鈎針婆の章 おろし!! #42†雨と穴†

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黒丸が叫んだ。

黒い矢が飛ぶ。

鋼丸が手を伸ばす。

ファットマン・出玉が膝を落とす。

赤神の手が、小太刀の柄から離れる。

ビクっと激痛が走る。

腹部に突き刺さったハイル・ウニクロの腕。

決してこれを引き抜かれてはいけない。

腸を引きずり出される。

ハイル・ウニクロの長く伸びた腕、
それを力一杯に掴む赤神の顔は苦痛に歪む。

血がドクドクと腕を伝って流れ落ちる。

パッ・・パッ

その血が、空で弾けた。

黒い影が走る。

黒い矢。夜の矢。

ひとつの矢が、ハイル・ウニクロの腕の肉を削ぐ。

「ウアアアアアッ」

黒丸が吠える!

ハイル・ウニクロの腕を貫くことが出来ない。

外れた矢は、ファットマン・出玉の首に深く突き刺さる。

赤神までの距離500メートル。

すかさず、矢を射る黒丸。

もっと近づかなければ、赤神のもとへ。

黒丸は疾走する。
持てる矢を全て放つかのように、無数の黒い矢の雨を降らす。

地面を這う鋼丸。

ファットマン・出玉の肉にささった小太刀に手を伸ばす。

ズバッ!

腕が飛んだ!

鋼丸の腕が!!

"鋼鉄の硬さ"ともいわれる鋼丸の腕が飛んだ。

8体のハイル・ウニクロの腕が一斉に伸び、一本の鋼丸の腕を一瞬の内にもぎ取った。

残された腕は、s字に曲がった左腕のみ。

鋼丸、その腕を、刀のように振り下ろす。

瞬時に、腕を戻すハイル・ウニクロ。

ギャン!!

金属音が響いた。

S字に曲がった腕に、2本の腕、2人のハイル・ウニクロの腕が絡まる。

黒い矢が降り注ぐ。

動きを封じられたハイル・ウニクロの2体の身体に、数本の矢が突き刺さる。

再度、伸びるハイル・ウニクロの腕。

赤神に迫る。

矢を放ちながら疾走する黒丸。

その後方から、恐ろしい勢いで真っ黒な雲が近づいて来た。

「来いっ」

赤神が静かに呼ぶ。

呪によって『紅葉揚羽』が、ファットマン・出玉の肉から離れ、赤神の手に戻る。

そのショックで、ファットマン・出玉が覚醒する。

ギャン!!

火花が散る!!

赤神に突き刺さったハイル・ウニクロの腕が、肘あたりでぶった斬られる。

腕を切り落とされ、バランスを崩すハイル・ウニクロ。

渾身の力を振り絞っての一刀。

力むことによって多量の血が腹より吹き出す。

ブシュウ・・ウ・・ウ・・ボトボトボト・・・・

跪く赤神。

赤神の目の前にいるファットマン・出玉がゆっくりと立ち上がる。

それを見上げる鋼丸。

「ハイール・ビニーーールッ」

雄叫びをあげ6体のハイル・ウニクロが一斉に飛び掛かる!

バババッ!!

スパーーーーーーーークッ!!!!

視界が一瞬で真っ白になる。

稲光。

空を何者かが駆け抜けた。

「うわーーーーーーーーーーんっ」

それは、女の叫び声。

雷鳴よりも大きな声。

その後、もの凄いスピードで雨が迫って来た。

ザザ・・ザザザザザザ・・・・

それは、まるで雨の壁。
迫り来る雨の壁。

一見、黒丸が、その雨雲を引き連れて来たかのように見えるが、
そうではない。

ただ、向かう方向が、黒丸と同じであるだけだ。

恵みの雨になるのか!?

