鈎針婆の章 おろし!! #52†ポルターガイストの夜に†

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ダンナアは、今か今かと自分の部屋で待っている。

戦闘服には、すでに着替えている。

ゴシックなパフスリーブの黒色ワンピース。
胸元が大きくあいているワンピなので、
銀の十字架がよく映える。

ドレスハットかヘッドドレスか迷ったが、
とりあえず黒色の細いリボンにしてみた。

あまりにもブリブリでは、もしもの時(兄が帰ってきた時)に恥ずかしい。

銀色の長い髪にリボンが映える。

もちろん、すべて「UNDER†BELLY」の服だ。

なかでも、ワンピースは、
モデル 白桃・ムウ・スンが着て、今年、女の子の間で話題になったワンピースだ。

それを戦闘服と言っているダンナア・・・

それで本当に森魚率いるハイル・ビニールと戦うつもりなのだろうか?

「あ、これこれ、わたしの秘密を守るために・・・。」

ダンナアは、兄の部屋にあった、まだ作りかけの人形、赤悪人形を足下に置いた。

この赤悪人形、赤悪欲照の怨念が封じられた人形である。
まだ作りかけの人形で、手足が無い。
顔だけ作られている。
猿のような猿でないような変な顔の人形だ。

そんな人形をいったい??

「CDの用意も完璧なのに、本当に遅いですわ。」

ダンナアは畳の上に正座し、瞳を閉じた。


時計の秒針の音が、いつもより大きく聞こえる。

コチコチコチ・・・

風が、庭の草の上を走り、ダンナアのいる部屋へ入り込んできた。

ガタガタ・・障子が揺れ、

蝋燭の炎が、すーっと消えた・・・


ガタリ・・・


物音がした。

ガタ・・

また音がした。

ミシ・・

ミシ・・・

ミシ・・シ・・・

家鳴りがする。

天井または屋根を何かが歩く・・・

ダンナアは、右手をゆっくりあげ、人差し指で、目の前の闇を指す。

ジャーーーーーーーーーーン

その瞬間、音楽が鳴り出す。
ダンナアの大好きなプログレ。

目を開けるダンナア。

ボッ

ボッ

ボッ

次々とキャンドルに炎が灯ってゆく。

柱、床、天井のあらゆるところに、ハイル・ビニールの姿が現れる。

パイプオルガンの音が、だんだん大きくなり、
プログレ独特の世界が広がってゆく。

ゆっくりと立つダンナア。

ジリジリと迫るハイル・ビニールたち。

この庵に、100体近くのハイル・ビニールが集まっている。

森魚は、赤神緋威露に忠告された事により、
より一層、赤神一族への怒りの炎は大きくなり、これほどまでの大部隊を送り込んで来た。

ダンナアの望みが叶った事とも知らずに・・・

「さあ、来なさい。わたしのところへ。」

ダンナアが、プログレの曲に合わせて、語りかけてきた。

その瞬間、森魚は、激しく十字キーを押しながらAボタンを連打した!!

『ハイル・ビニーーーーーーーーーーールッ!!』

グワッ!

まず、ダンナアの部屋に入り込んだ、4体のハイル・ビニールが一斉に飛びかかった。

ガガガッ

ダンナアの後ろの壁から、引き出しが次々に前に出る。

シュババババッ

引き出しに敷き詰められたCDケースが次々と上へ飛び出す。

ヒュヒュヒュッ

ケースが開き、中のCD(刃物)が、ハイル・ビニール目がけて飛ぶ。

それは、一瞬のことだった。

ハイル・ビニールの身体に、円形の刃物が次々と突き刺さっていく。

ふっ飛ぶハイル・ビニール。

ガガッ

中身を飛ばした空ケースは、次々に、引き出しの中へ仕舞われ、
その引き出しは、元の壁へと仕舞われていく。

ガガガッ

それが繰り返される。

壁一面が、CDの収納場所になっている。
だいたい、30枚のCDが収まる引き出しが、数え切れないほど壁と同化している。

飛び出たCD(カット&デス)は、ダンナアを中心に、空中をグルグルと回転し、
防衛ラインを築き上げる。

ダーンダダダーン!!ダーンダダダーン!!

