鈎針婆の章 おろし!! #53†鳥居爺(とりいじい)

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シャン・・シャン・・シャン・・

シャン・・シャン・・シャン・・

『はて、赤い髪の男がおらん・・』

シャン・・シャン・・シャン・・

シャン・・シャン・・シャン・・

『ここだと、聞いたのにのう・・確かか?』

『はい、翁様(おきなさま)。ここだと聞きました。』

『本当か?間違っとらんか?』

『はい、翁様。小蛾葛(おがくず)が云うておりました。』

『うーん。赤い髪の男などおらん・・が・・』

「おい、翁!まどろっこしい事は止めてくれ。」

赤神は、直ぐ足下にいる小さな老人に向かって、
ため息をついた。

『いいじゃないかい、遊んでても。老人の楽しみを取りあげんでくれ。』
『はい、翁様。』

この老人、赤神とは、何度も会っているので面識はある。
例え髪の色が、赤ではなく黒だとしてもだ。

しかも、赤神のすぐ足下まで歩み寄ってから、
鈴を持つイタチと、先ほどのような会話をし出したのだ。

そう、ワザと、そのような事をしているのだ。

「時間がない。今日は止めてくれ。」

『むう・・・イタチ太郎っ』
翁は、ふくれっ面をし、"イタチ太郎"という名のイタチに、目で合図をした。

『おい、赤神!』

手を出す、イタチ太郎。

物を要求している。

「ああ・・・」

赤神は、ヒップバッグから、少しヘシャがった、油揚げ数枚と、
油の入った小瓶を手渡した。

油揚げの袋、小瓶の袋には、「ダンナアより愛を込めて」と書いてあった。

『うひょひょひょ。ダンナアちゃんは可愛いのう!』
『はい、翁様。』

とても喜んでいる。

赤神は、ため息をついて、

「渡すものは、渡した。さあ、案内してくれ。」

と、足下で飛び跳ねている翁とイタチ太郎をせかした。

『むう。これがあの可愛いダンナアの兄とはのう。可愛げも何もない。つまらん。』
『はい、翁様』

ふたりは、顔を見合わせ、不機嫌な表情を浮かべた。

そして、

『むう、行くとするか』
『はい、翁様。』

と、しぶしぶ歩き出した。

『やれやれだな』と、赤神は思いながら、二人の後ろに付いていく。


シャン・・シャン・・シャン・・

イタチ太郎が、鈴を鳴らしながら歩く。

鈴の音が、夜に響く。

その音を聞きながら、

赤神は、瞳を閉じ、自分の"弱さ"を悔いた。

『もう少し上手くやれれば、アイツらを・・』

自分の弱さのため、黒丸を亡くす事になった・・と

赤神は思い、胸が痛んだ。

道路に散乱している、ビニール袋を、足でぎゅっと踏みつけた。

シャンシャン!!

『おい、赤神!早く来い。止まるな!』

赤神の膝ぐらいまでしかない背丈のイタチ太郎が、
手に持った鈴ではやし立てた。
本当に、生意気なやつだ。

赤神は、遅れまいと駆けだした。

しばらく歩くと、翁が立ち止まっていた。

『着いたぞ。』

デーーーーーーーーーーーーーーーン!!

「うっ・・・や・はり・・」
赤神は、眉間にシワをよせた。

『赤神!何をしている。潜れ。はよう・・ヒヒヒ。』
翁が、ニヤニヤしながら言う。

『そうだ、赤神!早く潜りなさい。この鳥居の下を。急いでるんだろ?ケケケ。』
続いてイタチ太郎も言う。

まただ。
翁と、イタチ太郎の嫌味だ。
赤神が、この鳥居を潜るのが、とても嫌な事を知っている二人の、
いつもの嫌味だ。

この鳥居は、汚れている。
いや、鳥居は、綺麗なのだが、その周りがとても汚い。
そして臭い。

モワーンとアンモニア臭がする。

なぜなら、この鳥居がある場所は、
"放尿天国"なのだ。

"放尿天国"とは、
『なぜか、そこで、放尿してしまう場所。』

ただのコンクリートの壁なのに、その場所で、必ずみんな用を足す。
青空住民の人々、通行人、サラリーマン、すぐ側のマンションの住人ですら、
トイレを使わずに、「ちょっとしてくるわあ」みたいな勢いで、
簡単に用を足してしまう場所の事を云う。

