鈎針婆の章 おろし!! #62†激闘は塔の上†

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夜空に黒い影が、横切る・・・

左耳にガッチリ掛かった針。

赤神は、もの凄い力で、引っ張られ、
まるでスーパーマンのように、空を飛ぶ。

飛ばされている・・・

「葛遊、落ちるなよ・・」
赤神は、チラリと下を見た。

『な〜んだ。バレてたんだ!』
葛遊は、赤神のコートの裾に、しがみついていた。

銀色の毛並みをした小狐。
13匹の中で、一番小さい狐だ。

『鉤針婆って強いの?ねえ。強いの?』
それは、嬉しそうに目を輝かせながら聞いてくる。

赤神は、ニコっと笑っただけで、何も答えはしなかった。

左腕に糸電話の糸を、巻き付け、
耳にかかる負担を和らげた。

少し耳に血が滲んでいる。

そうまでして、赤神が、鉤針婆の所へ行くのは何故なんだろうと、
幼い葛遊は、知りたくてしょうがない。

でも、今は、もの凄いスピードで空を飛んでいるので、
しばらくは、黙っておこうと思った。

「ん!」

赤神が反応する。

目の前に見えたのは、フェスティバルゲート。

そして、人影!!

「どういう事だ!?」

赤神は、唇を噛む。

そして、拳を固める。

『えものおおおおおおおおおおおっ』

鉤針婆が、左腕を振り上げる!

グイッ

スピードが上がる!!

「ぬうっ」

『くっ、ハズレか!?・・しかし、殺す!』

スパンコールのボディコン姿の鉤針婆、
背中にしょっていた銛(モリ)を、すかさず右手で持ち、
迫り来る獲物に突きを入れる!!

シャアアアアアアアアッツ

ガチガチガチ!!

火花が散る!!

赤神、右手首に巻いた玉鎖でそれを避け、
そのまま、鉤針婆の首に手刀を喰らわす!!

しかし、鉤針婆、左手に持つ糸電話を引き、
赤神の体制を崩し、手刀を寸前でかわした。

「くっ!」

鉤針婆は、赤神の肩を利用して、垂直にジャンプする。


シュダッ・・・


月に鉤針婆のシルエット。

塔の上には、赤神のシルエット。

二人は、糸で繋がっている。

ビュン!!

銛が襲う!

素早くそれをかわす。

バキバキ!!

回し蹴りで、銛をへし折る赤神。

折れた銛をキャッチし、
それを鉤針婆に投げつける!

ビュバッ


キラキラキラ・・・


鉤針婆の横腹をかすめ、銛は月に向かった。

スパンコールがキラキラと舞う。

『なんだ!?コイツは!・・だが・・』

鉤針婆は、糸電話を引っ張り、そのまま、地上に向かって落下する。

ギュイーーーーーーン!!

グラッ・・・

バランスを崩す赤神。

塔から落とすつもりか?

『ハングハングハング怨!!』

鉤針婆は、電線に右手をひっかけ、落下を防ぎ、塔を見上げた!

『な、なんだと、落ちないのか?ヤツは・・普通の・・人間じゃ・・ないのか・・』

鉤針婆、電線にぶら下がったまま、
餃子耳に心を奪われ、いらぬものを釣ってしまったと後悔した・・その時!!


『ああああああああっ!! 鉤針婆っ』


ひと浴びした、御伽婆が、鉤針婆の姿を見つけた。

『なっ御伽婆!』

鉤針婆は、御伽婆の姿を見てますます焦りを感じた。

『その様子じゃ、いらんものを釣ったようだな。ケケケ。』
御伽婆は、塔の上に立つシルエットを見て笑った。

『その様子ですと、まだ餃子耳は釣れていないようですね、鉤針婆さん。ふふふ。』
そう言いながら、杖でトントン手を叩き、眼帯をした鳩胸のポルポが現れた。

『くっ・・』
鉤針婆は、本当にマズイと思った。

「餃子耳?・・・なんの事か分からないが、もしかして痢煙は・・まだ・・」

赤神は、糸電話を介して、鉤針婆と御伽婆の会話を聞いていた。

「なら、痢煙は、今、何処に?」

赤神は、下を見る。

化け物たちが、ウヨウヨといるフェスティバルゲートの中庭。
メリーゴーランド、屋台、その何処かに痢煙はいるのか?

人間の痢煙が!?

「あの人なら・・・」

赤神は、ニヤリと笑い糸電話を、強く引いた。

鉤針婆は、まだ電線にぶら下がったまま、赤神の動き、御伽婆の動きを警戒している。

『このままでは・・くそ・・これはミスではないぞ!』

ビュンッ!

鉤針婆は、赤神の耳にガッツリ掛かっていた針を、糸をある方向に引いて、
針を外し、すかさず、

『しゃあああああッ』

御伽婆めがけて、イナズマボールを放った!

御伽婆が、それをジャンプで交わす!

鉤針婆は、電線を利用して、空へ飛ぶ!

ダッ!

ダッ!

ダッ!

壁を蹴り、上へ上へと駆け上がる。

同じく御伽婆も、上へ上へと駆け上がって鉤針婆を追う!