曲調がいよいよ激しくなっていく。

ボリュームも、ダンナアのテンションと同じく上がっていく。

「きゃあああああああっ こいこいこいこいこーいいいっ!!」

次々と、CDの餌食になるハイル・ビニール。
それでも、ハイル・ビニールは、引き下がることなく、ダンナアの間合いに入っていく。

人海戦術だ!!

しかし、もう手遅れだ。

ダンナアは、プログレの曲に陶酔しはじめている。

これがどういった事か分かるか?

銀色の髪が縦横に揺れる。

ダンナアは、まるで空を飛んでいるかのように、フワフワしている。

いや、飛んでいる!!

人間が空を飛んでいる!!

そう、宙に浮いている。

フワフワと。

ダンナアはすでに、空中に浮遊しているではないか!!

ダンナアのつま先が、畳から15センチほど離れたところにある。

これが、ダンナアの秘密。兄にも話していない秘密。

赤悪人形で守らなければならない秘密。

それは、ダンナアの父方の、血筋の因縁にまつわること。

エクソシストならではの因縁。

ダンナアと丞とは、父親が違う。

イギリス人のエクソシストが、ダンナアの父親。

過去、父方の先祖に除霊された忌まわしき霊魂の魂の破片が、
子々孫々までに取り憑いた。

ある霊は言った。

「この怨みはらさでおくべきか(注 : 日本語訳)」

ある霊は言った。

「子々孫々、末代まで祟ってやる(注 : 日本語訳)」

これこそ、代々エクソシストである父方の家系の呪い。

ダンナアには、切っても切れない因縁。

長年の蓄積、除霊で、ミイラ捕りがミイラになってしまった。

ポルターガイスト(騒がしい霊)憑きの家系。

しかし、ダンナアは、ポルターガイストに身体を壊されることはない。

ダンナアの身体の半分には、赤神緋威露の血、つまり鬼の血が入っており、
そのパワーは緋威露で完成されているので、絶大である。

その鬼の血が、ポルターガイスト(複数の霊魂)を支配し、
ポルターガイストに今までにはない、概念が生まれた。

共存、または守護する概念。

これは、ポルターガイストによって悩まされる人にとっては、
羨ましがられる事だろう。

通常、ポルターガイストに憑かれた人間は、肉体を支配され、
肉体精神ともに、蝕まれ、最終的には命を落としてしまう。

しかし、ダンナアは違う。

ポルターガイストが、まるで守護霊のように、ダンナアを守る。
鬼の血と、ポルターガイストのミラクルパワーで、
想像を絶する霊的現象が起こる。

それがまさに今だ!!

「死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

敷き詰められたすべての畳から、プチプチと音がする。

イグサが千切れる音だ。

その音が、次第に大きくなっていき、

バキッ

バキッ

バキッと、畳がまっぷたつに割れ、ハイル・ビニールを飲み込んでいった。

そして、

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

襖、障子が激しく揺れ出す。

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

もっともっと激しくなっていく。

バリバリバリーーーーーッ

庭にいるハイル・ビニール目がけて、襖、障子がすべて飛んでいく。

CDも飛ぶ!!

台所の包丁も!!

ナイフもフォークも!!

皿も、コップも!

あらゆるものが、ハイル・ビニール目がけて飛んでいく!!

戸棚の扉は、バタバタと開閉し、

ヤカンの水は沸騰し、

窓ガラスは割れ、その破片は、ハイル・ビニールを狙う!!

激しい風が部屋中に吹き込んでも、キャンドルの炎は消えない。

その炎に焼かれるハイル・ビニール。

『うわあっち うわあっち!!』

それでも、この怪異は、まだまだ予兆にしかすぎない。

ガタガタ揺れる赤悪人形。すっかりお目覚めだ。

家の中の全ての時計の針が、ぐるぐると回転し、
ゴンゴンと、時計の鐘を鳴り響かせる。

まったくもって騒がしすぎる。

ダンナアを守るポルターガイスト(たち)

『な、なにが、起こっているんだ・・』

森魚は、このゲームに付いてこれていない。

『う、なんだ?何か来る!!』

腹の底まで響く音。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

地鳴りがし、家がガタガタ揺れ出す。

しかも、縦揺れだ!

