鈎針婆の章 おろし!! #55†髪を結う雨女酸性†

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「あいたたた・・・すっごく痛い。」

痢煙は、腰を叩きながら立ち上がった。

「ふう、死ぬかと思った。」

痢煙は、フラリフラリと歩き出し、
パラグライダーの所へ向かう。

ここは、フェスティバルゲート。
その中庭。

中央に、メリーゴーランドがある。
夜中なので、もちろん動いていない。
ランプも点いてはいない。

メリーゴーランドの台、その近くに、
パラグライダーの紐に絡まった女が横たわっていた。

「大丈夫ですか?」

痢煙は、声をかけた。

『・・・』

女は動かない。

「大丈夫・・うーん・・大丈夫じゃないみたいね。」

痢煙が、手を出そうとしたとき、女の眼がギロリと睨み、
口から蒼い焔をチロチロと出した。

だが、女は、動けないでいる。

そう、このパラグライダーは、アントのパラグライダーだ。
よって、"対化け物加工"が施された布で作られているため、
絡みに絡んでしまった女は、魔力を封じ込められている。

「大丈夫だって。怯えない。怯えない。その焔イイね!」

と、痢煙は何食わぬ顔をしながら、女の手をひっぱり、
立ち上がらせ、メリーゴランドの台座へ連れて行った。

痢煙は、空で、この女とぶつかり、二人絡まりながら落下する。
そして、このメリーゴーランドの屋根に、ぶつかって着地した。

痢煙は、なぜ無傷なのか・・それは、偶然にも、女と屋根がクッションとなって、
落下した衝撃を分散させたからだ。

「名前なんて言うの?」

痢煙は、女を少し段になった台座に座らせ、
絡まったパラグライダーの紐をほどきながら尋ねた。

だが、女は答えない。

しかし、"自分では、どうする事も出来ない魔力封じの布"を、
何故か、この"人間"は取ろうとしていることを悟り、
女は、睨むのを止めた。

「凄いね。パラグライダーなしで空飛んでたね。」

遠くから、二人のシルエット見ると、まるで美容師さんが、
お客さんに語ってるようだ。

後ろにあるメリーゴーランドの馬の影は異様だが・・

痢煙も、パラグライダーの白い布が、女の首から下を隠しているのを見て、

「美容院ごっこだ〜」

と叫び、襷がけに掛けている「UNDER†BELLY」の黒い鞄から、
赤神に以前もらったクシと、いつも枝毛切り用に持ち歩いている
小さなハサミを取り出した。

「今日は、どんな感じにしますか?この辺りまで切った方がいいですねえ〜」

チョキチョキ。

チョキチョキ。

本当に、"ごっこ"でもなく、マジで切っている。

しかも、無断で・・・

例え人間でない化け物相手だとしても、それはないだろう。

しかし、女は、何もせずに眼を閉じている。

気づいていないのか?

それとも、パラグライダーが、女を弱らせているのか?

否、違った。

とっても、気持ちが良いらしい。

痢煙が、髪をクシでとけば、女は気持ちよさそうな顔をし、
チョキチョキと痛んだ毛先を切られると、また一段と気持ちよさげな顔をした。

痢煙は、髪をクシでとくのが大好きなのだ。
痢煙の腰まで伸びた髪は、良くとかれており綺麗に輝いている。

そんな髪をとく事が大好きな痢煙に、
赤神は、「とけばとくほど、輝く髪になるクシ 妖精櫛」を、
痢煙の、怪電波総合病院の退院が決まった時に、プレゼントしていた。

「お兄様、これなんかどう?スウェーデンの妖精櫛は。
先日、この妖精キャンドルを仕入れた時に、面白そうだから、ついでに入荷したんだけど・・・
痢煙さんに、ぴったりかと。」

