鈎針婆の章 おろし!! #60†それぞれの夜†

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「さて、行きましょうか。我々も。」

空怪は、アントの肩を叩いた。

「空怪・・ミー乗物壊レマシタ・・」

今にも泣き出しそうな顔のアント。

「わたしの、バイクで行きましょう。歩くのは疲れましたしね・・・」

空怪は、ニコリと笑った。

『これ、行くならコレをやろう。おい、葛遊(くずゆ)、笹の葉を。』

翁は、手をさしのべた。

『翁さま、葛遊は、行ってしまいました・・』

翁は、笹の葉を受け取り、

『ん?どういう事じゃ?藻葛(もくず)よ。』

翁は、振り返り、藻葛と呼んだ少女の顔を見た。

『赤神様に、ひっついて行きました。』

『きゃは』
と、笑う少女たち。

『まあ・・』
と、驚く小蛾葛。

『小蛾葛〜っ、いいの?先越されちゃったよ?』
と、はやし立てる少女たち。

『葛遊もなあ・・ヤレヤレ・・・ホレ、空怪さん、これを。』

翁は、笹の葉の上に黄金色の樹液のようなスライム状の物を乗せ、
空怪に手渡した。

「こ・・これは?」

空怪の顔が、黄金の光に照らされる。

『んん、信号蟲のヨダレじゃ。つまり、密じゃ。味は・・・黄金味じゃ。』

ペロリと、指を舐める翁。

「うまーい!!こ、これは、黄金の味!」

『妖怪点滴なんぞより、これの方が、数倍いいぞ。
パワーが凝縮しているからな。』

「はい、ありがとうございます。」

『こんな小さい体で、あの馬鹿でかい巣を作ることが出来る、驚異の力、その源がこれじゃ。
"ゴルーデン・ロイヤル・デリシャス・エクストラ・パワー・スライム"。
略して"ゴロデリエパス"じゃ。』

「おお・・ゴロデリエパス・・ありがたく頂戴します。」

空怪は、心に一点の曇りもなくなったと感じた。

これで、生贄牡羊とも決別が出来ると・・・


ブロン・・ブロロロロロ・ロロロ・・・・


サイドカー付きの大型バイクが、向こうから走って来た。
そして、空怪の横で、ゆっくりと止まった。

自動操縦かと思いきや、車&バイク屋の幽霊 悪山カーブ(わるやまカーブ)
が運転していた。

『毎度です。いつでも走れるようにしてましたんで。』

悪山は、油のニオイが混じった血みどろのツナギ姿で、へへへと笑った。

狂都の将軍坂で、悪霊となって彷徨っていた所を、
空怪が、逢坂のとある廃車置き場に連れて行き、
その廃車を使って、バイク屋を開業させた。

空怪は、バイクが好きなのだ。

「すまんな、忙しいのに、わざわざ呼んで。」
空怪は、悪山カーブの肩を叩いた。

『いやあ、今夜は暇ですわ。みんな祭りに行ってしもうて・・』

「そうか、また、店には顔出すから。今、例のあの車来てるんだろ?」

『はい、"血まみれ赤いスポーツカー"の異名をとる霊車。
そうそう、そのエンジンを今直してるんで・・って事で行きますわ。
空怪さん。では。』

そう言いながら、目の前を通り過ぎる一台のバイク、それを運転する男に、
悪山カーブは取り憑いて、あっという間に、走り去って行った。

「アント、行くぞ、お前はサイドカーに乗れ。」
空怪は、バイクにまたがり、サイドカーを指差した。

アントは何も言わず、静かにサイドカーに乗った。

「では、翁さん、ありがとう。みなさんも。」

ブロロン・・・

空怪は、エンジンを掛けて、ゆっくりと走り去っていった。






バタン・・・

「ふああ・・つかれた〜」

ダンナアは、ソファの上に倒れ込んだ。

ソファの周りは、壊れた家の残骸と、家財道具、
そしてビニール袋が散らばっていた。

見事に、家は崩壊してしまっている・・・

「お兄様には、この赤・・悪が・ムニャムニャ・・・」

ダンナアはそのまま寝てしまったようだ。

赤悪人形を抱いて・・・

確か、ダンナアは、この人形を兄への言い訳の切り札にして、
今夜、思いっきり暴れた。

満足したのか、微笑みながら眠りに入った。

こうして、ダンナアの長い一日は終わりを告げた。






プシュウ・・・プシュウ・・・


『うわわわわ・・なんて事だ・・・100袋が・・全滅した。』

森魚は、頭から煙りを上げているゲームカセットを、ゆっくり取り出した。

ガチャ・・・

黒く焼けこげている・・・

もう、このカセットは使えない。

ハイル・ビニールを使うには、新しいカセットがいる。
しかし、予備のカセットを、森魚は用意してはいなかった。

『こうも、やすやすと負けるとは・・思ってもいなかった。』

森魚は、肩を落とした。

『はあ・・・』

と、深いため息をついて黙り込んだ。

破れた袋が、カサカサと音を立てる・・・・

しばらく目を閉じていた森魚だが、決心が着いたらしく、

『マザーの所に行かなければ・・・』

と、ぼそりとつぶやき、森魚は、公園を後にした。

その姿は、本当に寂しそうだった。


つづく・・・