鈎針婆の章 おろし!! #34 †月空の怪異†

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 カラン・・コロン・・コロコロ・・・

 夜中静まりかえった頃に、道を転がる空缶の音を一度は聞いたことがあるだろう。
あれは空缶娘の仕業である。

空缶娘とは、空き缶の残り汁をすする妖怪である。

この妖怪は、人が寝静まったころに、
道などに転がっている空き缶を拾い集め、
その缶に入っているジュース・・残り汁をすする。

身丈は、小学生三年生ぐらいのやや小柄。
髪型は、おかっぱで、人間で言う性別は女。
小さなかわいらしい女の子である。
身に纏っているものは、黒と朱色のボロ布。そして、雨でもないのに蓑(ミノ)を纏っている

手には、大きなハサミ、そして、大きな鎌を持っている。
そして、大きな眼は黄色でまるで猫のような目つきをしている。
口は耳もとまで裂けている大蛇なのような形相。

その大きな口から、鋭く尖った歯がまるでサメの歯のようにぎっしりと生え揃っている。

この鋭い歯でガチガチと缶を噛む音は、おぞましい。

鼻は、低く上を向いている。
その嗅覚は、犬のように働き、どんな匂いでも嗅ぎ分ける力をもつという・・

そして、この妖怪の特徴として、もっとも恐ろしいのは、
空き缶の残り汁から、その缶を捨てた者の魂の香りを嗅ぎ分け、その魂の人間を見つけだし、
喰らいつき、食い殺すという・・・

そう、缶に付着した魂の匂いと、液体に残る記憶を舌で読み取り、
その者の住処をみつけ、枕もとにたち・・・魂を奪う・・
自慢の歯で魂に喰らいついて・・・

そして引きずりだされた魂は、魂瓶と呼ばれる瓶に入れる。
その魂は、地獄の業火にも焼かれず、消滅もできないまま、永久に瓶の中で存在する・・
何もない・・瓶の中で・・気が狂いそうになるほどの・・・永久の時間を・・・

ようするにジュースなどを飲んで、何のためらいも無く、缶を道などに捨てていると、
この空缶娘に魂を吸い取られるということだ。

その取られた魂の行く末は、記されてはいない。
魂の瓶の中に、永久に存在するとしか・・・

 わたしは、『奇奇怪怪』と表紙に記されている和綴じの古臭い本を閉じ、
紫色の風呂敷に包む。

そう、わたしは、空缶娘を調査している。

こんな綺麗な月夜の晩に、わたしは一人、夜道を徘徊していた。

わたしは、旅の僧侶。
この神と仏の国、日本を徘徊する。

名を空怪。
「空怪(くうかい)」モデルは、痢煙の友人の「くうちゃん」という人です。
くうちゃんは、女性ですが、おろしの中では、男性、しかも僧侶です。

旅に準じて、妖怪を見つけ記録するのが、わたしの修行なのである。
ほとんど生き甲斐に近い・・

これまで、たくさんの妖怪、化け物に会ってきた・・
そのほとんどが、人間が妖怪、化け物に、脅かされている・・
助けてほしい・・そう言った悩みからだ・・・
その悩みを救うために、わたしは、妖怪、化け物に前に立つのだが・・

わたしは、決して妖怪、化け物を倒したくはないのだ・・
不本意なのだ・・
できるなら、人間の過ちを償い、妖怪、化け物とともに過ごしたい気持ちだ・・
わたしは、妖怪、化け物と人間の仲介役になりたいのだが・・
今だたって成功した験しはない。
悲しいかな・・退治せざるをえない・・この苦しみ・・

わたしも・・化け物に憑かれているのか・・・
そうなのかもしれない。そうでないのかもしれない・・・
苦しい・・わたしも・・化け物になろうとしているのか・・

人間は、陰と陽との交わりから生まれたもの。
空缶娘も然りである。

彼女も陽と陰の性をもつ妖怪なのである。
人と同じ・・

わたしは、人間のエゴで彼女の居場所を突き止めなくては、ならないのである。

『ある人の・・魂を返してもらうために・・・』

彼女に奪われた魂。
穢れた人間の魂ではあるが、人間の魂には、代わりがないという理由をこじつけて・・・

わたしは、彼女になんと言って諸悪なる魂の返還を要求すればよいのだろうか。

言霊が思いつかない・・・

わたしは、もう一度、風呂敷から『奇奇怪怪』と書かれた和綴じのきな臭い本をだし、
空缶娘の項目を開けた。

彼女に会わなければ・・・・

時間がない・・・あの方からの、命令である・・受けたくはないが・・仕方が無い・・

--さるお方の、ご嫡男が、空缶娘の逆鱗に触れ、魂を奪われた・・明後日後までに、魂を奪還せよ。
報酬は、妖怪点滴 一年分だ・・・--

「負けた・・我が体は・・もう・・」

そう、空怪は、悲しそうに呟いた・・・

ギガガガガガガガガガ!!ギュワン!!ガガ!!

