鈎針婆の章 おろし!! #44†白薔薇の貴公子†

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霧に隠された歩道橋。
夜風に舞うホワイトローズ。

夜空に浮かぶ白いパラグライダーから、白い薔薇はバラ撒かれている。

夜空の花吹雪・・・

そのため、鼻がムズムズする。
もう我慢の限界である。

高足痢煙は、夜風にのる薔薇の香りで、今にもくしゃみが出そうになっていた。

「ハックショーン!!んっぐあはっ」

あ、出た。

グラリ!!

くしゃみのショックでバランスを崩す痢煙。

「うあああ〜うああ〜」

痢煙の髪を必死に掴んでもがく赤靴少女の霊。

痢煙は、手をグルグル回転させながら、なんとかバランスを取ろうとしているが、
もう限界であった。

落ちる!!

「うわっ・・ダメっ!」

ズルリッ!!

バキューン!バキューン!

銃声?!

そう思った瞬間、痢煙の頭が、ふっと軽くなった。

「あ!?」

その反動で、後ろに体制を崩す。

「うわっわ〜」

手すり(柵)から落ちる痢煙!

バン・・・・

「オオ〜ハニ〜」

無事、両腕でがっしりと抱きとめられた痢煙はキョトンとし、
歩道橋に足をゆっくりと下ろした。

目の前には、全身、白装束の男。

痢煙は、少し後ずさりをした。

『なんだコイツは?』

金髪ロングヘアーが風になびく。
白色カウボーイハットを深々とかぶる謎の男。

そのハットの下には、ブルーハワイのような青い目、
眉がキリリとした彫りが深い顔だちが隠されている。

『ん?どこかで見たことがある?』と、痢煙は思った。

長めのフリンジのついたホワイトジャケットに、金の刺繍が入ったパンタロン姿は、
"メキシカン"または"情熱のマリアッチ"を彷彿させる装い・・

見覚えがある。

薔薇と蟻が装飾された金の大きめのバックルが眩しく輝き、
アクアマリンのラインストーンがぎっしり詰まった太ベルトはどこかフェミニン・・

忘れられるファッションではない。

痢煙は、この男をよくよく知っている。

だけど、霧の中、しかも夜中だ。

酔っている。

だから見間違いということもある。

しかし、銀の丸鋲が無数にあるピンクレザーのガンベルトを
腰に巻きつけているガンマンなど、
やはり、あの男以外には、この世にはいないだろうと、痢煙は思った。

極めつけには、金色の拳銃と白色の拳銃、つまり2丁の拳銃を持ち、
片方の銃口に口づけをしポージングをしている・・・
もう確実にアイツである。

メキシカンガンマン、マリアッチの"情熱"以上に熱い熱い男。

これで、全身赤ずくめだったら、もう、熱すぎて見ているのも嫌である。
まあ、今のままの白ずくめでも、嫌ではあるが、白なら涼しく見えるので、まだ、マシだろう。

その男の背後には、先ほど空を飛んでいたパラグライダーが、風でバタバタとはためいていた。

夜間飛行。

空を飛んでいた奴である。

男は、自分とパラグライダーとを繋げている留め具を外した。

ブワッ・・・

薔薇が舞う。薔薇の花束を背負っている・・いつも。

名は アント&ローゼス。
孤高のピアニスト。
自称 白薔薇の貴公子と名乗っているが、
痢煙は、アントがいつもラーメンを食べ、爪楊枝をくわえていることから
『爪楊枝のアント』と携帯電話には登録している。

アントは、"伝説のコルトπソン"という銃を求め、
来日した超有名ピアニスト(アメリカでは)。

今夜は戦闘モード、ファッションでのご登場。

そんな装いからして、"マリアッチ"な雰囲気なのに、実はピアニストなのだ。
それもクラッシック。

"キラキラ星"をこよなく愛している。

来日するまで、アントは"化け物"との関わりは無かった。
だが、ある日、彼の身に、ある怪異が起こった。

それは、アントにとって最悪の日となった。

だが、その怪異をきっかけに、"強くなる事"をかたく誓った。

アントは探した。強くなる術を・・・

そして、ひとりの女性の下に辿り着いた。

中華人民共和国より来日した女性 白桃・ムウ・スン。(はくたお・ムウ・スン)