鋼丸が、首を振る。

うつむいたままの赤神。

天を仰ぐファットマン・出玉。

飛び掛かるハイル・ウニクロもまた、自分たちの上を駆け抜ける女を目で追った。

無我夢中で駆けぬける女。

女の目には、下界の闘いなど目に入っていない。

泣く事に精一杯。

雨女酸性。

雨を降らす女。

彼女は、直径100メートルの雨雲を引き連れながら、ものすごく号泣している。

彼女の感情とリンクする雨量。

滝のような雨が、闘いの場に激しく降り注ぐ。

ザバーーーーーーッ

"バケツをヒックリ返したかのような雨"どころではない。

霧雨のような細かい雨の中、何本もの水柱が、雷のように地面めがけて
もの凄い勢いで落ちる。

ズババッ!ズババッ!ズババッ!

宙を飛ぶハイル・ウニクロも、その雨、水柱に巻き込まれ、
地面に叩きつけれた。

ザババババッバーーーーン。

『一体、何が起こってるというのだ?』

鋼丸が気を取られる。

ドゴッ!!

「ぐあはっ」

ファットマン・出玉に、脇腹を蹴られ、崩れ落ちる赤神。

その赤神に雨の柱が襲う。

鋼丸が飛ぶ!

ガバッ!

赤神を包み込むよう鋼丸が上に乗り水柱を身体で受け止める。

水圧がのしかかる。

スバババッ!!!   ジューアアアアアアアアッ!!

「ぐああっ!」

背中に激痛が走る!

肉が溶けていく。

酸の雨だ。

もの凄い強烈な酸。

水柱、その何本かに一本、強烈な酸の柱があるようだ。

「ぬぬぬぬっ!」

肉が溶けようが、赤神の身を庇う鋼丸。

ファットマン・出玉も、この酸の雨のせいで、赤神に近づけないでいる。

ある意味、びびっているファットマン・出玉、ハイル・ビニールたち。

一方、黒丸は、酸の雨にたじろぐ事なく走り続けた。
目の前の、二人の危機を救うためには、躊躇している暇はない。

走らなければ!

雨は冷たく、息も白くなる。
天候が一瞬にして変わった事により、戦況も変わりつつある。

数で絶対的有利であったハイル・ビニールだが、
雨によって動きを封じられた。
飛び掛かることが出来ないでいる。

これは、チャンスである。

だがしかし、赤神側にも、この雨は非常に厳しいものであった。
出血が酷く、意識の無い赤神、そんな赤神の体温を容赦なく奪う冷たい雨。
そして、一番の脅威が身体を溶かす酸の水柱の存在。
鋼丸は身を呈して、酸の雨を防ごうとしているが、そう耐えられるものではない。
赤神の意識が戻るまで・・・
それまでに、ハイル・ビニールが動かなければ勝機もあるが・・・
赤神は項垂れたままだ。

酸の水柱、意識不明という理由で、双方とも動けないでいる。

よって、しばしの膠着状態が続くのかと思われたが・・・

ザバ・・ザババ・・沈黙、膠着は一瞬だけであった。

動けないハイル・ウニクロは、己の腕のみを伸ばして、赤神の頭部を狙う。

「くっ!」

全速力で走る黒丸。あと200メートル。

鋼丸は、なおも酸の柱を受け続けている。
その下の赤神、意識はない。死んだように倒れている。

黒丸が、脚を止めることなく弓を構える。

キリキリキリ・・・

最後の一矢。

「射止めなければっ!」

すでに、ファットマン・出玉も、赤神を殺せる間合い"必殺の間合い"に入っている。

敵は2体。矢は1矢しかない。

これでは防ぐことが出来ない。

「動けるかっ!?」

黒丸、鋼丸にテレパシーを送るが、反応がない。

このままでは、赤神の頭部が、ハイル・ウニクロの腕によって粉砕されるか、
ファットマン・出玉によって、身体をまっぷたつにされるかのどちらかだ。

どちらも"させる"わけにはいかない。

最大の危機が迫る。

フッ・・・

その時、黒丸の視界に何かが!!


青く輝く閃光。 

ブアッ!!

その中に立つ 白い布を纏った女。

ブアッ!!

0コンマ1秒に、その女は存在する。

ブアッ!!

「あっ、あれは!!」

その瞬間、黒い矢は放たれた。

黒丸の直感。

ビュ!    

ハイル・ウニクロの伸びる腕が止まる!

後ろに飛ぶファットマン・出玉!


