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『ここです・・・』
小蛾葛が、赤神を見る。
赤神は、目を細めて、小蛾葛が立っている場所、
歩道を見た。
ここに痢煙・・が・・
何かを感じる・・妖力・・魔力・・を微かに感じた。
しかし、それは、信号蟲の"信号蟲フラッシュ"のせいかもしれない。
小蛾葛は、自分が何も出来なかった事を悔やんでいるようだ。
少し哀しそうな表情で、赤神を見ている。
赤神も、同じく、自分が何も出来なかった事を悔やんでいる。
しかし、今は考えているだけでは、何も解決はしない。
赤神は、しゃがんで、何か手がかりが落ちていないか探した。
しかし・・何もない。
何も、見つからない。
ただ、思い出すと腹が立つ、ビニール袋「ファミリーミート(家族肉)」が、
風に煽られ、駐輪中の自転車のタイヤに絡まっているだけだった。
『赤神様・・お怪我はもう・・』
小蛾葛は、沈黙が耐えられず、話しかける。
「ああ・・・」
と、赤神は、ただ一言だけ。
小蛾葛も、それを気にする事はない。
ただ少しだけ、胸がキュンとなった。
『赤神!』
深夜なのに大声で、イタチ太郎。
その後ろに、ゾロゾロと、空怪、鳥居爺(信号蟲)、小狐12匹(人間化)、
アントが、先ほど、赤神が通った鳥居から現れた。
目立つ・・・
アントだけでも十分に目立つというのに・・
しかし、なんだか下を向いている・・蹴られた腹が、まだ痛むのだろうか・・
「赤神、聞きましたよ。翁様から、今夜する事を。」
空怪は、奇々怪々をそっと、懐に仕舞う。
きっと、信号蟲を観察して、記録していたに違いない。
そう、赤神は思った。
「手伝いましょう。」
空怪は、嬉しそうに言った。
「なぜだ?」
赤神は、空怪の目を見る。
『祭りじゃよ・・』
鳥居爺は、信号蟲を抱きながら言った。
腕の中の信号蟲は、スヤスヤと眠っている。
「肴さんの魂を、この世に戻すのでしょう?」
空怪は、信号蟲の頬を指で撫でながら赤神を見る。
「ああ、今夜、反魂法を行うつもりだったが、一緒に行う痢煙さんが・・・」
赤神は、小蛾葛を見た。
小蛾葛は、うなずいた。
やはり、悔やんでいるのだろう。
「確かに、痢煙さんなら、わたしも、この場所で見た。」
空怪は、痢煙を見た情景を思い出す。
「皆の話を聞いて分かったのだが、痢煙さんは、あの時、鉤針婆と闘っていた。
そして、わたしは、鉤針婆の糸電話の糸に触れて、信号蟲の巣に入ったんだと思う。」
「糸は・・外れたかどうかが、問題だな。」
赤神は、拳をぎゅっと固めた。
『アレ?・・オカシイナア・・ハニー、ココニイタ?』
アントは、歩道橋で元気に遊んでいた痢煙と出会ったのだが、
それを話す事はしなかった。
皆が痢煙を見たのは、何時の事なんだろう・・
と、アントは、首をかしげていた。
『オイ、赤神っ!』
イタチ太郎が、せわしなく足下を走る。
赤神の眉間に、またシワがよる。
『オイ!赤神っ!さっきから呼んでるだろ!返事ぐらいしろよ』
「どうしました?イタチ太郎さん。」
空怪は、赤神の代わりに優しく答えた。
『だから、こっち来い!見つけたんだ。』
「何をです?」
『糸電話だよ!!』
イタチ太郎は、グイグイと、赤神のコートの裾を引っ張った。
全員が、イタチ太郎の後に付いていく。
すると、垣根の下に、紙コップが落ちていた。
ヒソヒソ・・
ヒソヒソ・・
「コロリの新製品が出たらしい・・・ガガガ」
ヒソヒソ・・
ヒソヒソ・・
「前の"見張り番"、失礼なやっちゃなあ。・・そんな事言いなさんな・チェッ・ガガガ」
ヒソヒソ・・
ヒソヒソ・・
「今日も暑かったやろ?へへ。そしたら、配線直してたら、ズラがな、へへ・・ガガガ」
ヒソヒソ・・
ヒソヒソ・・
「るとさくーん、そんな所で寝ないで・もう・ガガガ」
ヒソヒソ・・
ヒソヒソ・・
「これが・・・」
空怪は、目をキラキラさせながら、紙コップの形を描写した。
「鉤針婆の糸電話・・」
『赤神!』
得意げに、イタチ太郎が赤神を見た。
「なんだ」
赤神は、無愛想に返事をした。
『ケケ、貸しだな!・・ダンナア様の趣味、教えろよなっ!』
そう言って、イタチ太郎は、飛び跳ねて夜の街に消えていった・・・
赤神は、フッと笑い、
「プログレのCDだよ」と、ボソリと言った。
それを横目で見た空怪は、ニヤリと笑った。
「それで、どうするんだ?」
空怪は、紙コップの描写が終わったらしい。
「ああ・・・」
さて、どうする・・赤神は、考える。
痢煙が、もし、鉤針婆の餌食になっていれば、
恐怖手紙の号外が出るはずだ・・・
出ていない所を見ると、餌食になってはいない。
つまり、死んではいないと言うことだ。
では、途中で、針が外れたか?
いや、鉤針婆の針は、今まで外れた事がないと言われている。
では、今はまだ餌食になってはいないが、
痢煙は、鉤針婆のアジトにいる可能性が高い。
なら・・・
「では、わたしが・・・」
空怪は、キラキラした目で、赤神が結論を出す前に、
糸電話を取ろうとした。
赤神は、それを制し、言った。
「わたしが行く。お前たちは、フェスティバルゲートに向かってくれ。」
空怪は、少し残念そうに、
「わかった・・あのバカを連れて祭りに行くよ」
「そうしてくれ・・」
と、言いながら、赤神は、紙コップを拾い上げた。
「鳥居爺、小蛾葛、そしてみんな。」
赤神は、鳥居爺と小狐たちを見渡し、深く頭を下げた。
『きゃ〜赤神様!がんばって〜』
『倒せ!鉤針婆!』
『またね!』
『最高〜!』
と、赤神に抱きつく小狐たち。
『赤神様・・ご無事で・・』
と、囁く小蛾葛。
『愛じゃよ、愛。』
と、ニコニコしながら翁は頷いた。
アントの表情は、帽子のツバで見えない。
空怪は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
赤神は、ゆっくりと、左耳に紙コップをあてた・・・
ギュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
『ふーーーーーーーーーーーーーーっくっ!!』
と、声が聞こえた瞬間、
赤神は、夜空に飛んでいた。
つづく・・・