伝説の武侠の生き残りであり、スーパーモデル。

その女性の弟子となり、化け物と対峙する術を手に入れた。

白桃・ムウ・スンは、あらゆる武器・武具の精通者である。

彼女は、アントの潜在能力に、2丁拳銃の使い手となる資質があると悟り、
銃拳法という武術を教えた。

なんてことない、両手に拳銃を持って闘う拳法である。
殴ったり、突く事は、ピアニストなのでしない。

指を大切にしなきゃいけないの・・・

そのかわり、拳銃で殴る。拳銃で突く、拳銃で撃つ。
それに足技をプラスした、白桃銃拳法である。

そして、アントは2丁拳銃の使い手となった。

現在アントの武器は、どぶおちろから奪った2丁の拳銃。

南武式拳銃。警官が落とした拳銃だと言われている。

そう、どぶおちろから、銃を奪う事が最終試練であった。

実戦である。

ちなみに、当初、アントは改造銃(ガス銃)を使用していた。

苦戦の末、勝ち取った2丁の拳銃。

ひとつは、金色に塗装された拳銃と、もうひとつは白色に塗装された拳銃。
アント&ローゼス ニューナンブオリジナルカスタム!

弾丸は、対化け物用に考案されたもので、清酒カプセル弾(テキーラバレット)、
塩カプセル弾(ソルティドッグ)の2種類を主に使用している。
他にも、ブラッディーマリーなどと呼ばれているバレットもあるようだ。

また、彼は、大のラーメン好きである。
そして、白桃・ムウ・スンもかなりのラーメン好きである。

アントは、師とともに日本全国のラーメンを食べ歩き、かなりのラーメン通となったため、
日本でのピアニストとしての活動は、黒死(こくし)のカフェのみとなった。

本人曰く「ラーメンダイスキ!ピアノハスキナトキニ!グッジョブ!」・・だと。

痢煙は、キョトンとしたまま、アントのポージングを眺めている。

「危ナカッタネ、ハニー」

アントは痢煙の事をハニーと呼ぶ。

「あは」

痢煙は、笑った。

ゴールドナンブの銃口で、クイっとハットを上げた。

ブルーハワーイの瞳が、キラリと光った。

「爪楊枝のアントだ!あは、どうしたの?ねえ、なんで、こんなところにいるの?」

「ハニー、危険カラ救ウタメニ、ミーハ、アラワレタ!」

「危険?ぎゃは、何それ〜おもしろ〜い。」

痢煙は、先ほどまで自分が凄く危険だったって事をすでに忘れている。

「ハイ、冗談デース。デモ、元気ソウデ良カッタデ〜ス。」

アントは、2丁の拳銃を、クルクルと回しホルスターに戻した。

そして、痢煙の側により、痢煙の顔を覗き込んだ。

『今夜モ、スゴク酔ッテイルノデスネ・・・ハニー・・・』

アントは少し寂しそうな表情をし、痢煙のテンションを理解した。

アントは、痢煙の事をよくよく知っている。

朝と夜との人格の違いを。

性格にいえば、アルコールが入っているか、入っていないかではあるが・・・

アントにとって、どちらの人格も"痢煙は、痢煙である"と認識はしているが、
やはり、アルコール・ハイ、トランス状態の痢煙とのコミュニケーションは、
非常に難しい。できれば、ノンアルコールハイの痢煙に会いたかったと思った。

「ソレニシテモ、コンナ、ミッドナイトニ、ハニーハ何処ニ行クノデスカ?」

両手を広げて"Why?"ポーズをするアント。少し眉間に皺をよせた。

「うんとねえ、赤神とねえ、約束があってねえ。これから行くんだ。」

空を見上げる痢煙。

「アッ・・アカガミ!?エエ!? 赤神??」

アントの心に衝撃が走る。

「うん、赤神だよ。」

ニコリと微笑む痢煙。

「オウマイガッ!」

瞳をとじ、天を仰ぐアント。

「府絵巣手井馬屡門(フェスティバルゲート)に行くんだ」

その幽遠地がある方向を指さし、アントにトドメをさす痢煙。
フェスティバルゲートも、もちろん実在します。
半屋内遊園地なんですが、またもやその漢字だらけの名前は一体(笑)

