鈎針婆の章 おろし!! #43†赤靴少女の霊†

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歩道橋を見上げる高足痢煙。

「ふう・・億劫。」

この階段を登らないと、交通量の多い十字路を横断する事は出来ない。
深夜なので交通量はさほど多くはないが、それでもこの歩道橋を渡らないと危険である。

痢煙は、階段を一段登る。

「ばくやすうう〜ふい〜。あはははははは〜」

何がそうおかしいのかは、分からないが痢煙は、意味不明な言葉を発した。

もちろん意味はない。

それでも痢煙は満足なのである。

たとえ肉体が、近所のコンビニの冷凍庫に保存されていたクローンであっても、
魂がどっぷり酒漬けになっていたとしても、
酒野肴の魂をあの世に送ってしまった張本人だとしても、
高足痢煙は、人生を満喫しているのである。

本日、赤神と一緒に、酒野肴の魂をこの世に戻す重要な日だとしてもだ・・・・

「あはははは〜あれれ〜あんなところに靴があるう〜おっかしいなあ〜あははは」

ゴン!ゴン!ゴン!

足で歩道橋をガンガン蹴る。
公共物を足蹴にする女。

きっと、蹴る事によって、歩道橋の手すり(柵)に置かれた靴を、
下に落とそうとしているのだ。

ワルである。

痢煙は、すでに歩道橋を登りきった。
初めは、階段を登ることに億劫だったが、登るにつれ、
階段を登る行為が何故か楽しくなり、最後には三段飛ばしで駆け上がっていった。

そして、夜風を楽しんでいる。

酔ってる女には、至福の風。

長い髪が風にふかれる。
恐ろしいほど長い髪が・・・

洋式トイレで用をたす場合、十分に注意しなければならない長さの髪を・・・
和式もです。

グイ・・・

その長い髪をいきなり、誰かにひっぱられた。

「いたいい〜ん・・・もうっ!だれ〜やめてよ〜」

痢煙は、ちょっとムっとした。

それでも振り向かない。

ゴゴゴゴゴ・・・よからぬ気配が歩道橋上に・・・

すーっと霧が広がりはじめる・・・

また、グイとひっぱられた。

首がガクンっとなった。

「あははっは〜首、ガックンだって〜おもしろ〜い!」

気に入ったのか、自分で首を、上下にガックン、ガックン振り出して遊び出す痢煙。

それでも、後ろには振り向かない。

痢煙ペース。

霧はどんどんと濃くなって、もう歩道橋から下の景色は何も見えない。
まるで雲の上にいるような感じだ。

そして、またグイっとひっぱられる。

しかし、今の痢煙には、ひっぱられたかどうか分からない。
まだ、自分で首をガックンガックンして遊んでいるから・・・


「 わ た し の く つ ・・・ 」

突如、か細い声が・・・

痢煙、さすがにこれにはちゃんと反応した。

振り返ると、小さな女の子が目の前に立っている。
痢煙の髪をしっかりと掴んで・・・

黄色い帽子。
血で汚れた白いブラウスの赤い吊りスカートを履いた少女。

痛々しい傷跡。
純白のブラウスに浮かぶ血の水玉模様、それは数十箇所刺された傷の痕。

名札を着けているが、血で汚れいるため、書かれていた文字は、ほとんど読むことは出来ない。

ただ「いちねん」とだけ・・・

靴は片方だけしか履いていない。

赤靴少女の霊。

この歩道橋の上で、何者かによって腹、胸など何十箇所も刺され、
最後には、歩道橋から突き落とされて殺された小学1年生の女の子の霊。

残酷な事件の被害者。

遺体は、数台の車にひかれて、相当めちゃくちゃな状態ではあったが、
"人間の形"のまま親の元へと還された。

しかし遺留品の中に、どうしても見つからないものがあった。

それは、赤い靴。
一足だけ、どうしても発見する事ができなかった。

警察、検察官らは、少女が落下の際に、歩道橋の下を走る車、トラックなどの積み荷などに、
紛れてしまった可能性があり、遺留品の発見は難しいという見解に至り、遺留品の捜索は終了し、捜査も終了したという。

入学式、新しい赤い靴を買ってもらって、めちゃくちゃ喜んでいた矢先の事件だった・・・

しばらくして奇妙な事が、この歩道橋で起こると噂されるようになった。

夜も更けたころ、この歩道橋をひとりで渡ると、
急に霧が出始め、そして、どこからか少女の声がする。

「 わ た し の く つ ・・・ 」


振り返ると、靴を探す少女が、一足しか履いていない少女がひとり、
うらめしそうな目をして立っていると・・・

・・・まったくその通りの事が今起こっている。


だというのに、だというのに・・・高足痢煙は、全然驚いてはいない。

「あっそうなの?ごめ〜ん。あれ、さっき落としちゃった〜あははは。」

そっけない返答。

まさに幽霊殺し!