ガッツ・・・

矢が突き刺さる。

矢は、ハイル・ウニクロでもなく、ファットマン・出玉でもなく
その2体の、丁度真ん中ぐらいにある青く輝くマンホールに、深々と突き刺さった。

外したのか?・・・違う・・・あきらかにマンホールを狙って放ったものだ。

見事にマンホール"大阪城の天守閣"に突き刺さっている。
大阪の街中にあるマンホールには、「大阪城の天守閣」の柄が彫刻されてます。

「!?」

ハイル・ビニールたちの動きが止まった。

ハイル・ビニールたちも感づいたのだ。

この怪徴に・・・

「マンホールだと・・・」

青く輝くマンホール。
突然マンホールが青色に輝く事は、この街ではよくある事だ。
そう、よくある事だ。
ないよ(笑)

青色マンホールは、怪異の前触れ。
そのマンホールに決して近づいてはいけない。
そして、ぜったいにそのマンホールを傷つけてはいけない。

なぜなら、その青色マンホールには、何かが潜んでいるから・・・


この付近のすべてのマンホールが青色に輝きだした。

シュッ!シュッ!シュー!

スチームが勢いよく吹き出し、マンホールの蓋が、一斉に空に飛ぶ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・ギュン!ギュン!ギュン!

無数のマンホールの蓋が飛び交うフリスビー地獄!

雨脚はおさまってきたが、逆に、今度は頭の上を、数えきれない数の"鋼鉄の蓋"が、
もの凄いスピードで宙を飛び交った。

ドゴッ!

一体のハイル・ウニクロの胸板に、鋼鉄の蓋がめり込む。

バキ!

ドゴッ!

ガギッ!

次々と鋼鉄の蓋の餌食になるハイルビニール。

上空を駆ける女の泣き声は、もう聞こえない。

代わりに空を切る鋼鉄の蓋の音。

ギュン!ギュン!ギュン!

ドガ!ドガ!ドガ!

何枚もの鋼鉄の蓋を受けるファットマン・出玉。

「ブルブルブルウウッ!」

持ち前の脂肪が、"鋼鉄の蓋"威力を半減。

脂肪の鎧。

ズルル・・

そのめり込んだ鋼鉄の蓋を手にし、
再度、意識の無い赤神に近づく。

「グフフフフ・・・」

背中を酸で溶かされた鋼丸、ファットマン・出玉の接近を察知し、
倒れ込むようにしてファットマン・出玉にタックルを試みる。

ガン!!

手にした鋼鉄の蓋で、右頬を叩かれ、鋼丸は倒された。

ファットマン・出玉の足が止まる。

鼻息が荒い。

力をこめる。

振り下ろす鋼鉄の蓋。

意識の無い赤神。

「うああああああああああああああっ!」

水しぶきがあがる!

ザバババババババッ!!!

地面を滑る黒丸!

スライディング、水しぶきを上げて。

ギュン!ギュン!ギュン!!

黒丸を狙って降り注ぐ無数の鋼鉄の蓋。

「鋼丸!」

「黒丸っ!!」

ドガ!ドガ!ドガ!ドガ!ドガ!

地面に突き刺さる蓋、蓋、蓋。

滑走する黒丸。

シュバ!

「くうっ!」

黒丸、意識の無い赤神の腕を掴んだ。

地面を滑りながら。

目と目が合う黒丸と鋼丸。

ガッッツン!!

火花が散る!

アスファルトが割れる!

鋼丸が叫ぶ!

「逝くのか!」

ギーーン!

金属の音が鳴り響く!

痺れるファットマン・出玉の腕。

滑り去る黒丸と赤神。

一歩遅れて地面に突き刺さって行くマンホールの蓋。

振り返るファットマン・出玉。

目を閉じる鋼丸。

「さらば・・・」

黒丸と意識の無い赤神は、地面にぽっかりと空いた穴へ吸い込まれるように
落ちて行った。

それは、マンホールの穴。あの女の穴。

意識のない赤神を、鋼鉄の蓋から守れる唯一の場所。

黒丸の直感。そして救出。


ガラン・・ガラララララララン・・・

マンホールの蓋は閉ざされた。


つづく・・・