そう、ダンナアが薦めた一品だ。

言うまでもなく、この妖精櫛には、不思議パワーが施されている。
痢煙の能力ではない。

「うわ〜綺麗な黒髪やね〜」

何度も、何度も、櫛を髪に通す。
すると、線香花火のうような小さな輝きが、
ポッポッと髪をとく度に生じ、
といた部分は、キラキラした髪になった。

雨女酸性は、自分の傷んだ髪が、美しい髪になっていく様に見とれていた。

『わたしは・・・雨女酸性・・』

「変わった名前ね!じゃあ・・さんちゃんやね〜。
わたしは、高足痢煙。よろしくう!」

カニカニ〜と、ハサミをチョキチョキして、「高足ガニ」を表現する痢煙。

しかし、すぐに真剣な顔に戻った。

今、痢煙の目は、髪の毛を切る事に集中している。
いよいよ、このマネゴト美容師、仕上げに入ったようだ。

チョキ、チョキ。
チョキ、チョキ。

チョキ、チョキ。
チョキ、チョキ。

チョキ、チョキ。
チョキ、チョキ。

「よーし。」

痛んだ髪の部分は、もうほとんどカット出来たようだ。

「さーて、さんちゃん、今日は、三つ編みにしましょう!」

痢煙は、手首にはめていた髪結いのゴム2本を使って、
雨女酸性の髪を、2つに分け、三つ編みにする。

「できあがり〜かわいいなあ〜。はいからさんみたーい。」

雨女酸性が、白色の着物姿で、おさげだからか?

『はいからさん?』

雨女酸性は、手の平の上に、小さな雨雲(パスポートサイズ)を発生させ、
雨を降らし、小さな水たまりを作った。
化け物封じの布に巻かれていても、これぐらいは出来る。

その水鏡に、映った自分の姿を見て、『クス・・』と笑った。

おさげは、少し恥ずかしい気がしたようだ。

『はいからさん・・だ。』

でも、黒く輝く髪に戻った事、それがとても嬉しくて、
髪をほどく事はしない。

なぜなら、自分の悩みを一瞬で解決してくれた、
このカリスマ美容師 痢煙という人間に、とても感謝しているからだ。

『これで、手に着いた髪の毛を・・』

雨女酸性は、人差し指でクイ、クイっと、プチ雨雲を、
痢煙の方に誘導した。

「さんちゃん・・・凄いね!では、お言葉に甘えて。」

痢煙は、その水で、手を洗い、ついでに顔も洗った。

「ぷは〜っ・・気持ちいいなあ・・・あ、それ、パラグライダー取らないと。」

忙しい人である。

ジョキジョキジョキ。

ジョキジョキジョキ。

痢煙は、絡まった紐をほどくのは面倒だと思い、
アントのパラグライダーだと言うのに、勝手に切り裂いて、
雨女酸性から、化け物封じの布を取り除いた。

その瞬間、雨女酸性は、フワッと宙に浮く。

「あっ!ヤラれる!!」

戦慄が走る!?

瞬時に、拳法家のように身構える痢煙。
もちろん、拳法などやったことはない。

そんな痢煙を見て、雨女酸性は、『ふふふ』と笑い、

『ありがとう。』と言った。

雨女酸性は、ただ、飛んでみただけだった。

「おう・・そうか、ヤラないのか。あはは」

痢煙も、笑いながら、構えをといた。

そして、ガサガサと鞄から、缶酎ハイ「コロリ」を取り出した。

プシュッ・・

「ぷは〜。仕事の後は、これだね〜コロリレモン。おいしい。」

痢煙は、ゴクゴク、缶酎ハイ コロリを飲んだ。

いったい、あの鞄の中に、どれだけ酒が入ってるのだろうか・・・

私がいつも飲んでる缶酎ハイ『カロリ』が元ネタ。
だけど一日に飲むのは多くても2本までや。
しかも、鞄に入れて持ち歩いてないし(笑)


そんな痢煙の姿を、雨女酸性は、微笑みながら・・・
美しくなった自分の髪を触りながら・・・

『この人間と、一緒にいよう』と思った。

客観的に見たら、"取り憑かれた"ことになるのだが・・・

栗毛色の腰まで届く長い髪、細身の身体。
自分のような化け物を見ても動じない、天真爛漫に生きる人間、
夜中、空を自由に飛んだり、酒を飲んで、楽しそうに笑っている人間、
雨女酸性は、『恵みの雨』を、この人間になら、高足痢煙のためになら・・

降らしたいと・・・思うのであった。




つづく・・・