突然、爆音とともに黒い車が猛スピードで後ろから接近してきた。

バシュウ!!

「ぬっ!」

危機一髪。
空怪は、歩道に転げ、受け身をとった・・・

「何だ・・・あれは・・」

その転んだままの姿勢で、その車を見る空怪。
その目に、ある影が飛び込んできた。

「人ではない気・・・化け物・・」

今、まさに、その車は妖怪、化け物の襲撃にあっていた。

ギュガガガガガ!ギュイーン!!ギュイーン!

 ハンドルをとられた車は、猛スピードで蛇行している。

その車上に、その化け物は、振り落とされることもなく・・いる・・

そう、まるでサーフィンをするがごとく、車上に乗る者がいるのだ・・

蓑をはためかせ、手に大きな鎌を持った娘である。

そう、あの本の絵に書かれた化け物だ・・まあ、少し描写とは、違うところはあるが・・・

実物は、東北地方で有名な鬼・・あのナマハゲの姿に似ていた。

それは、蓑を被り、お面をつけているからであろう。

顔が見えない。

空怪は、無意識に走り出していた。

まるで、その妖怪に恋こがれるように・・・

時速何十キロとスピードを出している車に、軽く追いつくぐらいの猛スピードで・・

人間を越えた尋常ではないスピードで走る空怪の顔は、得体の知れない笑みに溢れていた・・・

ウィーン・・・
黒いリムジンの窓は、閉ざされた・・・
車内に、甘い葉巻きの香りが立ちこめる・・・

『マザー・・・』

『計画どおりいったな・・・あの坊主は、妖怪を見ると・・少し理性が欠けるのか?・・』

『はい・そのようで・・でも、安心してください・・彼なら・・・』

『・・ん?・・そうか、お前の・・だが、まだまだ、安心はするな。これからだ・・まだ、アレは・・化け物の手にあるのだからな・・』

『そうですね・・申し訳ございません。・・全力で・・手に入れます・・』

『あの坊主・空怪か・・彼奴の能力は、空缶娘・・そして、あの赤神に通用するのか・・・』

『能力分析では、赤神と同じぐらいかと・・ですが・・持久力に少々問題が・・・』
くうちゃんは、持久力がないんです・・・

『ふん。ドーピングの成果か・・なら、妖怪点滴でも打って、このプロジェクトを完遂してもらわないとな・・・』

『はい。畏まりました。空怪にも、わたしどもの群れを監視にまわします・・・・』

『ウム・・・次はあの裏切りもの・・赤神の始末だな・・彼奴の動きは、まだ無いのだな・・
彼奴の動きは、よくよく監視しろ・・もし、動くようなら・・あの部隊を出せ・・それまで・・動かさなくてもよい・・・
痢煙の方は、どうだ・・今夜あたり動き出すはずだ・・・だが、痢煙は、フリーにしておけ・・
攻撃しても無駄だ・監視だけだ・・・あれは、人智を超えた行動を起こすからな。なんやそれ?失礼な(笑)
あれこそ、この世の最終兵器・・・そして美なる酒だ・・・』

『そうですか・・痢煙とは・・そう言う・・ヤツなんですか・・記録書を拝見しましたが・・本当に・・・そんな・・人間が・・・』

『下手に動けば、部隊は全滅だ・・今回のプロジェクトは、あくまでも・・魂の瓶が狙いなのだからな・・
痢煙は、無視しろ・・しかし、そうも行かないだろうが・・な・・・』

葉巻きの灰を、ポンと指で落とす・・・

命令された男の姿が闇夜に消える・・・

『行け、わが親愛なる羊よ・・・』

ブロロロロロロ・・・・
黒いリムジンもまた・・闇夜に消え去った・・・


つづく・・・