別に、何かのパワーが、そうさせている理由でもない。

なんとなーく・・なのである。

そこに、赤神が潜る鳥居がある。
まあ、鳥居があるといっても、実際にあるのではない。
鳥居の絵が、壁に小さく描かれているのだ。
このような小さな鳥居の絵、確かに町中に実在します。
目的は、「放尿させないため」。ほんとなんですよ。
だけど、あんまり効果はないみたいで・・・(笑)


見た目は、まるで壁に描かれた落書きのような鳥居の絵。
そこが、異空間に繋がる入口だと、誰が知ろうか。


翁がニヤニヤと笑う。
『ほれ、どうした。ほれ、ほれ。早う入ってみい。ヒヒヒ。』

赤神、深く息をし、鼻を摘んで、汚い壁に近づく。
とても耐えられない汚さ、衣服に付かないかハラハラである。

ネチャア・・・

靴の裏に、何かネバネバしたものが付着するのが分かる。

『ああ・・凄く嫌だ・・』

赤神は、それでも仕方なく前へ歩をすすめる。

ネバチャ ネバチャ・・・

靴底のネバネバが、アスファルトとの間に糸を張る。

ネバチャ ネバチャ・・・

『黒くても赤神、どうじゃ、いやか?』
翁は、嬉しそうな顔をして、厭そうな顔をしている赤神を見て喜んだ。

『どうだ いやか?』
イタチ太郎も相当喜んでいる。

「ああ・・・」

赤神は、衣服が汚れないよう、いつになく慎重に歩く。

『あっそ・・・来る前に、多めに汚しておいたんじゃ。ヒヒヒ。』
翁は、自慢げに、汚物の方を指差して言う。

『そうだ!汚しておいたんだぞ。ケケケ。』
イタチ太郎は、前歯を見せて笑う。

「・・・」

何も言葉が出ない赤神

その様子を見て、翁は少しクールな表情をし、

『さて、行くぞ。イタチ太郎』と言った。

イタチ太郎も、クールな表情で
『はい、翁様。』と言った。

そして、翁とイタチ太郎は、クルリときびすを返し、
赤神の進行方向とは逆に進み出した。

え?いったい何処へ。

ふたりは、一本の電柱に向かった。

そこにも、壁に書かれた鳥居と同じ鳥居の絵が描かれてある。

『なにいいいいいいいいいっ!!』

と、赤神は、もの凄く腹が立った。

だって、そちらは、全然汚れていなかったのだ!!

なんのために歩いたのだ。この汚くて、臭いところを。

『ハッハッハア〜』

翁は、高笑いをしながら、なにやら、呪を唱え、
その鳥居の中に入っていった。
『ケケケ』と笑いながら、後に続くイタチ太郎。

赤神も、走って戻り、間一髪、空間が閉じる前に中へと入った。

異空間中は、真っ暗だった。
どこまでも続く闇だ。

振り返ってもすでに、入口は閉ざされていた。

『いない いない ばああっ』

ボッ ボッ

赤神の目の前に、青い焔が、2つ現れた。

狐火だ。

『赤神 ここからは真剣にの。はぐれたら・・終いじゃ。』

翁の顔を照らす狐火。

『赤神 終いじゃ。』

イタチ太郎の顔を照らす狐火。

もう、先ほどまでの顔つきでは、なかった。

『ふざけてたのは・・お前らだろ・・』
と赤神は思った。

ここは、異空間の入口。
"僕の細道"という。
つまり、翁の細道のことだ。

しばらく歩けば、大きな主要路に出る。
"僕の太道"という・・らしい。

赤神は、狐火を頼りに、後に付いていく。

主要路まで行かなければ、何も見えない。

ここは、光がない道。
真っ暗で、何も見えないところ。

または、何もないのかもしれない。

ゆらゆらと宙に浮く青い焔だけが、本当に頼りだ。
まるで、暗闇の中を綱渡りしているような感覚だ。

少しでも、道をはずれると、
奈落の底に落ちてしまうような感覚に襲われる場所、

"僕の細道"

