、叫びながら、プールの管理スタッフが走ってくる。
この人も、ヨレヨレだ・・・

「な、な、な・・」
ますます、血の気がひく支配人。

プーン。

ドタドタドタ!!

エレベーターが開くと同時に、
中から、水着のままの人たちが叫びながら飛び出してきた。

「ビッチ!ヤバイデース。」
頭をかかえるアント。

「ど、どうしましょう?」
プールのスタッフが、アントに尋ねた。
頼りになるのは、支配人ではなく、このおかしな格好をした男だと、
感じ取ったようだ。

「You、アナウンス!!」

と、アントは、ひと差し指を、スタッフに向けて言った。

「は、はい!」
元気よく、若者は、走っていった。

「支配ニーン、アノ人達ヲ、止メテクダサーイ!外デルト、モットデンジャー!!」
アントは、今度は、走ってくる人たちを指差し、そして、外を差し、支配人に見せた。

「はいいいっ」
さすがに、ヤバイと思ったのか、
支配人は走りだし、警備員と一緒になって、逃げ出す人たちを阻止する。

人間バリケード。

「ヤレヤレデース・・・」

アントは、人を奮い立たせる事の難しさを学んだ。

ピンポンパンポーン・・・

館内にアナウンスが流れる。
言ってることは、なにがなんだか分からないが、
異変を知っているものは、それに素直に従い、
着のみ着のまま、指示された避難場所へと向かい出した。

逆に、アナウンスを聞き、興味本位で、屋上に向かうバカ者もいる。

それを横目にアントは、ゲート近くの警備員と、屈強そうな男達、数名を呼んで、
「ゲートカラ、誰モ出スナ!」と指示をしている。

そこに、全速力で走ってくる女性、息を切らして近づいてきた。

「アントさま〜、浦尾マリコ様、7Fスイートにお泊まりです。ハアハア。」

「オオドリイ〜アリガート!」
アントの白い歯が、キラリと光った。

「アント様、お部屋に電話したのですが、繋がりません。きっと、お風呂に!
そして、これ、警備隊長からです。」

女性は、アントに、トランシーバーを渡す。

「あと、すでに、避難行動および、浦尾マリコ様捜索は開始したとの事です。」

「オーケー。You!君モ、安全ナ所ヘ行キナサーイ。」

エレベーターの中へ入るアント。

「アントさまーッ!今月の女性は、4Fのヨーロッパゾーンですよ!!」
赤い眼鏡がずり落ちたまま、手を必死に振る、フロントの女性。
大鳥 鴒(おおどり れい)
今夜、アントに心を射抜かれた一人目の女性である。

「まあ、大変、屋上から、羽根が生えた牛が、侵入してるわ。」
黒死は、フェスティバルゲートから、世界の温泉に目を移した。

「あら、忘れてたわ。上空に結界張るの。でもねえ、今となっては仕方ありませんね。
アントくんに頑張ってもらわないと。オホホホ。」
真剣な表情で、ノートをチェックする緋威露。
良い感じに、赤でチェックが入る。

「うーん、アントだけで、大丈夫なのかしら。」
その、化け物数の多さ、少し不安を感じる黒死。

「大丈夫よ。ほら、各階の窓を見なさい、避難が始まってるようよ。ちゃんと指示してるようね。ジムや、大部屋に、人々が集まり出しているわ。」

双眼鏡を手に取り、世界の温泉の状況を確認し、ニコリと笑う緋威露。

「ああ、心配だわ。」
それでも、ますます心配になっていく黒死、
気を落ち着かせるために、ハーブティーの香りを楽しんでいる。

バキッ!

ドカ!

『ぐう、何故、邪魔をするか!御伽っ』

『キサマこそ、手を引けい!鉤針っ』

『引くかよ!』

シュバ!

糸電話の針が、御伽婆の頬をかすめる!

『喰らうかよっ!』

『チッ』

屋根から屋根へと、逃げる鉤針婆。

追う御伽婆。

その御伽婆の、前に黒い影が立ちはだかる!

『オババッ』

手を広げ、御伽婆を制する。

『どけ、ポルポッ!』

『オババ、大変です。』

『なんじゃ?』

『世界の温泉に、牛鳥人間をはじめとする、有翼類系の化け物らが、次々と屋上より侵入しております!』

『なにい!アソコは、ワシのテリトリーと知っての事か!!』

『躊躇していたようですが、本能に負けたかと・・・』

『しかし、ワシは、鉤針を追わねば・・ポルポ、お前に託す!!』

『はっ』

『なんとしても、アソコにだけは、近づけるなよ!パルテノン神殿には!!』



つづく・・・