鈎針婆の章 おろし!! #48†巣の中で†

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「ウワー、酷イ有様デゴザイマース。」

手をwhy?のポージングをする男のシルエット。

また、微かにホワイトローズの香りがした。

『あ・・・行かないと』

空怪は、少し気を取られていたが、
その香りで、ふと我に返り、荷物をまとめる。

ここから出るために。

白い煙は、だんだんと落ち着いてきたようだ。

視界が良くなっていく。

空怪は、床に転がった筆を拾い、矢立にそれを仕舞う。

日記帳もその近くにあった。

しかし、「奇々怪々」が見あたらない。

何処へいったのだろう。

空怪は、床に膝を落とし手探りで辺りを探す。

白い灰が舞う。

床は、白い灰で覆われていた。

いや、床自体が、実は白い灰が凝固したもので、
先ほどの物体が通り過ぎた衝撃で、えぐり取られ、
空中に舞い上がり、そして、それが積もったのだった。

物体?・・・

空怪は、しゃがみながら、物体が通り過ぎた方を、目を細めながら見た。

すると、少し離れたところに、白いグランドピアノが床にめり込んでいる。

先ほど、あのシルエットが見えた辺りだ。もう視界は、正常である。

「ピ・ピアノカー・・かよ・・・」

空怪は、確信した。

やはり、アント&ローゼスがいる・・・

あの白い服で、白いバラを背負った奇天烈な男が!!

・・・・どこに!?

さきほどまで、ピアノカーがある辺りで、変なポージングと変なイントネーションで
叫んでいた男の姿が、いつのまにか消えていた。

「自力デ脱出スル・・方法ハ、未ダ見ツカッテイナイ・・
エット、ナニナニ・・次ニ」

「うわっ!!」

空怪は、慌てて振り返った。

空怪のすぐ後ろに、自称 白薔薇の貴公子がいた。

空怪の「奇々怪々」を読んでいる。

空怪は、慌ててアントの手から「奇々怪々」を取り上げた。
まるで、何かを知られたくないかのように。

「これは、拙僧の書物だ。勝手に触るな。」

空怪は、パンと本を叩き、懐に仕舞う。

「イイジャン、コノ前ハ、見セテクレタノニ!! You ケチダネ!」

空怪の顔をのぞき込むアント。
何かを見透かしたかのような目つきだ。

空怪は、内心バレたかと思ったが、平静を装い

「ああ、そうだったな、だが前は前だ。今晩は違う。ええと、アント、どうだ?
最近は、矢鴨ライダーには会えたか?・・・」

空怪は、そう言いながら辺りをキョロキョロと見渡す。
何かを探している。

出口・・・だ。出口を探しているのだ。

この信号蟲の巣から出るには、交代要員の信号無視者が必要。
それが、このアントだ・・知人が交代人として現れたのだ。

空怪の前に、この巣に入っていた人間は、すでに姿がなかった。
もう食べられていた後なのかもしれない。

空怪は、空缶娘に蹴り飛ばされ、
偶然、痢煙の耳にひっかかっていた鉤針婆の糸に触れてしまい、
その勢いで信号無視をしてしまった。

そしてこの巣に入った・・・

「サッキ会イマシタ!矢鴨ライダーニ。クソ!ガッデムデース!」

と、両手の拳を握り踏ん張るアント。

「・・んんん?・・どうした?」

上の空の空怪。

「マタシテモ、逃ゲラレテシマイマシタ!」

アントは、悔しそうに眉間にシワを寄せる。

「・・・そ、そうなんかあ・・」

挙動不審な空怪。

「気ガツクト、ココニ来マシタ。・・・ン?空怪、ドウシタ?」

空怪は、アントの話はどうでもよく、我を忘れたかのように出口を探していた。

時間がない。時間が止まってるような巣の中だけど、
これだけは、時間がない・・らしい。早く出口を見つけないと、閉ざされてしまう。

そんな不運になりたくない。今日はいっぱいいっぱいだ。

『しかし、ナゼ、コイツなんだ・・・』

空怪は思った・・・

アントは、赤靴少女の霊から痢煙を助けた後、
偶然にも目の前を通り過ぎていった 宿敵 矢鴨ライダーを追いかけていた。

アントは、無駄に回転しながらも、猛スピードで走る白いピアノカーに乗るが、
信号蟲が巣くう信号で、運悪く信号無視をしてしまい、
ピアノカーごと信号蟲の巣へつっこんだのだ。

空怪の方が、本当に悪くない・・本当に、信号無視をする気はなかったのだ。

「ど、どこなんだ!!いったい・・」

空怪は、どこにも出口が見当たらないことに、焦りを感じていた。

そんな時、トントンと空怪は、誰かに肩を叩かれた。

「誰だ?」

振り返ると、そこに 歩行者信号のマークのおじさんが立っていた。

そのおじさんの指が指し示す方向に、グリーンに光り輝く穴があった。

『青信号、出口だ』

空怪は、喜んだ。やっと出れるのだ。

バキューン!!

一発の銃声が鳴った。

その瞬間、歩行者信号のおじさんは、かき消された。

「アアアアッアントオオオオオオオオオオッーーーーーツ!!」

空怪は、振り返りながら吠えた!!