早く、光がある"僕の太道"に行こうと焦ると、
ここの何処か、数え切れないほどの無数の穴に落ちて、
一生彷徨うことになってしまいかねない。

この道で、頼りになるのは、アイツらしかいない。
特に翁だ・・だが・・

「性格に問題がある。」

赤神は、目の前で揺れる焔を見失わない程度に、
いろいろ考えながら歩いた。


遠くに、光が見える・・・
ようやく、この暗闇から解放される。

"僕の太道"だ。

その光を目ざし、赤神は歩を早めた。

『着いたのう。』
『はい、翁様』

その言葉と同時に、2つの焔は消えた。

そして、光の穴を潜る。

赤神も、目を細めながら、その穴を潜る。

そこは、薄いオレンジ色の空がひろがる空間。
太陽、雲、月、星というものは、一切ない空。

ただ、白くもあり、オレンジ色のようでもある空が広がっている。

大きなトンネルのような空間、これが主要路 
"僕の太道"だ。

この主要路には、あらゆるところに穴がある。

これらは、先ほど通ってきたような暗い道、
数々の"僕の細道"へと繋がっている。

『はて、どっちへ行けばいいのじゃ?』
『そうですねえ・・どっちへ行けば・・』

翁とイタチ太郎が顔を見合わせた。

「ああ・・・」
赤神は、行き先を伝えていなかった事を思いだした。

「フェス・・」

赤神が、行き先を伝えようとした時、遠くから声が響いてきた。

『鳥居〜翁さ〜ま〜』

『お〜き〜な〜さ〜ま〜』

その声は、だんだんと近づいてくる。

『ホホホ、来た来た。可愛い娘たちが。』

遠くの方から、点々と黒い影が近づいてくる。

『ああ!!』
『ああ!!』

『赤神さまだ!』
『赤神さまだ!!』

そう叫びながら、小狐の群れが、
次々と、人間の姿に変化していく・・・

コン!

シュババッ!

コン!

シュババ!