赤神は、それを見て、またニヤリと笑った。

そして、塔から飛び降りた。

フワっと黒い髪とコートが風になびいた。

『鉤針婆は、もういいの?』

コートの中、ベルトにしがみつく葛遊が、顔を覗かせて聞く。

「ああ・・・」

赤神は、御伽婆を指差した。

『ふーん。御伽婆が、相手するんかあ。じゃあ、赤神様は?』

赤神は、トンと地面に着地し、周りを見た。

「こいつらだ・・」

赤神の登場、人間の登場に、周囲がざわめいた。

わざわざ、化け物の群れの中に降り立った赤神は、360度、全て敵。

『人間だ・・』
『エサだ・・』
『食い物だ・・』

『腕章者じゃねえ。』
『エサだワン』
『俺のだ・・』

ヨダレを垂らした化け物らが、ジリジリと間合いを詰める・・・

そして・・

ブアハッ

一斉に飛びかかった!!



「あ、始まりました。」
黒いショートカットの髪の女が、双眼鏡を覗きながら言った。

「あら、もう?早いわね。まだ、登って間もないのにねえ。」
着物姿の女が、キセルに火をつけながら言った。

二人は、塔の上にいる。

通天閣の頂上。

通天閣とは、東京でいう東京タワーのようなもので、
逢坂の観光名所のひとつだ。

彼女らは、正規ルートから、この通天閣には、登っていない。
塔の外壁を、刀を使って登ってきた。
その方法は、説明できないが、不法侵入間違いなしだ。

「よく見えますね。ここからだとフェスティバルゲート。」
黒髪の女は、少しでっぱった所に座りこみ、パンを食べながら言った。
そのため、少しモゴモゴしている。

「ね、言ったでしょ?少し疲れるかもしれないけど、ここなのよねえ〜。」
着物の女は、キセルをふかし、満足そうにフェスティバルゲートを眺めた。

フェスティバルゲートから通天閣までは、1キロもない。

だから、この通天閣を選んだようだ、この二人は・・

なんのために?

それは、すぐに分かるだろう・・・

「さて、黒死(こくし)さん。ビジネス始めましょうかねえ。オホホ。」
着物の女は、片手で巾着から、電卓とノートと万年筆を器用に取り出した。

黒死とは、ファッションブランド「UNDER†BELLY」を作った張本人。
超一流デザイナー。世間では、"黒紫"という字で通っている。
そのファッションデザイナー、黒死のビジネスとはいったい??

「え、緋威露さん、もうですか?まだ・・うちの者が全員揃ってないですが・・」
黒死は、ティーカップに入れた紅茶をゴクリと飲んだ。

「いいの、いいの。それはね、まだいいのよ。ホラ、結界張ったでしょ、あれあれ。」

緋威露は、キセルをポンと叩いて、灰を捨てた。

ちょっと通天閣が焦げた。

「ああ、フェスティバルゲートの周囲に張った"長唄三段殺し"ですね〜あはは。」

黒死は、手を叩いて笑った。

「ほらほら、来た来た!!長野のアレ、アレなんだっけ?」
緋威露が双眼鏡を覗いて、指を差す。

「ああ〜冬鬼牡鈴妃津苦飛男(とうきおりんぴっくとびお)ですね!民家の屋根に飛び込むのが好きな化け物!気持ち悪いですね。あれ。」
飛男の動きを見ながら、パンをかじる黒死。

「あいつ、ビビりだから、騒ぎが起こったら絶対に、真っ先で逃げるわよ。ほら、あ、燃えた?今燃えたわね。」

「はい、肉眼でもキャッチしました。綺麗な花火が上がりましたよ。」

「よろしい。一丁あがり〜。ええと、長野は、舐茸市長(なめたけしちょう)だったわね。 」

「はい、どうぞ電話です。」

黒死から、携帯を受け取り、
素早く電話番号を打ち込んだ。

暗記しているのだろうか・・・・

プルルルル・・・

プルルルル・・・

ガチャ・「はい、舐茸。」

「ああ、舐茸さん、あのねえ、赤神緋威露ですけど。この前ね、話してた、あれ、あれです。そう、そう、飛男。今退治しましたので、お約束の報酬を。この前、お渡しした、はい、その口座です。ありがとうございます。では、明日、確認できましたら、お電話しますので。はいはい。では。」

ガチャ

緋威露は、ノートに赤でバツを入れる。


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・冬鬼牡鈴妃津苦飛男  200万。

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「よーし、200万。この調子ね。」

ポンポンと、ノートを叩く緋威露。
幸先良さそうだ。

「あ、緋威露さん、籠婆(かごばあ)は、リストに入ってるんでした?」

双眼鏡を覗く、黒死。
次の化け物を見つけたようだ。

「んん?籠婆は、ええと、リストにないから、長唄のフレーズには、入れてないはずだけど・・燃えた?」

ノートを入念にチェックし、漏れがないか徹底的に調べる。

「いえ、元気に、置き自転車の籠に、バナナの皮や、うどんなど入れてますよ。あは。」

「早く、大物来ないかしらねえ?」

「あ、来ました!!」

「ええ!名古屋のシケモク女!?それともパンストの女!?」

「いえいえ、あいつらです・・・」





ブロロロロロ・・・・ン。

「着いたな・・・フフフ」

フェスティバルゲートの入口にあるエスカレーター付近まで、
バイクを乗り上げ、ゆっくりと降り立つ男・・・

空怪。

「おおお・・・」

空怪は、目の前に広がる"パラダイス"に、胸をときめかせていた。

「ア・・マブシイデース・・」

月の光を浴びて、空怪の頭は光っていた。


つづく・・・