「ガーン・・アンマリデゴザル・・・」

手すりに手をのせ、落胆するアント。

「あんまりでござるう〜あははは〜おもしろーい」

腹をかかえて笑う痢煙。この場の雰囲気は異様である。

「ド、ド、ド、」

明らかに、ショックの色が隠せないアント。

「どれみふぁそらしど〜」

手すりをピアノのように見立て、演奏する振りをする痢煙。

「イヤ・・・」

深刻な表情を浮かべるアント。

「いやいやイヤ〜ン。」

落胆するアントの耳たぶをひっぱって、はしゃぐ痢煙。

「ドウシテ・・・コンナ、夜中ニ、幽遠地ニ行カレルノデスカ?」

恐る恐る、顔をあげて、訪ねるアント。

「それは言えないの〜あは。」

あっさり言う痢煙。

「エエエ〜ッ!言エナイッテ!ソンナ〜」

肩を落とすアント。
頭の中でグルグルとマイナスなイメージが浮かぶ。

痢煙と赤神の深夜のデート。

『そんなのは嫌だ。嫌だ。嫌すぎる。』

「仕方ないな〜アントも遊びたいの?肴ちゃんの魂をね、あの世から戻すんだあ。」

「エ?」

アントの表情が少し明るくなった。

「肴サンの魂ヲデスカ?」

「うん、わくわくするよ〜。あの世から戻るのよ〜素敵。なんたって、わたし経験者よ〜あは。」

痢煙は、錐女に連れ去られ、あの世で魂を"痢煙焼き"にされた経験がある。
それが、今夜は、もう楽しい思い出になっているようだ。
あの時、必死に頑張って、二度と痢煙をあのような目には会わしたくないと思う、
赤神の苦労はいったい・・・

「オウ!グレート!!反魂法ヲスルノデスネ!」

手を叩くアント。
もう、安堵の表情を浮かべている。

「アントもどう?カモーン!」
親指を立て、ウィンクし舌を出す痢煙。

「ドキューン!!」
アントの心臓はまたしても撃ち抜かれた。

「ハニーノ行クトコロナラドコデモ〜」

「あ〜もう一回、あの世に行きたいな〜あははは〜」

「ソ・・ソレハ・・・」

あの世に行く、イコール死ぬ事。
アントは、それは嫌だと思った。

「あ、ところで、あの子何処へいったの?」

「アノ子?」

「うん、さっきね、わたしと、尻相撲してた女の子。」

「スモウ?サッキノ、女ノ子ノ幽霊デスカ?」

「あは幽霊?あはは。アイアム チャンピョーン!」

手すりに、飛び乗って拳を上げる痢煙。

「アアア!キケンデ〜ス!オリテクダサーイ!!」

駆け寄るアント。

ドン、素直に降りる痢煙。
でも、すぐに、違う方の手すり(相撲をしていた手すりとは逆)に飛び乗る痢煙。

「あ、アント見てみて、道路にさっきの女の子が座ってるよ!」

痢煙は、手すりの上でしゃがみ込み、下を覗き込んでいる。

「危ナイデスヨ〜」

「ン?」

「半透明だね。あの子。すごーい、どうやってするんだろう半透明。」

痢煙の腰に手を回し、ゆっくりと手すりから痢煙を降ろすアント。

「あ、車に敷かれた・・・」

まだ、下に興味があるようで、覗き込む痢煙。

「幽霊ダカラ大丈夫デ〜ス。」

笑いながら答えるアント。

「あああ!!アント、アント、見て!見て!変なモノ来たよ?すごーい!鴨だ!鴨」

手すりをバンバン叩いて興奮しはじめた痢煙。

「鴨!?」

アント、痢煙の横に並ぶ。

「矢が刺さってる巨大な鴨に、黒い人が乗ってるよ!ホシイー!」

松竹梅田方面より、バイク、ナナハン以上の大きさの鴨が、もの凄い早さで近づいて来た。

「ヤ・・ヤガモ・・ライダー・・・」

アント、表情が一瞬で曇る。

「矢がも〜わたしも乗りた〜い。いいな〜」

楽しそうに見つめる痢煙。

「ハニー、ゴメンナサイ。今夜ノデート、行ケナクナリマシタ。」

アントは寂しそうな表情をうかべ、
何処からか、ピアニカぐらいの大きさのキーボードを取り出した。

「あ、行っちゃうよ〜矢がも〜」

歩道橋の下を、猛スピードで通りすぎる矢鴨ライダー。
赤靴少女は、道路にしゃがんで、自分の靴を眺めているので、やはり、
矢鴨ライダーに撥ねられた。

取り出したキーボードで、急いで"キラキラ星"を演奏するアント。
めちゃくちゃ焦っている。
天才ピアニストの指が震えている。

「ああ〜キラキラ星だ〜!アント、もしかして!?」
振り返る痢煙の目がキラキラしている。

『アア〜何テカワイインダ〜ハニー・・・イカン・イカン!』

またしても、痢煙の可愛い表情に心を撃ち抜かれたアントだが、
今はそれどころではないようだ。

「ピアノカー!?来るの?来るの?」

痢煙は、跳ねてよろこんだ。

矢鴨ライダーが来た方向から、
また、何かおかしな乗り物が、もの凄いスピードでこちらに向かって来た。

ピアノカー。

アントの乗り物。

真っ白なグランドピアノ。
自動演奏、遠隔運転機能付き、もちろん高級椅子付き。

どういう仕組みで走っているのかは、分からない。
常識をはるかに越えた乗り物。

百歩ゆずって、そういう乗り物があるんだと自分に言い聞かせても、
無駄に回転し続けて走る走行スタイルには、誰もが首をかしげるだろう。

"普通に車でいいやん・・・"