『うっあわあわあわあわあわあわあわあわあわあわ・・・』

ズズズズズズズズズズズズ・・・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

ズズズズズズズズズズズズ・・・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・


ダンナアが、ますます宙に浮いていく。

もうすぐで天井に頭が当たりそうだ。

赤悪人形も後を追って浮いていく。


バキバキバキ

バキバキバキ

もの凄い音がする。

家だ!

家が壊れる音だ!!

バキバキバキ。

バキバキバキ。

なんと家が!!

庵が!!

まるで花が開くかのように、

水芭蕉が花開くかのように、

ゆっくりと壊れていく。

花びらのように。

ゆっくりと解体されていく。

ダンナアの頭突きで、壊れたのではない。

ポルターガイストが、屋根を上に持ち上げたのだ!!

そして、壁をも、根こそぎ倒している!!

ポルターガイストが、おそるべきパワーで、
ダンナアの家を破壊している!!

ガシャーーーーーーン!!

屋根の下敷きになるハイル・ビニールたち。

折れた柱の下敷きになるハイル・ビニールたち。

壁に押し潰されるハイル・ビニールたち。

何百枚もの瓦をぶつけられるハイル・ビニールたち。

それらを、なんとか逃れたとしても、

ダンナアの周囲に渦巻くハリケーンに身を粉々にされるハイル・ビニールたち。

カット & デス。


こんな激しい状況の中でも、
ダンナアは、涼しい顔で笑っている。

「ふふ・・ふふふ。」

屋根が崩れても、ダンナアは無傷。
絶対に当たることはない。

瓦も梁も、柱もダンナアを避けていく。

ポルターガイストがダンナアを守る。

ダンナアは、ゆっくりと高く、高く、もっと高く・・・飛んでいく。

月明かりに照らされるダンナア。
銀髪と黒いワンピースが風に揺れ、美しいほどに、光を放つ。

赤悪人形も、ダンナアの後をしっかりと憑いて来ている。

これほどまでに激しいポルターガイスト現象は初めてだ。
今夜は、好き放題のダンナア。

調子に乗っていること間違いない!


ここまで、破壊が進んだのも、この赤悪人形があったからだ。
赤悪人形が怨念増幅装置のような役割を果たした。

『しかし、これは能力でもなんでもない。ただのポルターガイスト現象だ!』

と、森魚は怒るだろう。
しかし、彼は、気づいていない。

すべて、これは"ダンナアの術"だと思いこんでいる。

『ここまで・・妹には、力があるのか?なら、兄はもっとあるのか?』

森魚は、部隊の半数以上をすでに無くし、撤退するかどうか、
もの凄く迷っている。

迷いは、坊主の代名詞ともいえるが、この終末坊主は、本当によく迷う。

「ふふふ。森魚・・カマーーン・・」

髪の毛を掻き上げ、胸元を前に突き出し、森魚を誘うダンナア。

その胸に、森魚は挑発された!

『ヤレる!まだヤレる!』

十字キーと、Bボタン連打。

そして長押しAボタン!!

その時、ダンナアの胸元の、銀のクロスが反時計回りに回転する!!

逆十字!!

その瞬間、もの凄い音がする!!

グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

さっきまでとは、桁外れの竜巻が、ダンナアを中心にして巻き起こった!

壊れた家の残骸が、渦に巻き込まれる!!

大黒柱。

屋根。

窓枠。

床板。

黒い猫脚の机。

猫足の椅子。

黒い洋服ダンス。

チェスト。

兄の服。

ダンナアの桐のタンス。

モロッコのランプ。

シャンデリア。


それらが、一斉に、加速をつけ、ハイル・ビニールに向かって飛んでいった。


グワシャーーーーーーーン!!


ハイル・ビニール全滅。


ポルターガイストは、戦いの中、美と騒々しさを求める。
プログレとともに・・・


つづく・・・


森魚って、ある意味、痢煙よりもバカなんじゃあ・・・(笑)
ダンナアは、兄の部屋に勝手に入ってるし(笑)