「バケモノデース。」

アントは、一発撃った白い銃に息を吹きかけ、ホルスターに仕舞う。

もう一度、空怪は振り返り、出口を確かめた。

「き、き、消えそうやないけーーーっ!!」

空怪は、走り出した。

歩行者信号マークのおじさんが消されたため、
出口が現れている時間が少なくなったのだ!

「オオオオオオッ!! グリーンライト! イグジッ〜ト。出口デスネ!!」

アントも、出口を見つけ、空怪の後を追う。

「アント、お前は出られないから走らないでいい!ついて来ないでいい。ハアハア。」

「別ニイイジャナイ?コンナトコ早ク抜ケ出シタイシ。ツイテ行クヨ!!with you!」

「いや、ダメなんだよ、ハアハア。一人しか出れない事になってるんだ、この信号蟲の巣は。」

「Why?一人シカ??・・ナゼデス?・・ン・?・今、信号蟲ッテ言いマシタヨネ!?」

「あっ・・・・」

「空怪イイイイッ ストーップ、ストーーップ、ストーーーーーーーーップ!!」

立ち止まり、右手で白い銃を構えるアント。

その殺気を感じ、空怪が、立ち止まる。

「ホールドアップ。両手頭ニネ。ソシテ、ドントムーブデース。マジ動クト撃ツヨ。」

アントは、ゆっくりと空怪に近づく。

「本気かよ・・・」

空怪、ゆっくりと両手を頭の上にのせる。

「本気デース。ズルイデース。奇々怪々デース。空怪ダケ出レルノ。ミー出ラレナイ。」

「ズルイって・・お前と交代というのが、ここのルールだからで。本にも・・」

「ソンナノハ許サンデース。空怪ハ、ココノコト詳シイ。ミー知ラナイ。
ダカラ出ルノハ、ミーデース。コレ常識。弱者優先デース。」

「お前にそんな道理が通るかよおっ!」

ヴァハッ!!

空怪は、手に隠し持っていた灰を、アントの顔に浴びせた。

「グアッ」

「しかし・・・すまぬ!」

空怪は謝りながらも、出口に向かって走り出す。

「目イターイ!!オノレレエエッ!!」

バキューン!!

アントは、目に灰が入ってるにもかかわらず、空怪に向かって銃をぶっ放した。

避ける空怪。

「当たるかよ!お前の弾なんかに。」

「コノマエハ、当タッテ痛ガッテタダロウガアアア!」

少しキレるアント。

バキューン!!バキューン!!

涙目で走りながら、両手に銃を構えて走るアント。

「お前の方こそ、わたしの拳をくらって、ヒンヒン泣いていただろがあ!ハアハア。」

だんだん、出口が小さくなっていくのが分かる。
消えてしまう・・・

「息上ガッテルゾ!ボウズ!!ハアハア」

空怪は、妖怪パワーが切れてきたのか、いつものように早く走れない。

「く、スタミナが切れてきたのか・・ハアハア、息上がってるのはお前もだろ!」

空怪は、懐からアルミパックに入った栄養剤を取り出した。

バキューン!!

アルミパックが粉砕する。

「ナイス!」

ニコリと笑うアント。

「この野郎!!」

最後の1パックを粉砕され、あまりにも腹がたったので、立ち止まる空怪。

「アアアア!!消エタ!!消エマシタ!!オーマイガ!」

「!?」

振り返る空怪。

すでに、グリーンの光は消え、出口は無くなってしまった。

「・・・・あああ・・・」

すごく落胆する空怪。

「ンデ?ドウシマスカ?」

平然と尋ねるアント。

「・・・・どうします・・だと。・・・こうするしかないだろう。」

ヴァハッ!!

空怪は、足で、灰を蹴り、アントにぶっかけた。

「ウアアツ!!」

ドスッ!!

「グッフッ」

アントの腹に、空怪の右拳がめり込む。

「時間は、いっぱいあるんだ。いつものように喧嘩しようや。」

そう、もう分かってるはずだが、空怪とアントは水と油のような間柄。

決して混ざりあう事はない・・・いつも何かしか喧嘩が起こる。

他から見たら、本当に殺し合ってるかのような喧嘩だ。

だが、二人の力は拮抗しているので、死ぬ事はないだろう。

殺し合いの最中で、お互いの友情を確かめているのかもしれない。

ようするにジャレあってるのだ。


ドスドスドス。

連打する空怪。

「ウアアアアアアアアッ」

ボディを殴られ、苦しむアント。

「雪男チョーップ!!」

ドガッ。

白い薔薇が舞う。

白い帽子が飛ぶ。

長い金髪が揺れる。

メタメタにされるアント。

「御伽ラリアート!!」

ドスーーーーン。

白い煙が上がる。

「弱いなあ、アント。銃拳法だったか?白桃の技もこんなもんか?」

「クッ、今日モ 師匠ノ事 侮辱シタ。今度バカリ ユルサン。」

バキューン!!
バキューン!!

「わたしが、弾に当たるかよ!」

バック転しながら弾丸をかわす。

ドガッ!

「コレガ 銃拳法ナンダヨ!!」

空怪の胸に、銃のグリップがめり込む。

弾丸は囮。

接近戦こそ、銃拳法の極意。

「グアハッ」

ドドーン。

白い煙が上がる。

背中からモロに床に叩き付けられた空怪。

二人は、もう灰だらけ。

その姿を遠くで、コソコソと見ている幼虫がいた。

それが、この巣の主 信号蟲。

二人は、喧嘩に夢中のため気づいていないのであった。


つづく・・・