鈎針婆の章 おろし!! #56†お祭り†

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人は、雨が降るのを望んだり、雨が止むのを望んだりする。
雨は、恵みでもあり、その逆でもある。

人にとって、雨を降らしたり、止ませたりすることは容易ではない。
しかし、不可能でもない。

チェルノブイリの原発事故の時、
放射能に汚染された雨雲が、大都市にたどり着くまでに、
被害を最小限にするため、人為的に雨を降らした事があった。
そのために、犠牲になった人々が居た事は、いうまでもない。

人は、"雨"という神の領域に、すでに土足で踏みにじっているのかもしれない・・



 痢煙は、動かないメリーゴランドの馬車の中にいる。
雨女酸性も、痢煙の正面に、座っている。

何も話さず、二人は、ぼーっとしている。

痢煙の目はうつろになり、今にも眠りそうである。

時折、「赤神はまだかーっ!」と叫んで、眠気を振り払っている。

雨女酸性は、それでも、何も話さず、痢煙を見ている。

『痢煙は、赤神という人間を、この場所で、待っているんだな』と、想像した。

赤神とは、どんな人間なのだろう。

痢煙のような、優しい人なのだろうか・・・
それとも・・・
まあ、どちらでも、構わない、
自分は、痢煙がいれば、それでいいと・・

雨女酸性は、そう思い、馬車の窓の外を見た。

『何かがいる・・・』

雨女酸性は、とっさに感じた。

ひとつ、また、ひとつ、黒い影のサークルが、地面に生まれていく・・

見ている景色に、ノイズが走る・・・

『こ・・これは、裏返る・・・』

雨女酸性の顔つきが強ばる。

「んん・・さんちゃん?どうしたの?」

眠りそうになっていた、痢煙が、その声に反応する。

『し、静かに・・・話してはいけません。人語では・・』

雨女酸性は、痢煙が、馬車から出ようとしたのを身体で制した。

『裏返りが・・なぜ・こんな所で・・いったい・・』

雨女酸性は、"波打つ景色"を見て、"裏返り"の兆しだと感じた。

ボウ・・ボウ・・ボウ・・

オレンジ、ブルー、バープル、グリーン、レッドなどの光の玉が、
辺り一面、たくさん現れた。

今まで真っ暗だったフェスティバルゲートが、
光の玉に照らされた。

『人魂が・・・こんなに・・・』

「きれい・・」

雨女酸性と、痢煙は、闇の中に浮かぶ色とりどりの人魂の光を、
馬車の窓から、静かに眺めていた・・・

気がつくと、メリーゴーランドの周りには、たくさんの夜店、
屋台が建ち並んでいた。

『やはり・・裏返りだ・・』

雨女酸性の言う"裏返り"とは、
一瞬のうちにして、妖かしの世界に入れ替わる事を云っている。

静寂な、フェスティバルゲートは、化け物たちで溢れかえっていた。

子供に大人気の水子すくい。
色とりどりの水子飴。
タレが自慢!赤子の串刺し。
新色!ブルーハワイ 脳のかき氷。
3色ペニス焼き。
目玉カステラ。

そして、海賊版続出!?
元祖 痢煙焼き(本物?)
錐流 痢煙焼き(錐ちゃんの味)
オーストラリア 痢煙焼き(クリーミータイプ)
アイツ屋! 痢煙焼き(風味)
ジャンボ 痢煙焼き(ドデカ味)
夫婦亭 ネギ殺し痢煙焼き(嫉妬風味)