駆け寄ってくる姿は、晴れ着を着た人間の女の子の姿。

その娘らが、
『きゃ、きゃ!』と、はしゃぎながら赤神の脚に抱きついて来る。

イタチ太郎は、それを見て
『ケッ』と鳴いた。

数えると、12人の女の子が、赤神の周りを囲んでいる。

『赤神さま、赤神さま、御髪が黒くなってるよ。』
『どうなされたのですか?赤神さま。』
『ひどーい。服がボロボロ。』
『会いたかったですう。』

黒髪の娘らが、しっぽを振りながら、おのおの、いろいろ聞いてくる。

『赤神さま、これを。』

その女の子の中でも、ひときわ可愛いオカッパ髪の娘が、歩み寄ってきた。

『ああ〜』
『小蛾葛〜っ』
『小蛾葛姉だ!』
『アンタ、今までどこに行ってたの?』
『あ〜忘れてた〜』
『はやく、はやく。』
『はやく、はやく。』

女の子は、これで13人になった。

その小蛾葛と呼ばれた女の子は、蛾が舞う紅色の振り袖を着ている。

手には、漆塗りの箱を持っている。

両脇の女の子が、その箱の蓋を、ゆっくりと取った。

その中には、赤神の服が綺麗に畳まれて入っていた。

『うわ〜綺麗なお洋服。』
『ダンナア様から、先日より預かっておりました。』

『おお・・ダンナア。』

二人の娘に、煙草に火をつけてもらっている翁が反応する。

『赤神様、着替えましょう!』
『手伝いましょう』
『さあさあ、早く、早く。』

きゃっきゃっと黄色い声を出して、
若い女の子らが、赤神のコートを脱がせていく。

穴の開いたコートや、汚れたズボンなどから、
ハイル・ビニールとの戦いの凄まじさが見受けられる。

『おい、赤神。それで、お前、何処へ行くのだ』
見るからに不機嫌な顔で、イタチ太郎が、赤神の前に割り込んでくる。

「フェスティバルゲート」

『ほう・・祭りが開かれる場所じゃな。』

翁は、口から煙りをはいて、赤神の方を向いた。

「祭り?」

赤神は、眉間にシワを寄せた。

『はい、赤神様。噂が流れております。』

と、小蛾葛が言った。

「噂?」

赤神の眉間にますますシワがよる。

『はい。どぶおちろが囁いております。今夜、彼の地で、月から"ゴンドラ"が降りてくると。』

『もう、そこまで噂が・・』
赤神は知らされた。

なら、なおのこと急がなければならない。

『あと、赤神様・・・』

小蛾葛が、言いにくそうな顔をした。

「なんだ、小蛾葛。」

赤神は、すっかり身支度が終わり、綺麗になった姿になっている。

『途中、髪の長い女性が、鉤針婆の針に・・』

その瞬間、赤神の目が鋭くなった。

『赤神様、私も見ました。その後、坊主が飛んできて・・・』

「坊主?」
赤神の眉間にまたシワがよる。

いったい、何が起こっているのか全然分からない。

「それで、どうなった・・」

『目の前が白くなった・・ので・・』

『信号蟲じゃ』

翁が言った。

『小蛾葛は、外に出ずに、穴から様子を見ていましたら、一瞬、目の前が白く・・』

『信号蟲フラッシュじゃ。そう言えば、あの辺りに最近巣を作ったようじゃの。』

「では、まず、そこへ行こう。案内してくれ。」

赤神は、何がどうなっているのか、まずは知る事が必要だと考えた。

『はい、赤神さま。こちらです。花園は。』

小蛾葛は、そう言いながら、駆けだした。
姿は、みるみるうちに小狐に変わっていく。

『ケッ、赤神、遅れるなよ。』
イタチ太郎も、その後を追う。

『よっこらせ、ワシもいくかいのう』

翁も走り出す。案外、速い走りっぷりだ。

姿も人から、古狐に変化していった。

赤神も、遅れまいと、黒い髪をなびかせて駆けだした。

その後を、きゃっ、きゃっ、と小狐たちが付いていく。

それぞれ、赤神の衣服を抱きしめて・・・



どれだけ走っても、景色は変わらない。

よく見ると、穴の位置が、少しづつ変わっていくだけだ。

この異空間の道は、日本のあらゆる所に張り巡らされている。

以前、恐山に行った時の記憶が蘇る。
あの世に行く方法などを、詳しく聞いたのも、
この鳥居爺からだ。

この"異空間の道"に関して、鳥居爺に勝るものはない。
しかし、あの嫌味な性格は、どうも、赤神の苦手とするところだ。

だから、正直会いたくはなかった。
ダンナアに言われたから・・仕方なく・・
「第35話」で、ダンナアが赤神に勧めてましたね。

『おい、赤神。ダンナア様の好きな物はなんだ。』
赤神の足下を、うろちょろと八の字を描くように走るイタチ太郎。

本当に生意気な顔をしたイタチだ。

いっそ、踏んでやろうかと思った。


その時 ー ー


グッワッシャーーーン!!


バキューン!!

バキューン!!