このピアノカー、ハンドルは何処にも無い。
あるのは、鍵盤。
普通のグランドピアノとなんら変わらない。

そう、このピアノカーは、鍵盤がハンドル、アクセル、クラッチの役割をはたしている。
運転方法は、ピアノを奏でる事。
どの鍵盤を叩けば、右へ曲がるのか、左へ曲がるかは、不明だが・・・
それは、アントだけが、知っている。

アント専用のピアノカーだ。
この世にひとつしかない乗り物。
今、アントのリモコン操作(小ピアノ)で動いている。

そんなピアノカー、夜中とはいえかなり目立つ。
道路には、ごく普通の人間が乗る、ごく普通の車が、たくさん走っている。

対向車、後ろの車、横の車。

そのすべての運転手が、自分の目を疑った。

『巨大矢鴨の次は、ピアノかよ・・・』

遊園地にあるコーヒーカップのように、
グルグルと回転して走るグランドピアノは、
そんな目を疑う人々の車を尻目に、持ち主のアントがいる、歩道橋へと向かって来た。

「アント、矢がも捕まえてくるの?」

「オ〜イエス。ミ〜ノ宿敵矢鴨ライダーデス。」

「あっそ、いってらっしゃ〜い。ぜったい矢鴨捕まえてね、そしてわたしに頂戴ね。」

「OKデ〜ス。イッテキマース、チュッ。」

痢煙に投げキスをし、歩道橋から飛び降りるアント。
その下には、ピアノカー。

痢煙が、見下ろした時には、すでにピアノカーは、アントを乗せ、無駄にグルグル回転しながら走り去って行った。

結構スピードは速い。

「あ、そうだ、もう行かなきゃ・・遅れちゃうよ」

痢煙は、下を見るのを止めて、歩き出す。

しばらくして、階段の近くで足を止めた。

「あ、あああ〜」

痢煙は、歩道橋の上にある白い塊に、過剰に反応した。

「ぱらぐらいだー」

駆け寄る痢煙。めちゃくちゃ楽しそうだ。
パラグライダーは、手すりに引っかかっていた。

「これを、こうして、うんと、こうすれば・・あは、出来た。」

パラグライダーを体に装着する。
何をする気なんだ?

まさか!?

突如、痢煙は、走り出した。

「きゃあああああああああ!!」

奇妙な声を張り上げて・・・

助走だ。助走をしているのだ痢煙は。

痢煙は、アントの捨てたパラグライダーを何故か完璧に装着している。

シュダ!!

「きゃああああ、スゴーイ!」

あんたが凄い・・・

痢煙は、歩道橋から飛び降りた。

急降下で落ちる痢煙。

飛べるのか?高々、歩道橋の高さではないか?

自殺行為ではないのか?

しかし、奇跡が起こった。

痢煙の場合、奇跡と呼べないのかもしれないが・・・

突風が吹く。

それは、もの凄い勢いの風。

地面すれすれの所で、パラグライダーが舞い上がる。

ブワアアアアー。

風は、ある方向に流れている。

ここからは、何キロも離れている所・・・

空を駆ける女に向かって・・・

まだ"泣き"はしていない、雨女酸性。

雨女酸性が、もの凄い勢いで雲を集めている。

風が、雲を運ぶ。
パラグライダーを運ぶ。
痢煙を運ぶ。

空中でバタアシをする痢煙。

決して脅えていない痢煙。

むしろ、大はしゃぎの痢煙。

「ばぶえうぼーん!!ぎゃははは〜」

空を舞う馬鹿な女。

もう、すでに、痢煙は忘れている。

何を?

赤神との約束を。

行くのではなかったのか?

向かうのでは、なかったのか?

約束の地、フェスティバルゲートへ。

風は何処に向かう?

彼女は何処に向かう?

やみくもに空を駆ける雨女酸性と
風に身を任せる痢煙は、どんどんと空高く舞い上がって・・・行った。

その姿を、呆然と見る赤靴少女の霊。
半透明で、まだ道路に座り込んでいる・・・

こうもあっさりと忘れさられた少女は、
痢煙に落とされた赤い靴を大事に抱いたまま、
少し寂しそうな顔をしていたのであった


つづく・・・


ほんまに何てバカなんだ痢煙(笑)