今や大人気の痢煙焼き。
どの屋台にも、長蛇の列が出来ている。

『痢煙焼き?・・』
雨女酸性は、痢煙の顔を見た。

「あら、美味しそうね。」
痢煙は、平然とした顔で答えた。

『ん?クンクン・・・クンクン』
二人の前で、人の顔をした犬が立ち止まった。

『人間の臭いがするワン・・なあ?ビタ1(ビタワン)。』
横にいた、同じく人の顔をした犬、ビタ1(ビタワン)に話しかけている。

『うまそうだなワン・・人間紛れてるのかワン?ビタ2(ビタツウ)。』
『まるで、痢煙焼きみたいなニオイだワン・・・』

2匹の化け物は、キョロキョロしはじめた。

『やばい・・』

雨女酸性は、馬車の上に、抱き枕ぐらいの大きさの雨雲を発生させ、
霧状の雨を降らした。

そして、馬車から飛び降り、
二匹の前に歩み寄った。

『何見てるのよ。』

凄みのある声で言い放ち、二匹の化け物を睨んだ。

霊格は、雨女酸性の方が、断然上である。

二匹の化け物は、
『キャーン』と叫び、
一目さんに逃げていった。

雨女酸性は、痢煙に手招きをした。

すると目をキラキラさせて痢煙は、馬車から飛び降り、
屋台の方に走っていった。

雨女酸性は、慌てて、雲を痢煙の頭の上に発生させ、
他の化け物から見えないように、雨のカーテンを作った。

「水子すーくい 水子すーくい。」
痢煙は、餓鬼に紛れて、水子すくいを始めていた。
勝手に、餓鬼のポイ(網)を、奪って・・・

『なんだ、この霧雨の化け物、勝手に俺の使いやがる。』
餓鬼は、痢煙を化け物と思っている。
雨女酸性の、魔力をこめた霧雨で、痢煙を覆い隠しているからだ。
人間という事がバレれば、一瞬で、夜食になってしまうのに・・・

「ああ、破れちゃった・・おじさん、弱くないコレ?」

『馬鹿いっちゃならねえ。このポイは、30歳まで処女を守った、処女膜だぞ!』
手鬼屋の化け物は、うだうだ説明を始めた。

しかし、もう痢煙の姿は無かった。
次の屋台目がけて走っていた。

コロリを飲みながら。

ドン!!

「うわっ」

「あら〜急いでるんよ〜だからごめんなさーい。」

ぶつかっても、立ち止まらない痢煙、走り続ける。
雨女酸性も、その後に続く。

何故そんなに急ぐのか?
それは、遊びたい屋台を見つけたから・・・

「スーパー目玉ボール!1個ゲット!!」

雨女酸性が、追いついた時には、すでに痢煙は、
目玉のスーパーボールを一個ゲットし、それを満足気に見せてくれた。

「あ、さんちゃーん。さんちゃんは、どうして白装束なの?
お祭りだから、もっと派手な着物着ればいいのに。」

まるで、痢煙は、はじめからお祭りに来たかのように、雨女酸性に言った。

『そうねえ、白装束じゃ・・ダメかしらね・・』

雨女酸性も、痢煙ペースにちゃんと着いていく。

『なら・・』

雨女酸性は、辺りを見回して、紅葉揚げをしている屋台に向かった。

紅葉を揚げている紅葉婆が、雨女酸性を見て、
『けっ、魚卵と交換だよ。』と言った。

雨女酸性は、首を横に振って『買わないわ、ちょっと見るだけ』と、
屋台の柱に飾られた、赤い紅葉の葉を着物の袖に当てた。

すると、みるみるうちに、白装束の着物が、
紅葉柄の着物へと変わっていった。

"雨蛙の衣"の擬態である。

「うわ〜さんちゃん、とても綺麗〜かわいいなあ。」
と、痢煙は、歩み寄り、紅葉揚げを勝手に食べた。

紅葉婆は、そのタダ食いに、まったく気づいていない。
必死に、紅葉を揚げている。

ジュワージュジュジュ。

紅葉柄の着物で、二つくくりのおさげ髪の雨女酸性は、
今、心の底から笑っている。

痢煙が、化け物の群れに怯えることなく、
祭りをいっぱい楽しんでいる姿を見て、
一緒に祭りを楽しみたく思った。

こんな、友達がいてくれれば、母が死んでふさぎこむ事もなかっただろうに・・

たとえ、痢煙が、人間であったとしてもだ。

ほんの少し前に会ったばかりだというのに、そう感じさせないほど、
自分によく接してくれている。

古くからの友人のように・・・

何年も、こんな楽しい思いをした事がない。
人間と仲良くなれるだなんて思いもしなかった。

自分が、守ってあげれば、人間の痢煙も、
この祭りを、最後まで楽しめる事が出来る。

雨女酸性は、もし、痢煙に害を与えそうな、危なそうな化け物を見つけたら、
すぐさま酸性の雨をかけて追い払ってやろうと堅く決意した。

「うわーっ スゴく楽しかった〜。
こんな夜中なのに、祭りやってるなんて。嬉しい!!」

痢煙は、新しいコロリを鞄から取り出し、ゴクゴクと飲んだ。

「ぷは〜・・でも・・・なんだか地獄みたいで怖いわ・・」

痢煙は、雨女酸性の手を握った。
少し怯えている・・・

(え?・・今まで・あんなに楽しんでいたのに・・
痢煙さんて・・天気より難しいですわ・・)

雨女酸性は、痢煙の変わりようの早さに、
まだまだ着いて行くことが出来なかったが・・・

痢煙の真似をして『がんばるもーん』と言った。


つづく・・・