「ウラアアアアアアアアッ」

『きゃあっ!!』

立ち止まる小蛾葛。

翁も、他の小狐たちも、

破壊音、銃声、怒鳴り声がした、天を見上げた。


『う・・苦しい・・赤神・・踏んでる!踏んでるよ〜赤神さーん』

赤神は立ち止まった勢いで、イタチ太郎を、思いっきり踏んでいたのだ。

「ああ、ワザとだ。」

赤神はニヤリと笑った。

そして、天から落ちてくる影を見た。

その影は、落ちながらも、とっくみあいの喧嘩をしている。

ひとりは、銃をぶっ放し、ひとりは、パンチのラッシュを、ボディに浴びせていた。

『なんじゃあ、アイツら。空間に穴なんぞ開けよって。』
と言いながら、翁は、また人の姿に変化した。


ドスーーーーーーーン・・・・


「オラオラオラオラ!!」


もの凄い音を立てて落ちた二人、それでも、まだ殴り合っている。

「赤神さま。あれ・・なんですう?」

赤神の横に、寄り添って来たひとりの少女が聞いた。

「・・・」

赤神は、固まるしかなかった。

小蛾葛も、目の前で殴り合っている人間たちを見て、
先に進めずにいた。

「チョット!チョット!タイムデース。」
下になっている金髪の男が、大声で叫ぶ。

そんな事など「聞く耳もたん!」という感じで、
ラッシュを続ける坊主。

ドスドスドス・・

「ミンナ、ウォッチ、ミーデス!!見テマース!ストップ!ストップ!」

「騙されるかあっ!!ノン・ストップ・ゲームだ!バカヤロウ!!」

「ウオオオオオオオオオオッ」

「妖怪デース!!」

その瞬間、坊主は、ピタっとパンチを止め、辺りを見回した。

そこには、自分たちの様子を見ている、妖狐の姿があった。

「ああ・・みなさん・・いつから?」

坊主は、息を荒げているのを、抑えようと、唾を飲み込んだ。

「空怪、ドケ。」

下の金髪男は、空怪の脚の間を、まるで芋虫のようにすり抜けた。

「オー!キュートナ、ガール達デース。」

「アント・・」

赤神は、ポロッと、その全身白色のカウボーイ野郎を見て、言葉を漏らした。

「ン・・」

アントは、目を細めた。

「髪・・ブラックダケド・・」

『赤神デース。ほほほほ』

翁が、アントの口調を真似して、後を続けた。

「赤神・・じゃないか・・このような所で、何をしているんだ?」

空怪は、少女の頭を撫でるのを止めて、赤神を見た。

『お前らに言われたくない』と赤神は思った。

『おおおおおっ!!可愛いのう。可愛いのう。ホホホホ』

翁が、なにやら見つけて、それを抱きあげた。

『信号蟲じゃ。ほれ、怖かったな。こいつら怖かったな。』
翁の腕の中には、赤子ぐらいの大きさの、プルンプルン肌の幼虫がいた。

『あーあ。』
『あーあ。』

女の子達が、空怪とアントに詰め寄り、天に空いた穴を指差した。

『信号蟲の巣に穴を開けて、信号蟲が、落ちてきたじゃないのっ!!』

と、声を揃えて、少女たちは二人を叱った。

「すまぬ・・」
「ソーリー」

空怪と、アントは、お互いの姿を見て、少しやりすぎたなと反省した。

『赤神さま、こちらです。』

小蛾葛が、赤神の横に立ち、赤神の手を引いた。

赤神は、小蛾葛と二人、先にある横穴、
"僕の細道"に、向かった。

「ヘイ、YOU!! ストーップッ」

アントが、大声で叫んだ。

『ヒッ』

近くにいた少女は、びっくりして、狐の姿に戻った。

赤神は、これ以上付き合うのは時間の無駄だと思い、右手を挙げただけだった。

「ヒサシブリナ〜ノニ、アイソ悪イデース!!」

バキューン!
バキューン!

アントは、そう言いながら、銃を2発ぶっ放した。

もちろん、赤神に向けて。

いきなりの銃声で、四方八方に逃げ回る狐たち。

翁は、平気な顔で、信号蟲をあやしている。

『お〜よしよし。いい子でしゅね〜』

イタチ太郎は、ひょこっと起き上がりキョロキョロしている。


弾丸 2発が赤神に迫る!!

ヒュン

ヒュン

赤神は、それを見ず、いとも簡単に、弾2発を避ける。
小蛾葛を抱いて。

次の瞬間、アントは空を飛ぶ!!

??

いつの間にか、目の前に赤神がいる!

そう、アントが思った時、
腹に激痛が走り、自分の身体は宙に浮いていた・・・

「Why?」

一瞬のうちに接近した赤神が、アントの懐に入り込み、蹴りを一発入れたのだ。

アントは、軽く蹴り飛ばされた。

「じゅ、10メートルぐらい・・あったぞ・・あそこから。」

空怪は、小狐を抱きながら、自分の目を疑った。

そして、更に目を疑った。

「え・・もう・・向こうにいるじゃないか・・」

空怪は、目を擦った。

アントは、キョトンとしている。

赤神は、約10メートル先の穴に、身体半分ほど入り、
ニヤリと笑った。

「ホワッツ?」

アントは、空怪を見たが、空怪は、首を横に振っただけだ。

『影じゃよ・・』
翁は、ニコニコしながら言った。

『はい、翁様』
自分は、銃声には怯えていないぞという顔で、イタチ太郎は言った。

『きゃあ、素敵ですう 赤神様。』
『あんなの見たことな〜い〜きゃ〜』

キャッ、キャッ、とはしゃぐ少女たち。

「黒丸か?・・・」

空怪は、目を細めて言った。

赤神の発する気から、何かを感じ取ったようだ・・

「ザンネンデース。黒イ髪デシタノデ、弱クナッタト思ッタノニィ。」

「お前は、下手なんだよ。」
空怪は、ニヤっと笑って、アントに撃たれた横腹の傷を隠した。

「ウ・・悲シイデース。Todayコソ勝テルト思イマシタ。」

アントは、ションボリとした顔で、
ゆっくりと起き上がり、銃をホルスターに戻した。

「それで、赤神は、何処へ行ったのだ。」

空怪は、翁の方を向く。

その隙をついて、空怪に抱かれていた狐が、逃げ出した。

『髪の長い女が、鉤針婆にさらわれた場所だ。』
イタチ太郎が、大きな声で言った。

「り・・痢煙さん?」

空怪は、あの時、一瞬目にした痢煙の姿を思い出す。

「オオ・・ハニー。」

アントは、意味もなく"痢煙"という名前に反応した。

「詳しく聞かせてください。今、いったい何が起こっているのですか?」

空怪は、アントの口を押さえて、翁に尋ねた。

『祭りじゃよ・・』

翁は、目を細め、ゆっくりと語り出したのだった。


つづく・・・