まったく気にしない。

怪奇現象なんか、まったく気にしない。

ガーン・・・動けない少女。

まるで幽霊の方が金縛りにあってるようだ。

それは、痢煙ペース。

酒が入っているから 痢煙ペース。

アルコール・ハイ。

いつもなら、脅える人間を追いかけて、階段から落としたり、
抱きついて歩道橋から落とす赤靴少女の霊だが、今回はそうもいかない。

痢煙は、怖がっていないのだから・・・

普通ではない。

人の恐怖を糧にして霊は存在するのに、この女にはそれが通用しないと、
小学一年の少女の霊は、霊なのに痛感したのだった。

これは力技じゃないとダメという事を・・・この女のペースに乗ってはイケナイと。

ヒョイっと歩道橋の手すり(柵)に乗る赤靴少女の霊。

「あは?平均台するの?」

痢煙は手をたたいて喜ぶ。

「わたしもするう!平均台!落ちたら負けね?」

落ちたら死にます・・・

「よ〜し!」

何やら気合いを入れ、腕まくりをする痢煙。

もちろんすでに、めちゃくちゃ危険な歩道橋の手すりの上に立っている。

もちろん千鳥足でフラフラなのに、何故かバランスがいい。

そして、何やら片手を上下に振りはじめた。

「じゃ〜んけ〜んで〜ほ〜いの〜サッポロビ〜ルの〜屁の〜か〜っぱ〜」

じゃんけんだ。

いきなり、じゃんけんに持って行った。

「正義はかつうううっ!」

"ぱあ"を出す痢煙。

反応出来ない赤靴少女の霊。

「ふふん。わたしの勝ちやねえ〜」

赤靴少女は自分の手を見た。

痢煙の髪をしっかり握っているので、まさしく"ぐう"であった・・・

・・・"ぐう"なのだろうか・・・

ドン!

いきなりお尻に衝撃が走った。
その瞬間、歩道橋の手すり(柵)から脚が離れる赤靴少女の霊。

しり・・・尻相撲!? ええええええ!?先手をうたれてしまった少女の霊。

痢煙は、おもいっきり尻を突き上げている。手すりの上でバランスをとりながら・・・

負けたのか? わたしが、この女を引きずり落とすはずだったのに・・・

少女は落ちる最中に思った。

そして、あの時の恐怖を思い出した。

殺されたあの時の恐怖を・・・

落ちる感覚。意識が薄れながら落下した記憶。

刺された痛みよりも強い、落下の恐怖。

そして、激突の際に感じた一瞬の激痛。

すべてが甦る。

『もう二度と落ちたくないよ・・・怖いよ。』

その瞬間、腕に力が入る。

手には、痢煙の長い髪。

ガクン・・・

「いたあああああああああああいっ!!」

痢煙の髪で、落ちる事を免れようとしている。
幽霊なのに・・飛べることをすっかりと忘れてしまった。

夢中に髪にしがみつく赤靴少女の霊。

振り子のように揺れる。

連獅子のように、痢煙の首はぐるんぐるん。

本当なら、このような状況も楽しみたいのだが、これには、さすがの痢煙も我慢が出来ない。

痛すぎたようだ。

髪の毛の束で、少女ひとりを吊るすのは至難の業。

幽霊だけど、恐怖あまり、重力の操作を忘れてしまっている。

髪が数本、数本と重みに耐えれずに、プチプチと切れ始めた。

ヤバイ・・これは本当にヤバイ・・・なんとかしないと。

早く彼女を吊り上げなければ!

「うらああああああああっくすう!!キューティクルウウウッ!!」

意味不明?だが少しわかるような言葉を発し、気合いを入れる痢煙。

しかし、その気合いが、空回りし、余計に振り子状態が激しくなった。

「大ピーンチ!ハゲになるよう!これじゃあ、"るとさのネタ"になるようっ!」

今夜は、釣られたり、吊ったりと散々な痢煙。

"じゃんけん"のかけ声のように、"かっぱ"となるのか?

"かっぱ伝説"がこの地で生まれるのか?

「落ちたくない」と、もがく赤靴少女の霊。
「抜けたくない」と、もがく高足痢煙。

ジリジリと首の力が重みに負けはじめ、足場が危うくなりはじめる痢煙。

落下するのか?

痢煙は、少なからず人間。

落下したら死ぬ。

どんなにラッキーガールだとしても、この高さからでは助かる事はないだろう。

夜風が吹いた。

ヤバイ・・鼻がムズムズする。

白い花びらが風に運ばれる。

花吹雪。

花びらが鼻先をかすめてゆく。

ヤバイ・・くしゃみが出そうになる。

極めつけに、薔薇のかおりが漂いはじめる。

花粉・・・

こんな時に、花の香りは酷である。

まさにヤバイ・・出てしまう。くしゃみも足も。

今くしゃみが出たら、真っ逆さ〜ま〜に落ちてしまうデザイア♪

痢煙はこらえ、空を見上げる。

夜空には、白のパラグライダー。

これも冷静にヤバい。深夜にパラグライダーはないだろう・・・と痢煙は思った。

が・・・今頃になって冷静? そう今頃に冷静になる痢煙だが、

くしゃみは、もうそこまで出そうになっていた。


つづく・・・


何てバカなんだ痢煙(笑)どんどんおかしくなって行くよ!
ここに出て来た歩道橋も、実在のものがモデルになっています。
随分昔のこと、夜中にこの歩道橋を渡っていた少女が刺殺される
という事件があり、恐ろしかったものです。
それが元ネタになっていますね。